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18


できると言われるとやってみたくなるのが人の性というもの。

それを察してか、アンナが傍に放置してあった木の大箱を目の前に設置した。


もちろん俺は第三階位⸻現代でいえば大砲クラス⸻の魔法など使えるはずもない、が。


ポケットから煙草を取り出し火の魔素を展開。

指先に小さな灯火がポッと灯り、咥えた煙草の先端にかざす。


煙が肺に行き渡るように深呼吸……すると四肢に漲る熱。

魔草煙草が体内魔素の巡りを良くしているのがわかる。


「確かに、過干渉する感じがあるな」


火を起こすだけで緻密な魔素コントロールが求められた。

やりにくさを感じるものの、風の魔素が火の魔素にまとわりつくように展開される。


「混ざる⸻黒」


アンナが独り言の様にボソリと言った。


集中⸻火が風の煽りを受けて徐々にその勢いを増していく。

木の箱が炎にまで成長した魔素に巻かれて燃焼している。

更に風を圧縮してお送り込む。


確かに、複数魔素の展開がいつもよりダイナミックだ。

これならば。


いつもならばここで充分な威力になるだろう。

それに魔素が切れて維持が困難になるのが常だ。

が、目の前に可能性がぶら下がっていた。

それを無視できるほど俺は年老いちゃいない。


火炎が大炎と化した時、俺は瞬時に水の魔素を展開する。

加熱された水の塊が瞬時に気化を果たし、その膨張はさながら龍の息吹のように⸻


破裂音!


水蒸気爆発。

規模は小さいながら、木の箱はバラバラに砕け散った。


「……これは……お見事でございますご主人様」


やるつもりでやったけど、やった自分に驚く。

なんだろう、この空想が形になるような、変な違和感。


もちろん、異世界転生した身としてはチート能力ズババババーン!みたいなものに憧れが無かったといえば嘘になる。


が、俺が生きる異世界はリアルだった。

見定められた才能はピーキーかつ工夫が必須な、ガス欠全適性。


納得していた。

しかしここであれば。


セスタ氏とリネンさんが、見つけた、という表情をしていた。


新たな可能性が、俺の背中を押していた。



◇◇◇



その後二つの物件を紹介されたが、そのどれもが良く言えば平凡で、そもそもセスタ氏が紹介するつもりが無かったのではないかと思える程だ。


「セスタさん、からかってますよね?」


俺ももう可笑しくて仕方ない。

ここまで意味のない代替の提案もないものだ。


「普通を見せるのも仕事の内と心得ています」


「確かに、これで心置きなく決断を下せますが」


そこまでを計算しての事がわかる分、多少癪に感じる所であるが。

いや、ここは素直に称賛だな。

まいった。正直俺の心はずっとあの一軒に惹かれ続けている。


「どうです?まだいくつか紹介できますけど?」


と、今度はリネンさんだ。

こちらは露骨にニヤニヤと揶揄う調子があるが。

不思議と負けた感じがしないのは、俺が今回の買い物に満足しているからか。


「いえ、結構です。セスタさん、リネンさん、お忙しい中色々ご紹介ありがとうございました。最初の家にします」


「英断です。あの場所もたろーさん以上の家主には出会えんでしょう」


「たろーさんの為の場所といっても過言じゃないものね」


プロ二人の意見に反対はもちろんない。

アンナが傍で微笑んでいる。


「ご主人様に相応しい『城』でございますわ。このアンナが城主に見合う姿に磨いてみせますのでご安心くださいませ」


グレイスも足にまとわりつく様に思念を飛ばしてきている。

たろー!新しい家!?だとさ。

可愛いじゃねぇかくそ。


早速店に戻って契約書の作成に入るらしい。

帰りの道すがらアンナがリネンさんに、近くの日用品売り場や食料品店などを聞いていた。

メイドの本能が目覚めているのかもしれない。


「契約日はいつからにしますか」


「セスタさんの都合がつく日で結構ですが、早い日がいいですね」


わかりました、と頷くセスタ氏。

義手の付け根を摩っていた。

雨で痛むのかもしれないな、無理をさせてしまったか。


「では本日契約書を作成しておきますので、明日時間があるときにでもいらして下さい」


「そんなに早くでもいいんですか?」


「問題ありません。龍の時刻(午後)以降であれば荷物の運搬なども手配させてもらいます。本日この後ご予定は?」


特にない、という意味を込めて首を横に振る。


「でしたら職人街をご覧になっていってください。私の腕の様な色気のないものから、家具や寝具などを作成販売している店もあります。大概が私の名前を出して頂ければ配達の手配までしてくれるはずです」

 

それは助かる。

調度品にこだわるつもりはないが、殺風景な部屋に住むのも味気ないものだ。

至れり尽せりの対応に感謝を述べることで礼を示す。


「ご、ごしゅんじんしゃまの使うベットぉ♡んふ♡」


お、なんだが久しぶりにアンナの変態モードが発動したな。

割と今回はメイドモードが長かったが、無事物件が決まって気が抜けたのかもしれない。


「何から何までありがとうございます。セスタさん」


「とんでもない。不動産屋として、元冒険者として会心の仕事に携われたと私も胸をはれます。こちらこそありがとうございます、たろーさん」


プロフェッショナルの仕事には、それ相応のやり甲斐がある、ということか。

この縁は大切にしたいな。


我々はどちらからとも無く握手を交わした。

冷たい鋼の義手の感触が、とても親密に感じる俺は変わっているのかもしれない。



帰り道、アンナとグレイスを連れてセスタさんのおすすめ通り職人街を冷やかして回った。

帰る頃には雨も上がっていたから好都合だ。


「もしやこれはデ、デートなのでは♡ふぐぅ♡」

「メイドと主人はデートするのか」

「愛に立場は関係ありませんわ♡」

「普段の厳しすぎる忠誠心どこいった」


なんて、冗談を交わしつつ見て回るのは、俺だって心が弾んでいるからに違いない。

基本俺はギルドのある商人街に連なるメインストリートが活動の中心だったから、職人街が新鮮なのもある。


グレイスも鼻をひくひくといつもと違う街の匂いを嗅いでいる。


「ご主人様、こちらなどは如何でしょうか」


アンナが指し示したのはゴテゴテの装飾がなされた寝具だった。

んー、ゴシック調とか、だったか。

歴史の授業で見た気がする。

芸術分野での異世界も、美的感覚は人間である以上似寄るのかもしれないな。


グリフォンや龍の彫刻装飾とか。

アンナのセンスはどうなっとる。


「普通でいい、普通で」


「左様でございますか……ん、ではこちらどうでしょう?」


楽しそうである。

それもそうか。

五十年も魔王城に一人だったのだ、久しぶりの買い物など見るもの全てが新鮮に違いない。


その後も家具や寝具、その他雑多な物を見たり買ったりして回っていった。

俺の家具センス?

お察しだ。


「ではご主人様、この様式の仕立ての家具で統一するということでよろしいですか」

「うん、派手じゃなければ、あとはアンナに任せる」


かしこまりました、なんて深いお辞儀。

職人街の店子も巻き角のメイドなどが珍しいのか、何かにつけてサービスしてくれた。

あっ、くそ、露骨に胸見てやがるあの親父。


もちろんセスタさんの名前を出すと大体がスムーズに行った。


「セスタん所か!なら話早いぜ!」


まとめて大きい荷物だけ後日送ってくれるらしい。

それも各パーツをセスタさんと家に持ち込んで家具の建て付けや組み立ても行なってくれるとか。


いやはや、素晴らしいサービスだ。

すけべな視線は許さんが。


全ての買い物を終える頃には随分な荷物になっていた。

そのほとんどをアンナが持ってくれていたが。

グレイスも袋を咥えて運んでくれている。主に食料品を。


雨上がりの夕暮れに染まるヘイルニルの街並みを眺めつつ歩く。

メインストリートとは少し違う、ゼンマイ音に加えてトンカチが何かを叩く音に職人の怒声。


これはこれでいいな、なんて感慨が浮かぶのは家を買った高揚からくるものかな。

ギルドに戻る道すがらはあっという間だった。



◇◇◇


ガルドさんに一応軽く報告を、と受付に詰めていると、見知った顔がこちらを見てきた。


驚愕、嘆息、安堵。

様々な表情がルーレットの様にくるくると変わる。

無理もない。


「カインさん、セリアさん」


「「……たろーさん」」


⸻無事で、良かった。



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