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Vendetta Re-Verse ― 血と復讐の叙事詩 ―  作者: 慧梓
VendettaReverse 前半

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6/12

幕間:飯事の終わり ― 傀儡皇帝ユリナの絶望 ―

それは、温かい家族の真似事だった。


褒められること。

役に立つこと。

一番でいること。


小さな少女が信じていた世界は、

あまりにも静かに、残酷に終わりを迎える。

■ 幕間:飯事の終わり


---


ユリナ・シルヴァリスの一日は、書類と共に始まった。


執務室の机は大きすぎて、椅子に座ると足が床に届かない。それでもユリナは毎朝きちんと腰を下ろし、山積みになった書類に、一枚ずつ丁寧に印章を押した。


ぽん。ぽん。ぽん。


できることは、それだけだった。

字はあまり読めない。数字も難しい。書いてあることの意味も、ほとんど分からない。


それでもパパはいつも言ってくれた。


「よくできたね、ユリナ」


その言葉だけで、十分だった。


---


ここに来てから、どれくらい経つだろう。


前のことは、あまり覚えていない。燃えた街。逃げる人々。パパに手を引かれて、気づいたらこの宮殿にいた。


パパはユリナに言った。「お前が新しい皇帝だよ」と。

ユリナには意味が分からなかったけれど、パパが笑っていたから、きっといいことなんだと思った。


毎日ぽんぽんとハンコを押して、パパに褒めてもらって、夜は隣の部屋で眠る。

それがユリナの世界だった。


小さくて、温かい世界。


---


ある日、ユリナは気づいた。


「パパの一番は、ユリナだよね?」


そう聞いた時、パパは笑顔でこう答えた。


「そうだよ、一番好きだよ」


でも。


その時パパの目は、ユリナを見ていなかった。

ユリナの向こう側——どこか遠い、ここではない場所を見ていた。


「パパとママの宝物だよ」


前に一度だけ、パパがそう言ったことがある。

その時も、同じ目をしていた。


(パパの宝物って、誰?)


疑問が、小さな胸に引っかかったまま、消えなかった。


---


パパがいない昼下がり、ユリナは執務室に忍び込んだ。


写真立てを探した。

ユリナとパパを一緒に写した写真。パパが大切にしているはずの、あの写真。


でも、見当たらない。

飾られているはずの棚に、ない。


焦る手で引き出しを開ける。一番奥、白い本の間に、何かが挟まっていた。


取り出して、開く。


そこに写っていたのは——ユリナじゃなかった。


若い頃のパパと、水晶玉に映る誰か。パパが笑っている。ユリナが一度も見たことのない、本当に嬉しそうな顔で。


「……これが」


声が、震えた。


「パパの、宝物……?」


精一杯のお仕事。いい子にしてたのに。頑張ったら一番になれると、信じていたのに。


「いや……やだ!」


写真をくしゃくしゃに握りしめる。


「私は一番がいいの! 他の誰かと一緒なんて、嫌!」


「——いけない子だね」


振り返れなかった。


冷たい声が、すぐ後ろにあった。


「ユリナ。パパがいない時に部屋に入ってはいけないって、あんなに言ったのに」


「パパ……ごめん、でも、これ……」


振り向けない。胸が、熱い。


何かが刺さっている気がして、ユリナは自分の胸を見下ろした。

白いドレスが、赤く染まっていた。


「なん……で……?」


「フフ……何を言ってるの?」


パパの手が、くしゃくしゃになった写真をユリナの指から抜き取った。丁寧に、大切そうに、皺を伸ばして。


「ユリナが一番大事だよ。……だから、君が死んでも、傍においてあげるよ」


優しい声だった。

いつものパパの声だった。


「まるで、生きているみたいにね」


世界が、遠くなっていく。


---


戦火が消えた後の宮殿は、静かだった。


ルキアンは窓の外を見ながら、冷めた紅茶を一口飲んだ。


(……先生。やっぱり分からないよ)


キアロンがかつて、アルディアと過ごしていた日々。

食卓を囲んで、他愛もない話をして、笑い合う家族の飯事。

先生はあれを、本当に幸せそうにしていた。


(あんなもの、何が楽しかったの?)


ルキアンには理解できなかった。

子供の笑い声も、温かい食事も、「パパ」と呼ばれることも——何も心に届かなかった。

ただ面倒で、ただ煩わしくて、ただの時間潰しだった。


傀儡が必要だった。それだけだ。

女帝の後釜として動かせる、扱いやすい看板。それ以上でも、それ以下でもない。


ルキアンは椅子を回した。


机の向こうに、ユリナが座っている。

白いドレス。整えられた髪。胸の傷は、見えないように隠してある。

目は開いたまま、動かない。でも、遠目には——まるで生きているみたいに見える。


「さて」


ルキアンは微笑んだ。


「次はいかが致しましょうか、『陛下』」


沈黙だけが、答えた。

幕間「飯事の終わり」を読んでいただきありがとうございます。


この幕間では、ユリナ・シルヴァリスという少女が見ていた

小さな世界の終わりが描かれます。


愛されていると信じていたこと。

一番でいられると信じていたこと。

その全部が、最初から歪んでいた。


ルキアンという存在の残酷さと、

彼がどうしても理解できなかった“家族”の形が、

静かに浮かび上がる一編になっています。


もし物語を気に入っていただけたら、

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