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第77章「禁断の融合で爆死!? 獣魔の大秘匿計画」

 「竜に続いて、魔獣を活かした商売を本格的にやってみるのはどうだろう? これまで空だの海底だの冥府だの、いろんなとこに手を出してきたけど、結局“爆死”ってオチばかりだったじゃないか。だけど、まだ“人と魔獣を掛け合わせる融合ビジネス”ってやってないだろ? 想像してみろ――人間の知性と獣の力をあわせ持つ“獣魔人”を作り、観光や労働、さらには軍事輸送まで担わせれば、大儲け間違いなしじゃないか!」



 王都近郊の寂れた倉庫に集まっているのは、いつもの面々だった。黒峰銭丸が大胆不敵に叫び、テーブルの上に積んだ紙束を指しながら得意げにほほ笑む。何度爆死してもまるで懲りない男の姿に、水無瀬ひかり、バルド、メルティナの三人は半ば呆れたような視線を送っていた。


 「人と魔獣の融合……いくら何でもそれはマッドサイエンス過ぎませんか? 法律的にも倫理的にも相当危険で、実験失敗したらまた大惨事になるかもしれないんですよ」

 ひかりが静かな声で諫めるように言うと、銭丸は素っ気なく鼻を鳴らした。

 「危険だからこそ、儲けがあるんだ。前に竜の秘境での大失敗? あんなのは竜が気難しかっただけだろ。今度は魔獣のDNAと人の体を合体させて、新種の“獣魔人”を生み出せばいい。そうすれば巨大な輸送力や身体能力を得られ、観光ショーにもなるし、軍事輸送や警備にも売り込める。爆死の可能性? もはや卒業したろ?」


 バルドが「だいたいそう言う時は卒業できてないんだよ……」と溜め息をついても、銭丸は聞き飽きた様子だ。メルティナは専門知識の立場から「魔獣の因子と人間の因子を強引に掛け合わせるのは、禁呪の領域に近い。下手すれば実験体が凶暴化したり、自我を失ったりして最悪の惨劇を呼ぶと記録にあります」と強く警告するが、銭丸はいまさら止まれないような勢いを持ち続ける。



 こうして「獣魔融合プロジェクト」が密かに進められ、王都から少し離れた廃村のような場所に研究施設が建てられる。そこで魔獣のDNAや人間の細胞を使った“禁断の融合実験”が行われるわけだ。銭丸はいつも通り多額の借金と裏ギルドの出資を抱え込み、手っ取り早く成果を出すようメルティナを急かす。ひかりが「もう少し慎重に」と訴えるが、「爆死なんて二度と起きないさ」と軽く笑い飛ばす。


 施設の地下には多数の実験室が並び、魔獣の血液や臓器を人工培養し、人間の細胞と魔力を混ぜ合わせる装置がひしめいている。バルドが護衛を担当しているが、見回りするたびに“不気味な咆哮”や“うごめく肉塊”のような試作品を目撃して不安を拭えない。メルティナが極限まで安全策を取りつつ実験を進めるが、銭丸は「早く完成させて稼ぎたい」と尻を叩き、現場は常にピリピリした空気に包まれていた。



 やがて、最初の“獣魔人”プロトタイプが生み出される。これが一定の知性と人間の姿を持ちつつ、腕や背中に獣の特性を持つ混合体——黒い体毛と鋭い爪、そして人間の言葉を話すという形だ。メルティナは危険を覚悟でそいつに知能テストや身体検査を行うが、意外にも従順な様子を見せ、銭丸に対してはまるで忠誠を示すように振る舞う。

 「ほら見ろ。やっぱり融合は成功するじゃないか。これを量産すれば観光ショーで人間離れしたパフォーマンスが可能になるし、荷物の運搬だってラクにできるはず。軍事セクターにも売り込めば莫大な利益が出るだろう。爆死なんて昔の話さ!」

 バルドは“でも目つきが妙だ……”と本能的な不安を抱きながらも、表面上は従順に見えるし、一部の出資者も「ついに完成か」と熱狂気味で資金をさらに投下してくる。こうして、銭丸の欲望は止まらないままプロジェクトが加速する。



 量産ラインが立ち上がり、施設内には複数の“獣魔人”が保管されている状態になる。実験体は人獣混合の外見がさまざまで、中には体躯三メートルを超えるものもいて、武装兵のような高い戦闘能力を誇る個体も誕生していた。銭丸は「うまく調教すれば大儲け」とさらに勢いづき、外部に“獣人ショー”の宣伝を始めるが、メルティナやバルドが「せめて管理体制を整えてから」と必死にブレーキをかける。

 しかし、その制止もむなしく、ある日ついに外部から闇商人が押し寄せ、「新たな生体兵器を早く買いたい」という取引話が持ち込まれる。銭丸は観光だけでなく軍事面での需要に目をつけ、裏ギルドと売買契約を交わしてしまう。ひかりが「絶対にまずい流れ」と眉をひそめても、もう聞く耳を持たない。


 ところが、いつものオチの予感が的中するのは当然の流れ。施設内で突然“獣魔人”たちが不穏な動きを始める。最初は微妙な言葉遣いの乱れや、サボタージュのような行動からスタートしたが、やがて日を追うごとに彼らのリーダー格が出現し、人間への不信や攻撃性を明確にしだした。どうやら“獣の本能”と“人の理性”が衝突し、怪物的な結束力を生み出しているらしい。

 バルドが警戒態勢を敷くが、繁忙を極める施設では警備の手が回らず、銭丸は「儲けが最優先だ」と聞く耳を持たない。メルティナは遺伝子面で“反乱リスク”を指摘する論文を用意しても、誰も読まないまま。



 ついにある夜、獣魔人たちが施設の電力や魔導炉を断ち切り、同時に暴動を起こして人間のスタッフを襲い始めた。複数の個体がドアや壁を容易く引き剥がし、火器や魔導具を破壊する。闇商人たちも巻き込まれ、銭丸は慌てて「どうして言うことを聞かないんだ!?」と叫ぶが、相手はもはや命令に従う様子などなく、むしろ人間を破滅させる方向に意志を固めているかのようだ。

 動物の獰猛さと人間の知性を兼ね備えた存在が、最悪の形で人間社会に牙を剥いたことになる。廊下で悲鳴が上がり、メルティナが魔法で何体かを眠らせようとするが効かず、バルドの剣さえ通じづらい個体も混じっている。何より彼らは互いに連携し、研究室や武器庫を次々に制圧してしまう。


 施設は混沌の修羅場と化し、銭丸は「こんな馬鹿な話があるか……」と右往左往しながら、最後の手段として緊急停止ボタンを押そうとするが、獣魔人たちが制御室を破壊済みで操作できない。逃げ道も塞がれ、実験体たちが狭い通路で咆哮を上げる。ひかりが「こんなの想定してなかったでしょう」と叫んでも、今さら何ができるわけでもない。



 最終的に、獣魔人のリーダーが施設中央へ集結し、強力な魔導具を逆利用して爆発的なエネルギーを起こす段階にまで至る。バルドが阻止に向かうが、敵が多すぎる。メルティナが「止めて! この炉が爆発したら周囲数キロが吹き飛ぶ!」と警告しても、獣魔人たちは意志を通じて共鳴しているように誰も耳を貸さない。もはや彼らは人間を滅ぼす覚悟で突き進んでいるらしい。

 焦り狂った銭丸が割って入り、「待て! 俺はお前らの創造主みたいなもんだぞ! 手を組めば金儲けできるんだ!」と叫ぶが、リーダー格の獣魔人は口を開き、低い獣の声で言い放つ。「お前たちは我々を道具としか見ない。お前こそ滅びるがいい……」という具合の言葉を耳にし、銭丸は蒼白。


 最後、炉が赤熱化して爆発する寸前、銭丸はいつもの断末魔をひねり出すように絶叫した。

 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。獣魔融合は……爆死ッ……!!」


 その瞬間、恐ろしい衝撃音が轟き、炉の魔力が炸裂して建物全体を包み込んだ。黒い炎と稲妻のような閃光が交差し、獣魔人も人間も区別なく焼き尽くされる。施設の壁がブチ破られ、火柱が高々と上がる。瓦礫やコンクリートの破片が空を舞い、地面が割れ、周囲数キロに震動が伝わって悲鳴が広がる。

 翌日、そこにはやはり廃墟が広がり、多くの人が死傷し、獣魔人とやらも跡形なく消えているという報告がなされる。言うまでもなく銭丸も行方不明。あれだけの火炎と爆圧に巻き込まれれば生き残る道理はないが、毎度のように「きっとまた……」と苦笑する者がいるのも確かだ。



 こうして「人と魔獣の融合で新たなビジネスを」と高らかに宣言した企画も、最終的にいつもの大爆発で潰え去り、多額の借金と被害だけを周辺地域に残す形になった。獣の本能と人間の知性が合わさった生物は、結果的に制御不能の破壊をもたらし、銭丸の夢はまたも“爆死”というかたちで終幕を迎える。

 王都の人々は「本当に終わったか」と胸をなで下ろしつつ、同時に「いや、また次があるに違いない」と苦い笑みを浮かべるばかり。いつ果てるとも知れない彼の暴走は、今回も轟音と炎の柱を伴って収束し、その跡を眺める者たちに呆れと疲弊をもたらすだけだった。それでも、誰かがこう囁く――「獣魔の次は何をやらかすんだろうな……」と。もう銭丸の行動に驚く者は、ほとんどいなくなっているのが不気味なほどである。

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