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14 帰還

14


「グレイス!」

飛び出してきた灰色の子狼を抱き止める。

たろー!会いたかった!と思念を飛ばすグレイスに顔を埋めて抱きしめてやる。


「レンさん!ラルスさんにゴードンさんも!」


見覚えのある面々も健在だった。

察するに、俺の捜索隊、ということだろうか。


「無事でなによりだよ、たろー君」

レンさんの声が珍しく震えていた。

心配をかけた、と申し訳なさが俺を襲う。


「死にはしてないとわかってはいた、がな。それでもまぁ、よく無事だった」

とは、ラルスさん。

不器用な配慮が、今は嬉しい。


「死にはしてないとは?」

「グレイスの従魔契約が解けていなかったからな。主従はそろって、はじめて契約だ」


なるほど。

グレイスが無事で従魔契約の痕跡があれば、それはすなわち俺の無事の知らせ、とそうなるわけか。

思っているより従魔契約は便利のようだ。


「しかし、カインやセリアが報告に戻った時にはギルドも騒然としたものだぞ」


カインさんにセリアさんも無事だったか!

ダンジョンが崩落した、などとは、前代未聞の出来事であるらしい。

それが深層ならともかく、浅い層であることがリスクの質を何段も上げている。


「若い冒険者ほど浅層での探索をしているものだ。それが崩落の危険性を孕んでいるとなると。ダンジョン管理の根底が覆る」


ただの事故と済まされないギルドの運営方針には素直に舌を巻く。

とはいえ。

今は再会を喜ぶのが先か。


「ご心配をおかけしました。俺は無事です」


ぬっ、と。

一歩前に歩み出るメイド。

メイド。

そう、メイドなのである。


「……それで、たろー君。後ろに控えているその……非常に、その、場にそぐわない格好の女性は?」


レンさんの問いに、俺の背筋がわずかに凍りつく。

忘れていたわけではない。

むしろどう説明したものかと高速でシュミレーションをしていた程だ。

驚くことにそのシュミレーションが導き出した答えは『どうあがいても無理』だったわけだが。


「……深い事情があるのです、レンさん。」


「ご主人様を保護しておりました、たろー様専属メイドのアンナと申します。以後、お見知りおきを」


完璧な礼。だが、その場にいた全員の顔から血の気が引くのが分かった。


「っ!散れ!」


レンさんの鋭い号令と共に、疾風の面々が弾かれたように散開する。

抜剣、魔素の展開、射線の確保。流石は一流、判断が速すぎる。


「たろー君、離れろ! なぜそこに『グレーターデーモン』がいる!?」


レンさんの悲鳴に近い叫びに、俺は両手を挙げてその間に割って入った。


「待って下さい!敵じゃない!敵じゃあないんです!落ち着いて下さい!」


とはいえ、俺の言葉はなんの信憑性もないことは俺にもわかっている。

アンナが敵対心を露わにしていないことだけが救いか。


「とにかく一度、落ち着いて話を聞いてください。彼女がいなければ、俺は今頃瓦礫の側でお陀仏です」


ややあって警戒心を解いていく面々に、ほっと息をつく。

まずった。

こうなりそうなものな事ぐらい、少し考えればわかってもいいことだったはずだ。


「ラルスさん、従魔契約を示す方法はありませんか?」


「ほぅ?」


意外な一言が出てきたな、と驚きを示すラルスさん。

確かにそれが示せるのであれば、万の言葉以上の説得にはなる、と理解を示す表情。


「あるにはあるが」

「教えて下さい」


あえて有無を言わせない意図を込めて俺は言った。

アンナは⸻これで俺の恩人である。


同じ恩人の疾風の皆様から、理解を得られるのならば安いものだ。


「はぁ、わかった。……そのメイドが本当に従魔であるならば、無茶な命令をすれば事足りる。従魔であれば、意思はともあれ命令が最優先されるはずだ」


それは俺の従魔とのあり方とは違うものだが。

この際それはどうでもいいか。

しかし、皆さんを納得させるだけの無茶な命令とは。


「わかりました。アンナ聞いていたな。そこで三回回ってワンと鳴け」


「っ!んふぅ♡んんぅ……ワン♡」


「いいぞ。アンナ、お手」


「はい♡ワン♡」


ちょんと、手を差し出したアンナに微妙な空気が流れる。


何故かドツボにハマっている気はするが、もはや止められない。

レンさんが警戒から一気にドン引きに表情を変えた。

ラルスさんは渇いた声で爆笑している。

ゴードンさんに至っては白目を剥いていた。


「アンナ、最後だ。」


「んほぉ♡……はいぃ、ご主人様ぁ♡」


「もういいよたろーくん。もう充分だ」


とレンさんがそこで止めてくれた。

汗がびっちょりになった。

何故か俺の大切な部分を失ったことだけはわかったが。


「……たろー。お前、三日の間に一体何を食えばそんな『教育』ができるようになるんだ」


ラルスさんが何かを諦めたように俺の肩をポンと叩いた。

ガラガラと俺が培ってきた尊厳が崩れた音が聞こえた。


ラルスさんの引きつった笑顔が痛い。

違うんです、これは俺の教育じゃなくて彼女の仕様なんです、と言いかけた言葉を飲み込んだ。


「とにかく、彼女は俺の命の恩人です。それだけは信じてください」


「信じるよ。あんな幸せそうな顔で『ワン』と鳴くデーモンを敵だと思うほど、僕たちも察しが悪くない」


レンさんの呆れたような、同情するような視線が刺さる。

きっとレンさんの中で俺への評価が直下しているに違いない。

はぁ。



◇◇◇


空の青さが眩しい。

たった三日、いや介抱期間も入れて五日か、ぶりに見た空は異世界特有の色で、俺は帰ってきたと実感する。


死にかけた。

が、結果として俺は頼もしい(?)味方をつけて帰還した。

魔装都市ヘイルニルの名物、剥き出しのゼンマイがゴトリと俺を迎えるように歯車を一つ回した。


「これが……人の世」


アンナが珍しく独り言を言ったのを俺は聞き逃さなかった。

いつも毅然とした態度のメイドも、人が作り出した街に呆気を取られているのが新鮮だ。


「驚いたかアンナ」

「はい。もう少し牧歌的なものをイメージしておりました。随分と文明が進んでいるのですね」


そこはかとない言葉に歴史の重みが感じられる。

気分は浦島太郎かな。


「行こう、ギルドに君を紹介しないと」


ギルド職員がレンさんを、次いで俺を認めた時には大層な騒ぎになった。

死んだも同然になっていた冒険者の帰還。

しかも高位魔人メイド付き。

騒ぎにならないほうが嘘である。


「ギ、ギルマスをすぐにお呼び致します!」


ただの受付嬢には捌ききれない案件と判断したのか、職員はそそくさと奥へ引っ込み、代わりに体躯の大きな男がのそりと現れた。


「お久しぶりですギルドマスター、ガルドさん」


冒険者登録の時依頼だから、話すのはおおよそ一ヶ月ぶりか。

それまでに何度か挨拶程度を交わすことはあったが。


「たろー、お前ぁいつも騒ぎの中心にいやがるなぁ」


すみません、と頭をペコリと下げたら豪快に笑い飛ばしてくれる。

この快活さがヘイルニル支部ギルドマスターの良いところだ。


「はっはっはぁ!とにかく無事で良かった!さぁとにかく奥へ入れ!話しはそれからだ」


「お邪魔します」


「レンとラルス!お前らは残れ、第三者として意見を聞きたい」


そして、この対応。

自らのバイアスを信じず、現場の意見に耳を貸す姿勢。

これこそが大都市ヘイルニルの支部を任せられる長の姿。


豪快な笑い声を受けてアンナが「ほぅ」と息をついた。

多少関心しているのかもしれなかった。


ギルマス室の扉が重々しく閉まる。

ゼンマイの駆動音もここまでは届かない。


「さて、たろー。……いや、アンナさんと言ったか。茶でも飲みながら、ゆっくり聞かせてもらおうじゃねぇか」


ガルドさんがどっしりと椅子に腰を下ろし、鋭い眼光を俺たちに向けた。


「崩落の原因。お前が落ちた場所。そして……その『とんでもねぇメイド』を連れて帰ってきた経緯をな」


グレーターデーモンとはとんでもねぇな、なんて。

これはガルドさんの言葉だ。


「僕にも聞かせてほしい。たろー君、君が何を見てどうしてこのメイドを連れているのかを」


「前例が……ないわけでもねぇがな」

ガルドさんが俺を庇う様にそう言って、場の空気がやや弛緩した。


が。


喉の奥がヒリつく。

嘘をつく必要はない。だが、全てをさらけ出すのが最適解とも限らない。


俺はチラリと隣のアンナを見た。彼女は⸻椅子にも座らず、俺の背後で完璧な直立不動を保ち、あろうことか俺の後頭部を熱い視線で凝視していた。


……おい、視線で穴が空く。

頼むから今は真面目にしてくれ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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