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Vendetta Re-Verse ― 血と復讐の叙事詩 ―  作者: 慧梓
VendettaReverse 後半

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第9章:廃棄された娘 Scene 5 燃料 ― Fuel ―

「……燃料?」


アルディアの声が。


凍てついた世界へ落ちた。


【Role Assignment】


【Subject:Amagi Ena】


【Function:Fuel】


「人を……」


表示を見上げる。


「燃料って……」


影那も。


同じ文字を見ていた。


「は?」


一瞬。


意味が理解できなかったのだろう。


「何よ、それ」


ホログラムの黒野が。


嬉しそうに笑う。


『そのままの意味だよ』


「ふざけないで」


『ふざけてないさ』


黒野は。


人差し指を立てた。


『君が持っている、その執着』


もう一本。


『嫉妬』


もう一本。


『憎悪』


そして。


最後に。


『愛』


影那の眉が。


ぴくりと動いた。


『全部、素晴らしいエネルギーだ』


「……愛?」


『そう』


黒野は。


満足そうに頷く。


『君は俊樹くんを愛している』


「当たり前よ」


影那は。


吐き捨てる。


「俊樹は私のものよ」


『うん』


黒野は。


笑った。


『だからこそ』


その笑顔を見た瞬間。


アルディアは。


分かった。


「……やめて」


黒野が。


続きを口にする。


『その愛を』


「やめて」


『四億年ほど』


「やめなさい!」


『熟成してもらおう』


影那の。


表情が止まった。


「……よん?」


理解できていない。


「何?」


『四億年』


黒野は。


何でもないことのように。


繰り返した。


『そこは約七億年前』


空間へ。


時刻表示。


【Temporal Coordinate:-700,000,000 Years】


『俊樹くんたちが現れる時代まで』


数字が。


高速で計算される。


【Estimated Waiting Time】


【400,000,000 Years】


「……」


影那は。


何も言わなかった。


言えなかった。


「よん……おく……」


呟く。


『そう』


「年?」


『そうだよ』


影那が。


笑った。


乾いた。


意味の分からない笑い。


「何それ」


黒野を見る。


「四億年って」


笑う。


「人間が生きられるわけないじゃない」


『そこは大丈夫』


黒野が。


指を鳴らす。


影那の手の中。


黒いカードが。


強く発光した。


【Protection Protocol:Active】


【Biological Aging:Suspended】


【Cellular Degradation:Disabled】


【Fatal Damage:Rejected】


影那の笑顔が。


消える。


「……何?」


『君は死なない』


「……」


『老いない』


「……」


『病気にもならない』


影那は。


自分の手を見る。


『安心していい』


黒野が。


微笑んだ。


『四億年間』


「待って」


『たっぷり』


「待ちなさい」


『俊樹くんのことだけ考えていられる』


「返して」


影那の声が。


震え始める。


「今すぐ返して」


『嫌だ』


「返せ!」


『駄目』


「ここから出しなさい!」


影那が。


ホログラムへ殴りかかる。


腕は。


光をすり抜ける。


「俊樹のところへ送れ!」


『まだ早い』


「ふざけんな!」


何度も。


殴る。


何度も。


何度も。


当然。


一度も。


届かない。


「殺す!」


影那が叫ぶ。


「殺してやる!」


『いいね』


黒野の目が。


輝いた。


「……」


『それ』


影那の拳が。


止まる。


『その感情だよ』


黒野が。


嬉しそうに。


自分の胸を叩く。


『忘れないで』


影那が。


後退った。


初めて。


目の前の男を。


本気で。


怖がった。


『四億年間』


黒野は。


微笑む。


『ずっとね』


ホログラムが。


薄くなる。


「待って」


『Au revoir』


「待て!」


『頑張ってね、影那ちゃん』


「黒野!」


『その憎しみが』


ノイズ。


「出せ!」


『世界を書き換えられるくらい』


「ここから出せぇぇぇぇ!」


『濃くなるまで』


光が。


消えた。


静寂。


風。


ただ。


風だけ。


影那は。


しばらく。


立っていた。


「……」


何もない。


本当に。


何もない。


人。


いない。


動物。


いない。


植物。


いない。


声。


ない。


建物。


ない。


道。


ない。


遠くに。


赤茶けた岩。


氷。


空。


そして。


凍てつく風。


「……俊樹」


声は。


風に消える。


「俊樹?」


返事はない。


「ねぇ」


一歩。


歩く。


「俊樹」


また。


一歩。


「どこ?」


誰もいない。


「……お姉ちゃん」


影那は。


立ち止まった。


しばらく。


黙る。


そして。


「……瑠美奈」


その名を。


吐き出す。


「瑠美奈」


怒り。


「瑠美奈」


憎しみ。


「瑠美奈」


涙。


「瑠美奈ァァァァァァァァッ!」


叫びが。


原始の大地を。


駆け抜ける。


返ってくるのは。


自分自身の。


遠い。


遠い。


こだまだけ。


アルディアは。


その場に。


立っていた。


「……」


何も。


言えなかった。


この女は。


母を殺した。


自分も。


殺した。


許せない。


それは。


変わらない。


けれど。


「……四億年」


想像できなかった。


百年ですら。


分からない。


千年。


一万年。


一億年。


数字が。


大きすぎて。


意味を失っている。


【Playback Speed:Accelerated】


突然。


表示が浮かんだ。


時間が。


動き始める。


太陽が。


空を駆ける。


一日。


十日。


百日。


一年。


影那は。


岩陰に。


座っていた。


何も食べていない。


必要ない。


黒いカードが。


生命活動を。


維持している。


十年。


影那は。


まだ。


同じ場所にいた。


百年。


髪は伸びない。


肌も。


変わらない。


少女のまま。


千年。


岩の形が。


少し変わる。


一万年。


氷が。


移動する。


十万年。


地形が。


変わる。


影那だけが。


変わらない。


「……俊樹」


百万年。


「俊樹」


千万年。


「俊樹」


五千万年。


「……瑠美奈」


一億年。


「瑠美奈」


景色が。


変わる。


大地が。


裂ける。


海が。


生まれる。


山が。


隆起する。


空の色さえ。


少しずつ。


変わっていく。


影那だけが。


同じ姿で。


そこにいる。


アルディアは。


見続けた。


「……これ」


何度目か。


分からない。


影那が。


自分の頭を。


岩へ。


叩きつけた。


血。


頭蓋が。


砕ける。


【Fatal Damage Detected】


【Protection Protocol】


【Restoring】


傷が。


閉じる。


影那は。


また。


頭を打ちつける。


「死ね」


ゴッ。


「死ね」


ゴッ。


「死ね!」


ゴッ!


「死ね死ね死ね死ね死ね!」


血。


骨。


再生。


血。


骨。


再生。


何度。


繰り返しても。


死ねない。


「殺してよ!」


影那が。


空へ叫んだ。


「もういいから!」


返事はない。


「殺して!」


黒野はいない。


「お願いだから!」


誰もいない。


「もう……」


影那が。


地面へ。


崩れ落ちる。


「もういい……」


アルディアの手が。


震えた。


「……やめて」


自分でも。


誰に言ったのか。


分からない。


影那なのか。


黒野なのか。


Save Dataなのか。


「もう……」


十分だ。


そう。


思った。


けれど。


時間は。


止まらない。


【Elapsed Time:198,441,002 Years】


「……半分」


まだ。


半分。


アルディアは。


ぞっとした。


その時。


影那が。


突然。


笑った。


「……そう」


二億年近い。


孤独の果て。


笑った。


「あは」


小さく。


「あはは」


顔を上げる。


瞳から。


涙は。


消えていた。


「あはははは」


何かが。


壊れた。


そう。


アルディアは。


思った。


しかし。


表示が。


それを否定した。


【Mental Collapse Detected】


【Protection Protocol:Active】


【Restoring Cognitive Integrity】


「……え?」


影那の笑いが。


止まる。


一瞬。


空っぽになった瞳へ。


光が戻る。


「……」


そして。


また。


思い出す。


俊樹。


瑠美奈。


黒野。


全部。


鮮明に。


「……あ」


影那の口が。


震える。


「忘れ……」


頭を抱える。


「忘れさせて」


アルディアの表情が。


凍った。


「お願い……」


泣く。


「狂わせて」


膝をつく。


「もう、何も分からなくしてよ……」


【Request Rejected】


「嫌……」


【Fuel Purity Degradation Prevention】


「嫌!」


【Memory Integrity:Maintained】


「やめて!」


【Emotional Source Preservation:Active】


「やめろォォォォォォォォッ!」


アルディアは。


表示を。


見上げた。


「死ぬことも」


拳を握る。


「狂うことも」


黒野の。


笑顔が。


頭に浮かぶ。


――死ぬことも、狂うことさえ許されない。


「……そういう意味」


だったのか。


四億年間。


苦しませる。


だけではない。


苦しみに。


慣れさせない。


忘れさせない。


壊れさせない。


毎日。


最初の日と。


同じ鮮度で。


憎ませ続ける。


「……最低」


アルディアの口から。


言葉が。


零れた。


「最低……!」


今まで。


何度も。


そう思った。


でも。


足りなかった。


「何なのよ……!」


世界を壊す。


人を消す。


人生を。


物語として。


消費する。


それだけでも。


十分。


狂っている。


けれど。


これは。


「育ててる……」


悪意を。


「人の心を……」


農作物のように。


「育ててる……!」


時間が。


さらに。


進む。


【Elapsed Time:300,000,000 Years】


三億年。


影那は。


もう。


叫ばなかった。


座っている。


ただ。


空を。


見ている。


瞳は。


黒い。


「……俊樹」


それだけ。


「俊樹」


呼ぶ。


「俊樹」


一億年。


同じ名前を。


「俊樹」


そして。


時折。


「瑠美奈」


その瞬間だけ。


空間が。


歪む。


影那の身体から。


黒い靄が。


流れ出す。


【Emotional Energy:Collecting】


【Jealousy】


【Hatred】


【Obsession】


【Possession】


【Love】


アルディアは。


最後の文字を見た。


「……Love」


愛。


同じ。


なのだろうか。


父が。


自分へ向けてくれたものと。


母が。


生まれなかった自分へ。


最後まで向けていたものと。


これが。


「……愛?」


答えは。


分からなかった。


ただ。


一つ。


理解した。


黒野にとっては。


どちらでも。


構わないのだ。


純粋でも。


歪んでいても。


優しくても。


醜くても。


出力さえ。


高ければ。


全部。


燃料。


【Elapsed Time:399,999,999 Years】


影那が。


ゆっくりと。


立ち上がった。


最後の。


一年。


一年。


それは。


アルディアにとって。


一瞬だった。


影那にとっては。


三億九千九百九十九万九千九百九十九回。


繰り返した後の。


一年。


【Elapsed Time:400,000,000 Years】


世界が。


止まった。


音が。


消える。


風が。


止まる。


影那が。


空を見上げる。


そして。


笑った。


「……来た」


誰も。


いない。


「やっと」


声は。


穏やかだった。


「あの人が」


遠く。


地平線の向こう。


世界が。


光る。


影那は。


胸へ。


手を当てた。


その身体には。


既に。


人間一人では。


到底。


抱えきれないほどの。


何かが。


蓄積されている。


黒。


赤。


紫。


色という概念では。


表現できない。


四億年分の。


感情。


「俊樹」


影那は。


微笑む。


「会いたかった」


その瞬間。


空間へ。


巨大な。


魔法陣が展開した。


【Fuel Maturation:Complete】


【Emotional Density:Threshold Reached】


【Core Candidate:Accepted】


【Grail System:Initialization】


アルディアが。


息を呑む。


「聖杯……」


影那の身体へ。


無数の光の糸が。


接続されていく。


「……っ」


影那が。


初めて。


自分の身体を見る。


「何……?」


腕。


脚。


胸。


頭。


身体の至るところから。


光の糸。


「待って」


【Individual Boundary:Disassembling】


「何よこれ」


【Memory Data:Converting】


「待ちなさい」


【Emotion:Converting】


「俊樹は!?」


【Soul Output:Converting】


「会わせるって言ったでしょう!」


【Fuel Transfer Start】


「黒野!」


叫ぶ。


「出てきなさい!」


ホログラム。


何億年ぶりか。


男が。


現れた。


変わっていない。


一日も。


歳を取っていない。


満面の。


笑み。


『お疲れ様』


「……」


影那は。


数秒。


動かなかった。


そして。


走った。


拳を。


振り上げる。


「殺す!」


当然。


すり抜ける。


『元気そうで何よりだ』


「四億年!」


『うん』


「四億年よ!」


『うん』


「ずっと!」


拳。


何度も。


何度も。


「ずっと一人で!」


『うん』


「私は!」


声が。


震える。


「私は……!」


最後に。


影那は。


拳を下ろした。


「……俊樹は?」


黒野が。


微笑む。


『もうすぐ来るよ』


影那の。


顔が。


変わった。


四億年。


それだけで。


全部。


許せるような。


「ほんと……?」


『本当』


涙。


「会える……?」


『会える』


「俊樹に?」


『ああ』


影那が。


笑った。


少女のように。


「……そっか」


アルディアは。


その顔を。


見ていた。


あまりにも。


幼く。


見えた。


自分を殺した。


狂った女。


母を。


轢き殺した女。


それなのに。


今。


笑っている顔だけは。


ただ。


好きな人へ会えることを。


喜んでいる。


普通の。


女だった。


黒野が。


続ける。


『ただし』


笑顔が。


止まる。


「……え?」


『君は』


黒野は。


聖杯システムを。


指差した。


『ここにいてね』


影那の。


顔から。


色が消えた。


「……何?」


『君が動いたら』


光の糸。


『動かなくなるから』


「何が」


『聖杯』


黒野が。


笑う。


『君は電池だって言っただろ?』


「……」


四億年前。


確かに。


言った。


けれど。


影那は。


信じていなかった。


あるいは。


信じたくなかった。


いつか。


俊樹に会える。


それだけを。


支えに。


四億年。


「……会えるんじゃ」


『会えるよ』


「じゃあ!」


『彼は聖杯を使う』


影那が。


黙る。


『君を』


黒野は。


訂正する。


『正確には』


一拍。


『君が四億年かけて溜めたものを』


影那の。


瞳が。


揺れる。


『使う』


「……」


『俊樹くんの願いを』


黒野は。


両手を広げた。


『叶えるために』


影那の唇が。


震えた。


「……私の」


声。


「願いは?」


黒野は。


首を傾げた。


『何?』


「私の……」


影那が。


自分の胸を。


掴む。


「願い」


俊樹と。


一緒にいたい。


自分だけを。


見てほしい。


ずっと。


自分のものに。


したい。


歪んでいる。


醜い。


でも。


四億年。


それだけを。


願ってきた。


「私の願いは……」


黒野は。


少し。


考えた。


そして。


笑った。


『聞いてない』


「……」


影那の目から。


光が。


消えた。


アルディアは。


その場で。


動けなくなった。


「……」


黒野。


同じ。


また。


同じ。


聞かれなかった。


だから。


教えなかった。


必要だった。


だから。


使った。


「……貴方」


アルディアは。


呟く。


「ずっと……」


どの世界でも。


同じことを。


繰り返している。


人が。


何を望んでいるか。


ではない。


黒野の。


物語に。


何が必要か。


それだけ。


【Grail System:Ready】


【Core:Ena Amagi】


【Function:Wish Energy Source】


【Individual Rights:Suspended】


最後の文字。


アルディアの瞳が。


止まる。


「Individual……」


個体。


権利。


停止。


人では。


なくなった。


役割になった。


名前ではなく。


機能。


女ではなく。


電池。


「……違う」


アルディアは。


表示へ。


手を伸ばした。


届かない。


「この人は」


嫌いだ。


許せない。


今でも。


「影那よ」


アルディアは。


言った。


「天城影那」


表示は。


変わらない。


【Core:Ena Amagi】


「人よ」


【Function:Fuel】


「燃料じゃない!」


アルディアの叫びが。


Save Dataを。


震わせた。


一瞬。


本当に。


一瞬だけ。


黒野が。


こちらを。


見た。


「……え?」


あり得ない。


これは。


過去の記録。


黒野に。


見えるはずがない。


けれど。


男の目は。


確かに。


アルディアのいる場所へ。


向いた。


そして。


口元が。


わずかに。


上がった。


『……へぇ』


「……!」


ノイズ。


【Playback Error】


【Observer Interference Detected】


景色が。


崩れる。


「待って!」


影那へ。


手を伸ばす。


「まだ!」


光。


彼女の身体が。


システムへ。


沈んでいく。


「待ちなさい!」


最後に。


影那が。


こちらを。


見た。


アルディアは。


息を呑んだ。


見えている?


違う。


偶然。


そう。


思った。


けれど。


影那の唇が。


動いた。


声は。


聞こえない。


ただ。


口の形だけ。


――だれ?


「……!」


世界が。


消えた。


暗闇。


アルディアは。


一人。


立っていた。


目の前には。


小さな光。


【Save Data 01.5】


触れる。


温かくない。


冷たい。


四億年の。


冷気が。


まだ。


残っている。


アルディアは。


両手で。


それを包んだ。


「……嫌いよ」


小さく。


言った。


「貴女のこと」


母を。


殺した。


自分を。


殺した。


「絶対に許さない」


それは。


変えない。


「でも」


光を。


胸へ。


抱く。


「だからって」


黒野の声が。


蘇る。


――君は電池になるんだよ。


「こんなのは」


四億年間。


死ぬことも。


狂うことも。


許されず。


憎むためだけに。


生かされた。


「罰じゃない」


アルディアは。


目を閉じた。


「ただの利用よ」


光が。


一度。


小さく。


瞬いた。


返事のように。


アルディアは。


顔を上げた。


周囲には。


まだ。


無数のSave Data。


そして。


今。


初めて。


その一つ一つが。


違って見えた。


廃棄された世界。


だけではない。


再利用された世界。


材料にされた人間。


分解され。


役割へ。


変換された魂。


「……全部」


黒野の。


部品。


そう。


思った。


けれど。


すぐに。


否定した。


「違う」


Toy Boxの少女。


June Brideの母。


景三。


影那。


「部品じゃない」


一人ずつ。


名前がある。


願いがある。


「物語のために」


拳を。


握る。


「生きてるんじゃない」


自分も。


そうだった。


父を。


探すためだけに。


存在していたわけではない。


ジュラを。


救うためだけでもない。


黒野を。


楽しませるためでもない。


「……私は」


自分の胸へ。


手を置く。


【Residual Data:N】


「私が」


表示を。


睨む。


「生きたいから、生きてた」


N。


名無し。


Noise。


余り。


それでも。


その中に。


今まで生きた。


全部がある。


「なら」


アルディアは。


無数の光を見る。


「みんなも同じ」


その瞬間。


遠く。


ひときわ大きな光が。


灯った。


これまでのSave Dataとは。


違う。


巨大。


何層もの。


記録が。


重なっている。


【Grail Access Log】


【Wish Request Detected】


【User Identification……】


ノイズ。


そして。


一人の少年が。


映った。


黒髪。


まだ。


若い。


どこにでもいそうな。


普通の少年。


けれど。


その顔を。


アルディアは。


知っていた。


「……え?」


心臓が。


存在しないはずの胸で。


鳴った。


「お父……」


違う。


キアロンではない。


もっと。


若い。


もっと。


人間らしい。


けれど。


分かる。


何故か。


分かる。


【Individual Name】


文字が。


浮かぶ。


【Fukase Toshiki】


アルディアの。


声が。


止まった。


「……俊樹」


母が。


最後まで。


呼んでいた名前。


影那が。


四億年。


呼び続けた名前。


そして。


自分の。


本当の。


父親。


少年は。


聖杯へ。


手を伸ばした。


その向こう側。


燃料として。


繋がれた。


影那の魂が。


静かに。


脈動している。


【Grail System:Online】


【Please Enter Your Wish】


アルディアは。


光の前に。


立ち尽くした。


四億年の地獄は。


終わっていなかった。


それは。


ただ。


次の物語の。


始まりだった。


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