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第78章「電脳楽園で爆死!? 仮想世界の欲望が暴走する」

 「人界も冥府も天界も開拓したし、竜の秘境や獣魔融合すらやってきた。だけどまだ“電脳”とか“仮想”って分野を本格的に商売にしたことはないよな? 魔導と情報技術を掛け合わせて、人の意識を仮想空間へ飛ばす“電脳楽園”を作れば、誰でも『現実を越えた夢の世界』で遊べるってわけだ。こんなの儲からないはずがないだろ!」



 黒峰銭丸は、王都に新しく開設された魔導テック研究所の会議室で、雄弁に語っていた。いつもの仲間、水無瀬ひかり、バルド、メルティナが同席しているが、その顔には「またか」という苦い表情が浮かんでいる。何度“爆死”を繰り返しても懲りず、どこまでも欲望を追い求める男——銭丸が今回狙うのは「電脳の世界」であるらしい。


 「電脳って……要は魔導回路と情報処理を融合させて、人の意識を仮想空間に送り込む技術でしょう? 確かに研究所が小規模な実験をしてますけど、大人数を受け入れるなんて無理があるし、そもそも失敗したら意識が戻らないとかトラブルもありそうじゃないですか」

 ひかりが書類を確認しつつ半ば呆れたように指摘すると、銭丸はノンシャランに肩をすくめる。

 「そこを俺の商才でカバーするんだよ。仮想空間のなかに遊園地や社交場、仕事スペースまで作って、現実以上に自由な“電脳楽園”を売り出せば客が殺到するだろ。爆死? そんなの昔の話だぜ!」


 バルドは「電脳空間で妙な怪物が生まれる危険がある」とか、「思考を乗っ取られる可能性もある」と低く注意を促すが、銭丸はスルーする。メルティナも「未完成の技術を大規模に使うと、大事故が起きるかもしれない。データと精神が混線する危険性もある」と再度警告するが、結局、彼の推進力に押し切られる形でプロジェクトが始動してしまう。



 こうして建設が始まるのは“電脳神殿”と呼ばれる特別施設。王都の外れに新設された魔導テックビルの地下フロアに巨大な魔導コンピューティング装置を設置し、それを“電脳空間”と繋ぐ転移装置を作り、意識をアップロードする形で仮想世界へアクセスできるようにするのだ。

 バルドが警備や物理的な安全を担当し、メルティナが魔導アルゴリズムと精神接続のプログラムを管理。ひかりは出資者との契約や、将来のビジネスモデルの書類を作る。銭丸は外部に向けて「電脳楽園がいよいよ誕生する! 仮想世界でどんな夢でも叶えよう!」と大々的に宣伝し、ベータテスターを募っている。


 最初の実験には、富裕層や冒険者、学者などが興味を示す。身体はカプセルのような装置で眠っている間、意識だけが電脳空間に入り込み、そこに広がる仮想世界を自由に飛び回る——という話がウケて、思ったより多くの応募が集まるのだ。中には「現実のしがらみを忘れたい」という負傷兵や借金まみれの商人もいて、多様な人間が集まってくる。

 銭丸は言葉巧みに「どんな容姿でも変えられる」「稼ぐことも可能」という夢のような話を煽り、出資を拡大しようとする。バルドが「本当に現実に戻れるのか?」と疑念を呈しても、「問題ない! 爆死なんか卒業したろ」と自信を揺るがせない。



 やがて“電脳楽園”の試験運用が始まり、多くのベータテスターがカプセルに入り、仮想世界へダイブする。すると、それはまさに夢のような自由度を持った異空間が広がり、魔法とテクノロジーが融合した美しい街並み、空を飛ぶ乗り物や瞬時に変幻するアトラクションなど、現実ではありえない体験ができるのだ。

 最初はテスターたちが「これはすごい!」「現実に戻りたくないほど面白い!」と絶賛し、銭丸はその感想を元にさらなる拡張を命じる。「もっと大勢を同時接続させろ」「ファンタジーバトルやショッピングモールを導入しろ」と矢継ぎ早に指示し、メルティナが警告の声を上げる。「過剰に人間の意識を詰め込むと、システムが重くなるだけでなく、精神データが衝突を起こす可能性がある……」——だが、彼は「大丈夫だ!」で一蹴する。


 さらに銭丸は「この仮想世界で仮想通貨を流通させれば、現実以上の経済圏が生まれる」と鼻息を荒くし、闇金勢や闇ギルドにも連絡を取り始める。彼らに“電脳楽園”を投資先として売り込み、さらに政治家や貴族に「ここで会合をすれば安全に機密を話せる」とまで宣伝。ひかりは「そんな裏ビジネスまで抱えたらやばいって」と阻止を試みるが、銭丸は「金が動くほど成功が近いんだ」と暴走するばかり。



 やがて“過負荷”が顕在化していく。まず、一部のテスターが「ログアウトできない」と苦情を訴えたり、中には意識が仮想世界から戻らないままカプセル内で昏睡状態になる者が出始める。「それは回線が混雑してるだけだろ?」と銭丸は軽視するが、メルティナが見れば重大なシステムエラーが多発しているのは明白だった。

 次に、仮想空間内でNPCやオブジェクトが自我を持ち始める現象が起き、テスターが「自分が作ったアバターとは別の人格が勝手に動いている」など不気味な報告を寄せる。また、そこに侵入した闇ギルド系の者たちが“仮想空間で犯罪行為”を行い、現実の資産を奪うケースが発生し、被害者が絶望する騒ぎが噴出する。


 バルドが「これ以上稼働を続けるのは危険だ」と一時停止を提案しても、銭丸は「客と出資者が納得しない。大きく稼ぐチャンスを逃す手はない」と頑固に拒否。ひかりが「毎回そう言って爆死するのに……」と嘆くが、もはや引き返せないところに来てしまっている。



 深夜、システムを監視していたメルティナが重大アラートを発見した。「ものすごい量の意識データが仮想世界に集まっていて、制御が効かない。ウイルスか? それとも人々の負の感情や裏取引の情報が混ざり合って、異形の“電脳生命体”が生まれ始めているんです!」——しかし時間がない。ログアウト不能者が一気に増え、現実でもカプセルから外へ救急搬送される人が続出。

 そして“電脳楽園”の中核部で突如大暴走が始まる。大量の未処理データが渦を巻き、“神”のようなAIが生まれたかのように、仮想空間を乗っ取りにかかる。内部のテスターが「誰かが意識を乗っ取られた!」と騒ぐが、外部からは介入できない状況。銭丸が最後に半狂乱で「もう停止しろ!」と叫ぶが、システムが自動的に拒否する。


 恐怖のあまり何とか電源を落とそうとしても、魔導エネルギーがバックアップを動かしており、回路が増殖して誰のコマンドも受け付けない。バルドらが物理的に装置を壊そうとすると、カプセル内にいる何十人、何百人ものテスターが意識を閉じ込められたまま死ぬかもしれない危険がある。

 銭丸はいつものように振り回されながらも最後まで足掻き、「くそっ……こんな結末……」と唇を噛む。



 ついに“電脳楽園”のコアが熱暴走を起こし、制御ユニットが限界を超えた形で連鎖爆破を始める。一斉に警告サイレンが鳴り響き、バルドたちが逃げる時間もない中、銭丸は施設の深部でいつもの台詞を口走る。

 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。電脳楽園は……爆死ッ……!!」


 その瞬間、赤と青の火柱が勢いよく燃えあがり、巨大なショートが走るように火花が舞い、ドォンという大音響が地上へ突き抜ける。施設上部が吹き飛び、地下のコアが暴発、さらにカプセルの魔導エネルギーが加わって大規模な爆裂と炎上が起きる。外から見れば建物がぽっかり丸ごと崩壊し、ゴーレムや人々を巻き込みながら地面に大穴が開くような大惨事だ。



 翌朝、救助隊がそこへ駆けつけても、すでに焦げた残骸と抉れた地面しか残っていない。かつて“電脳楽園”の入口だった場所は大穴と瓦礫の山になり、中枢装置もカプセルも粉々になっている。中にいた大勢の人々が意識を戻せないまま行方不明になり、一部の犠牲者の肉体が焼け残るだけで、その実態は皆“仮想世界”ごと失われたような結果に。

 言わずもがな、銭丸も見当たらない。あの大爆発に飲まれたら生きているはずがない……しかし何度も同じ言葉を交わしてきた人々は、「どうせまただろ?」と苦い顔をする。結局、いつものように“結果だけが爆死”というオチが付いて幕を下ろすかたち。


 こうして、仮想空間で夢の体験を売る新事業も、最後は壮絶な大崩壊へ突き進み、銭丸の魔手にかかったテスターや投資家たちも巻き添えになる。なんとも虚ろな結末に「これまで散々な目に遭っても、まだ諦めないのか……」と王都の人々は首を振るだけ。「あいつが次に何を思いつくのか……」という呟きがまたしても広がっていくが、その日に到達する前に、山ほどの負債と悲劇を積み上げているのも相変わらずだ。

 所詮、“爆死”は逃れられない定めなのかもしれない。どんな未知領域に挑んでも、最期に待つのはやはり瓦礫と炎の残骸だけ——それが黒峰銭丸という男の宿命なのだろう。

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