第79章「次元の扉で爆死!? パラレル統合の大崩壊」
「海も空も地底も、竜や獣魔までやり尽くしたが、まだ“次元”という概念を本気で商売にしてないよな? この世界には無数のパラレルワールドがあるって説を聞いたことがある。もしそれらを繋ぎ合わせて“一括乗り入れ”する商売ができれば……いや、想像しただけで巨万の富が舞い込むに違いないんだよ!」
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黒峰銭丸は、王都近郊の小屋に集まった仲間たちに向かって勢いよく語っていた。いつもの面々――水無瀬ひかり、バルド、メルティナ――がそろい、どこか呆れ気味の表情を浮かべつつ、また始まった無謀企画に耳を傾けている。すでに何度“爆死”を繰り返してきたというのに、この男は反省するどころか、さらに壮大なビジネスを思いついてしまうらしい。
「次元を繋ぐって……また危険な話に飛びつきましたね。前にもタイムゲートや霊界やら、いろいろやって大惨事になったんですよ。今度はパラレルワールドって、どうやってアクセスするんです?」
ひかりが書類をめくりながら小さく息を吐くと、銭丸は得意満面で地図を広げる。
「魔導研究所が開発した“次元転移石”って知ってるか? あれを使えば、別の可能性世界へ穴を空けられるって話がある。それをさらに増幅させて“次元の扉”を安定稼働させれば、いくつものパラレル世界を行き来できるビジネスが成立するんだ。各世界の珍しい資源を仕入れ、観光客を連れて行き、こっちではありえない商品を売りまくる……爆死? もう卒業だろ!」
バルドが苦々しい顔で低く呟く。「いままでそんなセリフを何度聞いたことか……」。メルティナも「次元の繋ぎ換えは危険すぎる。異世界から強大な魔物や災厄が流れ込むかもしれない」と忠告するが、銭丸は「そうならないよう制御すればいいだけさ」と笑って流してしまう。
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こうして「パラレル統合プロジェクト」が動き出す。銭丸は闇ギルドや闇金まで巻き込み、例の“次元転移石”を大量に入手。あちこちから集めた魔導装置を組み合わせて、“次元の扉”なるものを建設する。この計画の拠点は王都の外れにある古い砦跡で、広大な地下空間を改装して巨大なゲートフレームを設置した。そこにバルドが警備を敷き、メルティナが装置の安全策を講じる。ひかりは出資者へ「パラレルワールド観光・貿易」という美味しい響きを売り込み、莫大な借金と出資金をかき集める。
最初のテストでは、ごく近いパラレル世界――つまり「ほんの少しだけ歴史が違う」程度の別世界に扉を開こうとする。するとゲートが青白い輝きを放ち、向こう側に街の風景がうっすら見えた。実際に数名が扉を抜けてみると、そこは確かに似ているようで違う王都らしく、ちょっとした建物の配置や通貨が微妙に異なるらしい。
「ほら、成功じゃないか!」と銭丸は喜び、帰ってきたテスターから珍しい硬貨やアイテムを見せてもらい、「これは儲かる!」と手応えを得る。ひかりやバルドは「今回は案外うまくいくのかも」と半信半疑ながら少しだけ安心するが、メルティナは油断できないと表情を崩さない。
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案の定、銭丸は欲をかいてさらなる“遠い”パラレル世界を開こうとして、装置に無理な設定を命じはじめる。より大きなエネルギーでゲートを強引に拡張すれば、商売の幅が広がるという計算らしい。メルティナが「安全テストが終わってない」と言っても、銭丸は出資者の要求を盾に「爆死なんてさせるか」と押し切る。
結果、複数の並行世界へのゲートを同時に開く計画が進行し、装置の負荷が異常に高まる。次元転移石が悲鳴を上げて熱をもち始め、一部が赤く輝いて奇妙な振動を見せる。バルドの警備隊も不安を隠せないが、「客が来るなら守るしかない」と歯を食いしばる。ひかりは毎度のように不安で仕方がない。
ついに“大規模ゲート”が開通する日、王都の好奇心旺盛な貴族や闇商人、冒険者などが押し寄せ、「異世界へ観光&貿易!」というキラーワードに沸き立つ。銭丸はあちこちを走り回って接客し、「さあ、いまこそパラレルワールドへ!」と声を張り上げる。最初のうちは複数ゲートが安定し、客たちが続々と扉をくぐって別世界へ飛び込んでいく。短時間で戻ってくる者もおり、珍品や異世界情報を持ち帰ってみんなが大はしゃぎだ。
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しかし、トラブルは水面下で進行していた。まず、一部の世界から怪しげな魔物や人間が“こちら側”へ流入し始める。彼らが密かに装置をハックし、別の次元への扉を勝手に開けようとしたり、現実世界で悪事を企てるなどの動きが見られる。バルドが警備を強化しても、相手がどのゲートから来るか予測しづらい。
さらに“ゲート同士の干渉”が発生して、複数の並行世界が一部で混じり合う局面が出始める。メルティナが異常に気づいて装置のログを解析したところ、ゲートAから扉をくぐった客がゲートBの世界に行ってしまうなど、混線が起きているらしい。しかも戻ってきた客が記憶や外見を微妙に変化させているケースが報告される。
銭丸は「些細なエラーだ。金になるんだから気にするな」と強引に続行してしまうが、それによって装置の次元転移石がさらに無理を重ね、内部で“複数世界の情報”が衝突し合う形で魔力渦が発生する。まるで水道管を無理やり繋ぎすぎて水圧が制御不能になったようなもので、どこかで破裂するのは時間の問題だった。
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まもなく“破裂”が起きる。装置の中央でパチパチという放電音が聞こえ、青い火花が跳び散り、メルティナが「ゲートが暴走してる! 緊急停止をかけなきゃ!」と叫ぶが、制御パネルが反応しない。バルドが物理的に転移石を引き抜こうとしても、もう遅い。魔力が高まりすぎて、転移石が白熱して亀裂を生じている。
その一方で、大勢の客が施設内に散らばり、ゲートをくぐろうとしている最中。あるゲートからは異世界のモンスターが隊を組んで侵攻してきているらしく、悲鳴や戦闘音が廊下を満たす。銭丸が「くそっ、こんなふうになるなら止めておけば……」と青ざめるが、もう手遅れだ。
最終段階でゲート装置が暴走し、同時に複数の世界が一つの空間に重なろうとする形で大規模次元崩壊が起きる。床や壁が歪み、ある区画では黒い森の景色が混ざり、別の区画では未来都市の建造物が現れては消える。人々が右往左往して「ここはどこだ? 出口は?」と混乱に陥る中、銭丸は駆けずり回ってどうしようもない状況に。「もう爆死は勘弁だ」と繰り返している。
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やがて転移石が最大出力に達し、装置の中央で大爆発が起こる。複数の世界が無理やり繋げられた反動で、空間が一気に弾け飛ぶような衝撃が走り、施設全体が白と黒の閃光に覆われる。辺りには異世界から呼び出されたモンスターや謎の建造物の破片が散乱し、人も物も区別なく吹き飛ばされていく。
いつものごとく、銭丸の最後の絶叫だけが聞こえた——
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。次元の扉は……爆死ッ……!!」
そう発せられた瞬間、大規模な連鎖爆発が施設を塵と化し、周囲の地面まで裂け目を伴いながら炎と煙が立ち上がる。人々が悲鳴をあげて撤退するが、既に巻き込まれた多数の客や冒険者、闇商人までもがこの次元崩壊の渦に呑み込まれている。いくつかのゲートが開きっぱなしになり、そこでさらに破損した魔力がめちゃくちゃに拡散し、最終的にはすべてが崩壊して跡形もなくなる。
◇
翌朝、王都から派遣された救助隊や兵士が現場に到着しても、施設は大きなクレーターと瓦礫の山になっており、内部には異世界の物体と見られる破片が混ざっているが、何が何だか判別できない。ごく近づいて調べようにも時空が乱れた痕跡があり、危険すぎて立ち入りができない場所もある。もちろん銭丸の姿など見つからない。
「これだけの崩壊なら、生きてるわけがない」と人々が口にしつつ、「だが、あの男だし……」と苦笑を浮かべるのもいつもの流れだ。こうして、“次元の扉を開いてパラレルワールドで大儲け”という壮大な企画は、またしても最後の最後に大爆死へと墜ち、王都史上に残る悲劇的事件となる。相変わらず多額の負債と犠牲者が残されるのに、誰も不思議に思わないほど“お約束”になってしまった。
結局、どれだけ新領域へ挑もうとも銭丸の行き着く先は同じ——瓦礫と炎と絶望の叫びで終わりを告げる。今回の“パラレル統合”など、ましてや一番危険であったろうと誰もが思う。王都の人々は再び「あいつはまだ生きてるのか?」と呆れ半分に問い合いつつ、またいつか出し抜けに姿を現すのではないかと苦く予感する。爆死伝説は続く。どんな次元を渡ろうとも、この男に安息の日は来ないのかもしれない、と人々はまた小さく肩をすぼめて嘆くのだった。




