21 ブロンズランクに向けて
21
拠点に移り三ヶ月が経った。
喫緊の問題は“稼ぎ”がない、ということだ。
蓄えはある。
魔王城の遺品の売却額は拠点整備に回しても唸るほどの額が残っているし、なんならまだ売り切っていない物だってある。
しかし収支は三ヶ月連続常にマイナス。
最初の一ヶ月は良い。
二ヶ月の途中ぐらいからイエローシグナルが頭の中で警鐘を鳴らす。
理由は二つある。
一つはグレイスの成長スピードが予想外だったこと。
魔獣の生育速度を甘く見ていた。
転生後すぐに出会った子供のスノーウルフは、今や大型の狼程にまでその体躯を大きくしていた。
拠点の特性もあるのかもしれない。
魔素を吐き出すダンジョン産の石材は、よほど従魔にとって良い居住環境になっているのか。
無論、食う。
特に肉。
魔獣の肉を好んで食うのだが、これも問題である。
それが二つ目の理由に繋がる。
アンナが、強過ぎた。
今目の前でゴブリン二体が斧の一振りでバラバラの肉塊へ変貌した。
「あら、軽く撫でただけですのに」
なんて、アンナは言うが。
「お前こんなにバラバラになったら討伐証明の耳すらはぎ取りできんぞ……」
そう、手加減が一切できないのである。
零か百。
オンかオフしか、アンナの出力設定はないらしく。
一度戦闘が始まれば熱した鉄で綿飴を撫でるように魔獣を消し去っていく。
つまり、グレイスの食欲を満たす魔獣の肉を自給したいが、それを狩る立場にあるアタッカーの出力が強過ぎて、稼ぎにならん、という構図。
せっかくグレイスの嗅覚でエンカウント率が非常に高いというのに。
頭が痛い。
「なんとかならんのか、その出鱈目な強さ」
「ご主人様への愛の力ですもの♡溢れんばかりですわぁ♡」
あっかん、これ。
なんとかせねば。
◇◇◇
「⸻と言うことがありましてですね。ダンジョンに潜りたいのです、ガルドさん」
ただでさえ忙しいギルドマスターを捕まえて相談する内容にしては稚拙な事は自分にもわかっている。
パーティメンバーが強過ぎて稼げない、などとは。
嬉しい悲鳴であるか。
「魔物のはぎ取りが無理ならば、魔石、か。そこに行き着いたのは褒めてやるがなぁ、たろー?」
とガルドさんも大きくため息をつく。
そうなのだ。
何も冒険者としての稼ぎは魔物のはぎ取りや素材の採取だけに留まらない。
なによりも魔石。
魔石ならばアンナが消し飛ばした破片の中から探り当てればよい。
「とは言ってもだな、お前のダンジョン崩落騒ぎで『魔鉱』は封鎖。今は上位冒険者で安全確認中だ。当分は探索許可はでんぞ」
「ですよねぇ……」
わかっていたことではあるが、落胆する。
グレイスが、たろー、大丈夫?と思念を飛ばしてくる。
かわいいがお前が原因でもあるんだよぉ、このぉ!
「なんとかなりませんかね?」
「無理だな。特例は出さん。もう一個のダンジョン『遺跡』に挑みたければ、さっさと冒険者ランクを上げるこった」
魔装都市ヘイルニルは二つのダンジョンを有する都市だ。
一つが、初心者にも旨味が強い魔鉱物が上層でも産出する『魔鉱』。
もう一つが今し方ガルドさんが言った『遺跡』である。
傍らで話を聞いていてくれたレンさんも会話に参加する。
「アンナさんなら“戦闘面”では難なく、なんだけれどね。遺跡は罠や搦手の多い魔獣が多い。パーティの総合力が求められる」
つまり、ランクブロンズ以上に許可が出されるダンジョン、ということになるのだ。
そして俺のランクはアイアン。
是非もなし……か。
「ランクアップにはコツコツと心証を溜めるか、大きな依頼をこなすしかない。たろーくんならどちらを選ぶかはわかりやすそうだけどね」
クスクスと笑うレンさん。
今日は随分と意地悪だなぁ。
「まぁ気長に対策してみます。ありがとうございました。話を聞いて頂いて」
「いいってことよ。新米の相談に乗るのもギルマスの仕事ってなぁ」
良い人だ。
それだけで頑張れるというものである。
コツコツか、大きくか。
俺はこういう二択が嫌いだ。
なら考えるは発想の転換。
大きくコツコツ、だ。
「レンさん、アイアンでも受注できる大型魔獣の討伐依頼などで、思い当たるものはありませんか?」
すっ、とレンさんの目線が鋭くなったのを、俺は見逃さなかった。
良いところをついたときに見せる、正解の表現だ。
「たろーくんはいつも発想が面白いね」
「レンさんのお陰です」
「⸻あるよ。大型魔獣。『キングブル』討伐ランクは三だね」
三⸻という数字がどう言うものなのか、俺にはわかる。
通常のアイアンランクパーティならかなり背伸びをしなければならない相手。
悪くて壊滅。
「キングブルは猪突猛進型で攻略の道筋が明快な分、冒険者の創意工夫で効率が変わるよくできた討伐依頼でね」
曰く、力押しは確実に無理。
地力をつけて魔素運用が適切に出来て初めて討伐完了、と。
「アンナさんの出鱈目な強さなら、がっぷり四つでも投げ飛ばせるんじゃないかい?」
やっぱり、今日のレンさんは意地悪である。
むぅ。しかし、それなら結果はゴブリンと変わらん訳で。
これは俺の出番だな。
◇◇◇
俺たちは職人街を訪れていた。
目的地は武器工房である。
「どういうことですか、ご主人様?」
「ん?あぁ。アンナの火力が高すぎるのが問題な訳だろ?キングブルを討伐するとして、大型ならば現状のアンナの武器、大斧はベターではある」
ですから、それがどうして?とアンナは表情で訴えてくる。
まぁまてまて。
「アンナの出力が強すぎるのであれば、武器を弱めればいい」
要はハードがだめならソフト面の改善で、環境に適応しようということになるか。
アンナに重りを加える、なんてアイデアも考えたが、これは辞めた。
不足の事態に対するリスクが高すぎる。
であれば。
「武器のグレードダウンで出力の調整を……流石でございますわご主人様」
「上手くいけばいいけどな」
武器屋の親父は流石に怪訝な顔で俺たちを見た。
「俺になまくら作れってかぁ?」
職人に対して、まぁ神経を逆撫でする注文であることは分かっている。
要は伝え方だな。
ミスコミュニケーションは円滑な人間関係を台無しにする。
「違います。アンナにとって最適な武器を拵えて欲しい、とそう申し上げております」
アンナが俺の言葉に合わせて腰を折った。
大質量のおっぱ……ゲフンゲフン、もとい胸が揺れた。
露骨にアンナの爆乳に釘付けになる親父。
「刃はなくて結構です。形状も斧のままで。ただ質量だけはこだわって欲しい。魔素効率の高い重い素材はありますか?」
俺の言葉に鼻の下がのびたスケベ顔から一瞬で職人の鋭い目線に変わる。
こういうのだよ。
やっぱりプロの職人相手はいいよな。
「あるにはあるが。普通は軽く鋭くする所を、あえて重く鈍くする理由がわからねぇ」
そうですね、と俺は一瞬考える。
「親方、剣を打つのに最適な形とはなんでしょうか」
親父が持つ右手のトンカチを見ながら、俺は言った。
視線に気づいたのか、手に持つ道具をマジマジと眺める親父。
「トンカチの形状や重さ、重心は効率的に剣や釘を打つのに適した形を模索してできた芸術品です。アンナにとってはその模索段階にある、と理解していただきたい」
「なんだぁ、要はいろいろ試す過程って言いてえのか」
いい流れだ。
「おっしゃる通りです。軽く、鋭い武器は“まだ”いい。もしかしたら重く鈍いものが最適解になり得る場面も。俺はそういう柔軟な対応ができる冒険者になりたいんです」
最後は想いを載せて。
理屈だけではない。
こういう情がいつだって職人を動かす。
「……なるほどなぁ……。はっはぁ!いいねぇ兄ちゃん!俺ぁそういうのは好きだぜ!わかった。打ってやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
やりぃ!
話してみるもんだな。
それからあれこれと細かな注文を加えていくと、俺の意図を察したのか職人の知識で様々なアイデアを盛り込んでくれる。
俺と親父は童心に戻ってあーでもない、こーでもない、と話し込んでいく。
ことのほか楽しい。
傍でグレイスが退屈そうに欠伸をしていた。
「おっしゃ。これなら兄ちゃんの考える武器に仕上がるだろうよ。一週間は待ってもらうが、かまわねぇよな」
「もちろんです。お願いします」
再度アンナが腰を深々と折った時、親父の鼻の下が伸びた。
良いキャラしてるよ、まったく。
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