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12 有能規格外メイド→変態メイド

12


帰還は約束されたものではない。

それでも頼もしい味方ができたと思えば、少しは救いはあるか。

現状だけではそう思う他ない。


身体を癒すかたわら、考える時間だけは嫌ほどあった。

優先順位はつけなければならない。


まずは、帰還。


これは決定事項として据える。

アンナが永劫世話をやきたがっているが。

そんなことは享受できるはずもない。


次に、グレイスの安否。

俺が意識を失って三日たつ、とアンナは言った。

その後グレイスはどうなったか。

これは必ず確認しなければならない。


最後にカインさんとセリアさんだ。

穴に落ちたのは俺だけだったはずだ。

であれば、彼らは脱出できたろうか。


それに伴う準備はした、はずだ。

あとは機転をきかせてくれていれば、なんてこんな考えは甘えだろうか。


「ご主人様、難しい顔をされています。お具合でも悪いのでしょうか」


アンナが心配そうに俺に尋ねるのを、俺は首を振って否定した。

考えたって仕方のないこともある。

定数ではなく、今動かせる変数にフォーカスしなければ、と俺は意識を引き締める。


「大丈夫で⸻だ。」


一瞬、鋭い視線が返ってきたから、俺は慌てて言い換えた。

アンナは主従にやけに厳しい。


「アンナ、俺はいずれ⸻そうだな、身体が癒えたら⸻ここを出ていくことになるが。アンナはどうするんだ?」


従魔契約を果たしたとはいえ、俺はアンナを縛るつもりもない。

ましてやアンナから無理矢理主従関係を結ばされた、とさえ俺は思っている。


「もちろん、お側に」


なにを愚問を、と言わんばかり。

やや、胸を逸らしてさえいる。

たわわな胸がのそりと揺れて、俺は目のやり場に困ってしまう。


強引に話題を変えるために、俺は慌てて言った。


「そういえばここはどういう場所なんだ?……ダンジョン内、なのはわかるが。やけに静かだし、明るすぎる」


おおよそ魔素の満ちる危険な場所とは思えない。

魔物の気配はほとんど感じない。

目の前のメイドを除けば。


「正確にはダンジョン内とも言えません。ここは旧魔王城。陥落した魔物の都です」


……は?



◇◇◇



「すまん、アンナ。もう一度言ってくれるか」


俺の耳が腐っていないことにはありえない単語を聞いた様な気がする。

魔王城?

それって、あの、ラストダンジョン的な?


「聞き取りづらかったでしょうか。申し訳ございません。魔王城、とそう申し上げました」


やっぱり、俺の耳が腐っていたわけではなかったが、その方が良かったまである。

ダンジョンの崩落から、俺はどこまで落ちたのだ。


「既に堕ちて半世紀が経過しておりますが」


……

つまり、半世紀前からアンナはこの場所に在る、とも聞こえる。

半世紀。

そのとてつもない時間の暴力に、俺は気が遠くなる。


「なぜそんな場所に一人で」


メイドですから……と、アンナは遠い目をして呟いた。

珍しく、その言葉は俺に向けたものでは無かった。


俺はそれ以上はなにも聞けず黙った。

他にどうすればいいかも、わからなかった。


「ご主人様。少し外を散歩なさいませんか。アンナはこの場所をご主人様に案内しとうございます」


ややあって、アンナがそう言った。

俺は曖昧に頷くしかできない。


合理的に考えれば、自分が今どこにいてどんな対策をうてばいいか。

それがわかる良い提案にあるようにも思う。


しかしアンナの意図はそれとは違うだろう。

アンナは先程、当たり前のように「側にいる」と返答した。


五十年以上この地で縛られてきた女性の、安易な決断だ、と決めつけたことを俺は恥じた。


「そんなお顔をなさらないで下さい、ご主人様。私がこの城に仕えた過去など、ご主人様が毛ほども気にする必要のないことでございます」


その言葉だって、本来アンナに言わせる内容でもない。

グレイスにしろ、このメイドにしろ。

過分な部下を持ってしまったな。


⸻なんて感傷に浸っていた所であるが。

アンナが小刻みにビクッビクッと身体を震わせ始めた。


「な、おい!どうしたアンナ!?」


「ご」


「ご?」


「ご主人様が私の心配をなさって下さるぅ♡んほぉ♡」


……


…………


………………


あっかん、これ。


まじで本気でどこまで冗談でどこまでが本意かわからんやんこれ。


「……失礼しました」


と、澄ました顔に戻るアンナに、ドン引く俺。

まるで対処の方法がわからない。


確かに魔人だ、と俺は明後日の方向で納得せざるを得なかった。


「冗談でございます。ご主人様はお優しいですね」


今度は真剣な、それでいて優し気な表情でアンナはそう言った。

肩透かしを受けた気分にため息を吐きつつ、俺は外に向けて歩き出した。



◇◇◇


無事俺の中でアンナの評価が『有能規格外メイド』から『変態』に格上げ(?)された後、俺とアンナは部屋の外に出た。


部屋の中にいたときは気づかなかったものだが、建物の老朽化は眼を見張るものがあった。


軋む床には亀裂が走り、所々に穴が見受けられる。

蜘蛛の巣。

それがいく層にも重なり年月の流れを表している。


黴臭さが鼻につく。

それに混じるむっとした据えた匂い。

先日その場所で何かが腐ったばかり、というような悪臭。


「お恥ずかしいばかりでございます。私一人では行き届かず朽ちるばかり」


その口振りから恐らく、昔は豪華絢爛を誇っていたのだろうが。

今は亡者すら寄りつかない廃墟と化している。

盛者必衰。

なんて言葉は見当違いだろうか。


「そこの突き当たりがバルコニーでございます。朽ちた都が一望できるだけにございますが」


変態、もといメイドのアンナは沈んだ様子でそう言った。

俺はと言えばあの突然のトリップがいつ始まるのか気が気でならない。


「おぉ……これは……」


正直、息をのんだ。

魔装都市ヘイルニルを初めて見たとき、俺はそのテクノロジーと人のエネルギーの熱さに驚いたものだが。


これは逆だ。

朽ちた宮殿に伸びる蔦。

割れた石畳から怪し気な木の根が伸びていた。

それが光を浴びてキラキラと輝いている、矛盾。


詫びた佇まい、とでもいうのか。

歴史の重みが質量として、この街にはある。


「綺麗な街だな」


一人でに溢れた俺の言葉に、アンナが息をのむ音が重なった。

振り返ると、潤んだ表情で目元を抑えるアンナ。

あ、やばいか。

変態が顔を出しそうな予感⸻


「嬉しく存じます。ご主人様がそう思ってくださるのは望外の喜びです」


今度はまともだったアンナは、景色を望みながらそう言った。

それでいて、その紅い眼は景色をみていない。


過去の情景を見ているのだろうか。


それだけで俺の胸はいっぱいになった。

そしてこの一風変わったメイドに、好感を持ち始めていることに気づいた。



◇◇◇



「さて、いきましょうご主人様」


翌日、俺とアンナは城を後にした。

城にあった使えそうな物資は持てるだけアンナが背負っている。


メイド服に巨大な背嚢。

そのギャップにツッコミを入れたくなるのを我慢する。


「アンナ、いいのか。ここにはもう、戻ってくることはないと思うけど」


数瞬だけ、アンナは振り返り城を眺めていたが、迷わず首を振った。

⸻もう。

彼女の覚悟にはなにも言うまい、と俺も決心する。


門を出て九十九折りの谷を登っていく。

次第にそれがダンジョンの景色へと変わっていく。


魔素が満ちて、獣の鳴く音が木霊し始めた。


「アンナ、ここはどの辺りになるんだ?」

「中層の底、という所でしょうか。私が探索できる範囲で判断して、でございますが」


確かに気配の変化にはグラデーションがある。

が、ある一点から急に剣呑な魔素が立ち込め始める。


「さぁ、ご主人様に捧げる私の初の奉仕です。道を開けてもらいますわよ」


アンナが虚空にそう言葉を放った瞬間。

目の前に巨大な大蛇が現れた。




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