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追放された元宮廷魔導士、魔法を再定義して最強国家を築く  作者: 一月三日 五郎


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第3話:一晩で城が建つのは論理的帰結だ

ついにボルマン子爵の軍勢が来ました。

アレスはどう料理するのか……。

 ボルマン子爵の軍勢が到着するまで、残り十八時間。


 カイルからその報告を受けたアレスは、手元の羊皮紙に素描スケッチを描きながら、「ふむ」と短く頷いた。


「十八時間か。ずいぶんと余裕がある。これなら休憩を入れても、内装まで終わりますね」


「あ、アレス様……余裕なんてありません! 子爵様は正規兵五百を引き連れてくるって噂です。この村には、武器どころかまともな壁さえないんですよ!」


 カイルの声が裏返る。


 村人たちもパニック寸前だ。せっかく水が出て空気が綺麗になったというのに、次は虐殺が待っている。


 だが、アレスは椅子代わりの石に座ったまま、平然と言い放った。


「カイル。壁がないなら、作ればいい。それも、彼らの戦意が物理的に消失するような最高品質のやつをね」


 アレスは立ち上がると、村の外周へと歩き出した。


 彼が選んだのは、村を囲むなだらかな丘。そこには魔素の伝導率が高い岩盤が露出している。


「いいですか。王都の建築魔法は『石を積み上げ、祈りで固める』という非効率なものです。そんなものは衝撃に弱く、維持費がかかる。……僕が今から見せるのは、物質の結合力を直接定義する『構造強化魔法』です」


 アレスが両手を地面についた。


「土質変換。ケイ酸塩および酸化カルシウムの比率を再構成――『流体コンクリート』生成」


 ゴゴゴゴ、と地鳴りが響く。


 地面が生き物のように波打ち、地中から灰色をした液状の岩石が噴き出した。それはアレスが脳内で描いた「型」に従い、村の周囲をぐるりと囲むようにせり上がっていく。


「な、なんだこれ……泥が、勝手に形を変えて……!?」


「泥ではありません。これは鋼鉄をも凌ぐ硬度を持つ、魔導強化コンクリートです」


 アレスの指先が閃くたびに、灰色の壁は高く、厚くなっていく。


 高さ十メートル。厚さ三メートル。


 表面には、アレスが「装飾」と称した幾何学的な紋様――実際には自動迎撃用の魔力伝達回路――が刻まれていく。


「構造定義:ハニカム構造。内部空洞による耐衝撃性向上。……乾燥・硬化プロセス、時間加速アクセラレート


 アレスが軽く手を叩くと、熱波が壁を通り抜けた。


 数分前まで液状だったそれは、瞬時にして鈍い光沢を放つ巨大な城壁へと変貌を遂げた。


 村を一周する、完璧な円形の防壁。


 それは「村」を、一瞬にして「要塞都市」へと作り替えた。


「……一晩どころか、三十分も経ってませんよ、アレス様」


 カイルは腰を抜かして座り込んでいた。


「次は居住区ですね。あのボロ家では睡眠の質が保てない。生産効率の低下は罪ですよ」


 その夜、ザルツの住人たちは一生忘れられない光景を見た。


 アレスが指先を指揮者のように振るうたび、地面から次々と「家」が生えてくるのだ。


 隙間風一つ入らない強固な壁、魔力による自動調温システム、そして井戸から直結された給排水設備。


 アレスティア魔導共和国、第1居住区。


 その礎は、彼の一夜の「作業」によって完了した。


     *


 翌朝。


 ボルマン子爵率いる五百の軍勢は、ザルツの境界で全員が足を止めた。


「……おい。何だ、あれは」


 子爵が愛馬の手綱を震わせる。


 数日前まで、そこには汚らしい掘っ立て小屋が並ぶ、死にかけの村があったはずだ。


 だが、今目の前にあるのは、王都の城壁すら子供騙しに見えるほど、不気味で美しい、白銀の城塞都市だった。


「報告になかったぞ! 誰がいつの間にあんなものを築いた!」


「わ、わかりません! 昨日の偵察では何もなかったはずですが……!」


 混乱する軍勢の前に、城門が音もなく開いた。


 そこから一人、ゆっくりと歩み出てくる男がいた。


 杖も持たず、武装もしていない青年、アレスだ。


「これより先は、我が国の領土です。通行許可証をお持ちでない方の侵入は、不法侵入とみなし、論理的な排除を行います」


「ふ、ふざけるな! 貴様がアレスか! 私はこの地の領主、ボルマン子爵だ! その城を明け渡し、魔法の秘密を話せば、貴様の命だけは――」


「子爵。君の心拍数は $120$ を超え、瞳孔が散大しています。恐怖を怒りで誤魔化そうとするのは、判断を誤る原因ですよ」


 アレスは冷淡に告げ、空中に指を立てた。


「警告は一度だけです。……全方位、魔圧展開グラビティ・プレス


 瞬間。


 子爵の軍勢を、凄まじい「重圧」が襲った。


 目に見える爆発はない。ただ、五百の兵士と馬が、同時に地面へと押し潰された。


 甲冑がひしゃげ、馬が悲鳴を上げて四肢を折る。


 アレスがその空間の「重力定数」を書き換えた結果だ。


「ひ、ひぃぃぃ……っ! 体が、体が動かん……!」


「武器を捨て、馬を降りて去るなら、この圧力を解除しましょう。もし抵抗するなら、重力値をさらに三倍に設定します。人間の内臓が何キロの負荷まで耐えられるか、実験する興味はありますが、掃除が面倒なのでね」


 兵士たちは、アレスの瞳に宿る「徹底的な合理性」に、本能的な死の恐怖を感じた。


 ガチャン、ガチャンと武器が捨てられる音が響く。


 かつて誇り高かった子爵の軍勢は、たった一人の男の前に、戦うことすら許されず敗走した。


 アレスは逃げ去る彼らの背中を眺め、懐から懐中時計を取り出した。


「戦闘時間、三十二秒。予定より三秒遅れましたね。カイル、次の議題は『農業ドーム』の建設です。彼らが置いていった馬と武器は、鉄資源としてリサイクルしましょう」


「は、はいっ! アレス様……もう、何が起きても驚かないつもりです!」


     *


 一方、エルディア王都。


「報告します! 結界の維持に回っていた魔導士の三分の一が、過呼吸で搬送されました!」


「何だと!? 予備の魔石を使え! 祈りを絶やすな!」


 王の怒号が響く中、宮廷魔導士たちは真っ青な顔で魔法陣にしがみついていた。


 彼らはまだ気づいていない。


 アレスが去り、彼が組んだ精密な「循環コード」が、彼らの無骨な魔力供給によってボロボロに引き裂かれていることに。


 そして、王都を囲む森の奥では。


 結界の綻びを察知した無数の赤い目が、暗闇の中で輝きを増していた。


「……アレス。アレスはどこだ! 奴を連れ戻せと言っただろう!」


 王の叫びは、もはや誰にも届かなかった。

一晩で城を建てる。

これぞ追放ものの醍醐味ですね。

次回、アレスはついに『教育』に手を出します。

才能不要の魔法、始まります。

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