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俺が全てを語り終える頃には夕刻になっていた。

十八時の鐘がなり、陽の光が彼方へ遠のき、空が闇を携える。

窓の外が暗くなって、傍らのラルスさんがそっとランプに明かりを灯した。


柔らかな光に煙が透ける。

ラルスさんの指にある煙草がジジっと鳴って焼けていた。


「⸻以上が俺が遭難した経緯です」


魔王城の件に言及した際には、流石のガルドさんとレンさんも息をのんだ。

ヘイルニルの歴史に、五十年以上前に滅んだ魔の国の記述はないらしい。


「歴史に埋もれた魔王が納めた国、か」


「それが本当なら大発見です」


ガルドさんとレンさんが興奮気味に話すのを、隣のアンナが聞いている。

亡国のメイドは今何を思うのか。

俺にはわからない。


「よく無事だったな」


ラルスさんが改めて無事を祝ってくれた。

その細かな配慮に感謝が込み上げる。


「⸻事情はわかった。今すぐの全ての判断はできねぇが、とりあえずダンジョンは閉鎖。たろーの処遇は……まぁ悪いようにはしねぇよ。そんな睨むなアンナ」


ガルドさんがやや大きい声でそう言った。

場の雰囲気を慮ってのことであるのは、その場にいた全員がわかった。


「さっきも言ったが高位魔人の従魔ってやつぁ、別に前例がないわけでもない。たろーにも懐いている様だしな」


今度のガルドさんの言葉には、アンナ以外の全員が首を傾げた。

懐いている?のか?あれは?


「こまけぇことはいいんだよ。ギルドとしても脅威と利益を天秤にかけた結果だ。たろー、お前ギルドからの援助忘れたわけじゃねえだろ」


確かに、と俺はそう思う。

冒険者になるために俺は多額の援助をギルドから受けている。

頂いたわけじゃないのは、大人の責任においてそうだ。


払われた金銭は返さなければならない。


「⸻であれば、俺は冒険者を続けてもよい、とそう取ってもいいんですね?ガルドさん」


「そういうことになるな」


アンナの手綱が握れている以上は、と念を押されもする。

レンさんも続けて頷く。

悪くない、とそう判断したらしい。


「このことをギルドマスターガルド、及びゴールドランク冒険者レンの両名の名に置いて布告することとする。……まぁあれだ、文句あるやつは俺かレンに言えってこったな」


その上、後ろ盾になる約束まで。

俺は自然と頭を下げた。

アンナの丁寧なお辞儀がそれに続いた。


「狭っくるしい話しはここまでだ、たろー!そんなことよりよぉ!?魔王城から持ち帰ったつう物資を見せてくれよ!」


ガルドさんの本題はそっちだったらしい。

急な生々しさが逆に全員の笑いを誘った。

まったく。この人は。

敵いそうにないな。


「かまいませんよ。いいよな?アンナ?」


「もちろんでございます。所有者がご主人様とお約束してくださる、そういう御仁であることは先刻の話しからわかっておりますし」


魔王城の発見の功績とその物資の所有権はもちろん、俺にあるとアンナはそう主張しているのだ。

このメイド。

ちゃっかりしておる。


「当たり前だこの野郎。が、たろーに取って不要な物はギルドが買い取らせてもらう、ことも明言しておくぜ」


こういう部分が、ギルドが単に幇助組織でないと俺が好ましく思う部分である。

情には熱い。利益には冷静。

この熱冷の落差こそ、ひりつく大人のビジネスと言える。



◇◇◇


時刻も遅くなったことだから、物資のお披露目は食事をとりながらという事になった。

今や酒を片手に、魔王城から齎された金銀財宝に騒ぐ、といった体を取っている。

グレイスだけが退屈そうに欠伸をしていた。


「こりゃすげぇ!魔素を込めると酒が溢れてくるぞ!んぐっ、んぐっ……しかもうめぇ!たろー、これ売ってくれ!」


「この回路がここに繋がっているわけだがら……そうかこの機構が魔素回路の抵抗値を減らし効率的なエネルギー運用を可能にしているわけか。興味深い」


「天秤の一方の物の価値が瞬時にわかる秤ですわね。これを、こう、片側に置くと。等価値のものとしか釣り合わない、という代物ですわ」


「……ふむ、鞘に魔素を充填しているわけか。これならば携帯しているだけで魔闘術をしているようなものだな、なるほど考えられている」


それぞれが思い思いに眼に入ったものを手に取り、それにアンナが解説を施していく図。

または阿鼻叫喚ともいう。


一人一人が価値のわかる知識人だからこその宴であることに違いない。

こりゃあ酒が美味い。


死にかけた。

生き延びたのは運と、少しの実力があっただけだ。


が、その経験は思わぬ収入になりそうである。

泡銭ではあるが、有意義に使わせて頂くとしよう。


「ガルドさん、この辺りを買い取ってもらうとして、俺の借金にあてるとどれくらいになりますか」


「そんなもん屁でもねぇぞ、こりゃあ。お釣りで家が買えるわ」


まさに、だな。


「それです。この物資のいくつかは、ギルドの資料や研究用として譲渡します。その代わり……俺に俺だけの『城』を、いえ、拠点を一軒、回してくれませんか?」


酒を煽っていたガルドさんの手が止まる。


「んだお前、宿暮らしを卒業する気か?」


その通りである、と俺はここであえて間を作る。

会話の主導権を握るのは交渉の妙である。


「ええ。アンナのような『規格外』を宿屋に置くのは、ギルドにとっても管理コストが高いはずです。隔離、と言えば聞こえは悪いですが、専用の拠点があれば不測の事態にも対応しやすい」


「ご!ごしゅじんしゃまとの同棲♡んっふぅ♡」


傍でアンナが妄想で例のモードに入ったが、無視。

今実は重要な場面なんですアンナさん。


「んだお前、やっぱりアンナとそういう関係なのかよ?……嘘だってそんな睨むなよ冗談じゃねえか」


「ガ・ル・ド・さ・ん!?」


冗談はさておき。


「どうでしょうか、悪い話ではないでしょう」


ガルドさんはジョッキに残ったエールを一気に煽ってニヤリと笑った。


「この世界に来て一ヶ月とそこらで家持ちとはなぁ。たろー、お前しっかり冒険者してるじゃねえか」


「じゃあ!」


「いいぜ、職人街で良い不動産屋に伝がある。紹介してやるよ。なんならギルドが保証人になったっていい」


小さくガッツポーズ。

棚ぼたな収入と勢いで勝ち取ったものだが。

冒険者としての俺の成果だ。


「良い交渉だったよ、たろー君。僕たちも混ぜてもらっていいかな?」


見るとレンさんとラルスさんの手に魔王城の遺品が。

要は儲け話に一枚かませろ、とそういうことだろう。


「適正価格はさっきアンナさんが説明してくれた天秤がある。全額金銭で支払おう。これを譲ってくれ」


「私はこれを」


二人が先程物色していた物だ。

疾風の二人が選んだものだ。

良い物なのだろう。


「わかりました」


ギルドからは物件を。

疾風のお二人からは引っ越し費用と、あとはアンナの装備やダンジョンで失った装備の数々か。


これは餞別の意味もあるのだろうか。

快気祝い、とか、そういうふうに取るのが普通か。


「ありがとうございます、レンさん、ラルスさん。家が決まったら招待しますよ」

「腕に寄りをかけておもてなし致しますわ」


アンナも冷静に戻ったのか、会話に参加した。

出揃ったか。


誰が言うでもなく、我々は乾杯でその日を祝した。

⸻冒険者は、最高だ。


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