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第76章「竜の秘境で爆死!? 古き契約が呼ぶ滅びの空路」

 「地底も天空も、果ての霊界や天国までやったけど、そういえば“竜の秘境”って本格的に商売にしてなかったよな? 昔から神話で『竜たちの王国』と呼ばれる場所があるらしいじゃないか。そこを開拓して“竜との共存観光”を実現すれば、新たな観光と貿易の一大拠点になるはずだ。爆死なんて、もう卒業の頃合いだろ!」



 黒峰銭丸は、王都のとある書庫で大判の地図を広げながら力説していた。これまで数多の事業を立ち上げては、最後に大爆発や大破壊で散ってきた男が、また懲りずに新たなビジネスへ手を伸ばそうとしている。周囲にはいつもの仲間——水無瀬ひかり、バルド、メルティナが顔をそろえているが、彼らはすでに“またか”という思いで半ばあきらめつつ耳を傾けていた。


 「竜の秘境って、かつての竜族が築いたと言われる空中遺跡や、火山帯の奥地じゃないですか? 行くだけでも危険ですし、竜たちがまだ生息してる可能性が高い。そんなところを開発していいんでしょうか……?」

 ひかりは懸命にリスクを指摘するが、銭丸は「だからこそ儲けが出るんだろ?」と返す。

 「竜と共存って響きはウケがいいし、実際に竜の力を輸送や観光に使えば、飛行船より速く安全に空を飛べるじゃないか。メガフロートや月面とは違う、空を飛ぶ竜のための空路を整備して、世界中から客を呼べば爆死なんてありえない!」


 バルドが「前にもドラゴン便とかで爆死したじゃないか」と低い声で漏らすが、銭丸は「今度はちゃんと交渉して竜の協力を得るんだよ」と豪語する。メルティナも「竜を相手にするにはそれなりの契約と古代語の解読が必要」と渋い顔をするが、結局いつものように計画は止まらないままスタートしてしまう。



 目的地は王都から北西に向かった山岳地帯を越えた先、さらに雲海に包まれた“竜の峰”と呼ばれる連山の奥だ。そこには竜族の古い神殿や巣窟が残っていると言い伝えられ、近づけば強力な竜が飛来してくるため、人間の踏破はほぼ皆無という難所。

 銭丸はまず、“竜の峰”の手前に拠点を作り、そこを観光客や商人の中継地点にするという設計図を用意。そこからさらに奥へ進んで竜と交渉し、空路や飛行ライドを確保——最終的には“竜騎行ツアー”や“竜たちの王国見学”を開催するという壮大なプランだ。ひかりが読むだけで頭痛を起こしそうなほど、無謀極まりない。


 最初に工事隊と魔導研究者が山脈のふもとで拠点を築き始める。バルドが警備し、メルティナが竜対策の魔法陣を整備し、ひかりは莫大な費用の借金契約に書名を入れまくる。過去の教訓を思い出しても、銭丸の推進力は止めようがなく、大量の作業員とゴーレムが資材を運んで山道を整備していく。

 途中、飛竜かワイバーンらしき影が現れるが、バルドの護衛隊が牽制する形で退け、何度か火球を受けそうになりつつもどうにか建設を続行。現場には嫌な緊張感が漂うが、銭丸は「こいつを乗り越えて竜を仲間にできれば大儲けだ」と励ましの言葉を投げかけるばかりだった。



 数週間後、中継拠点ができあがり、あとは“竜の峰”のさらに高所まで道を開拓するだけとなる。そこにどうやって大きな観光施設を作るのか疑問だが、銭丸いわく「竜族と契約して空中都市を作ればいい」らしい。

 ともあれ、交渉も何も、まず“竜の長”とか“古の王”と呼ばれる存在と接触しないことには始まらない。バルドが代表隊を率いて峰の山頂へ向かい、メルティナが古代竜語で挨拶の儀式を行うが、雲海の上で待ち構えていたのは黄金に輝く巨大な竜だった。

 この竜は思ったより好戦的で、いきなり咆哮を上げて炎を吐き、代表隊を空中へ突き落とそうとする。メルティナが護符で防御し、バルドが剣を抜いて対峙するが、やはり竜の力は圧倒的に強い。代表隊が窮地に陥ったところへ銭丸が必死に駆けつけ、「交渉しよう! 俺たちは敵じゃない!」と叫ぶ。


 ところが、その竜が人間の声を理解するや否や、まるで自分たちを“下等”と侮蔑するかのような眼差しで睨んできた。竜語をつっかえつっかえ操るメルティナが「我々は平和的に来た」「協力が欲しい」と伝えるが、竜は鼻を鳴らして炎を軽く吐き捨て、どうやら興味がない様子だ。

 銭丸はそれでも必死に“商売の儲け話”をし始め、「竜と人間が協力して観光や空路を作れば莫大なメリットがある!」と熱弁するが、竜が理解を示すどころか激しく唸り声を上げて風を巻き起こす。彼の周りの作業員が吹き飛ばされ、崖にぶつかって倒れる者もいる。



 竜が一閃のしっぽ打ちで地面を砕き、バルドがその衝撃で転げ回るころには、交渉どころの騒ぎではなくなっていた。メルティナが「これは駄目だ……退却しよう!」と声を張り上げるが、銭丸は「ここまで来て引けるか、竜に金儲けを説得すれば絶対に乗るはずだ!」と躍起になる。彼が最後の手段として例の“宝珠”や“契約書”を取り出そうとした瞬間、竜はさらに大きな炎のブレスを吐き、峰の一帯が火柱に包まれた。


 どうにか難を逃れた一部のメンバーが崖下へ逃げ戻るが、銭丸は炎に巻かれかけ、山道へ転落しながらもかろうじて下層に続く道にたどり着く。周囲の兵士や作業員は死傷者が多く出ており、バルドも腕に火傷を負って苦しげに歯を食いしばる。ひかりは遠くからそれを見て青ざめ、「また爆死の予感が……」と思わざるを得ない。


 結局、竜との交渉は最悪の形で失敗し、山頂には近づけそうにない。だが、銭丸はいまだ諦めていないと宣言する。「別の方法で竜を操れないか?」と研究所を通じて闇術式や竜封じの儀式を調べ始める。バルドやメルティナが「そんなことしたら竜が怒るに決まってる」と必死に止めるが、銭丸は「客の期待があるんだ。爆死なんかしてる場合じゃない」と突き進んでしまう。



 最終的に、銭丸は“強制契約の呪術”という禁断の術式に手を出し、メルティナに半ば無理やり準備させる。これにより竜を無理に封印し、人間の言うことを聞かせる形に持ち込もうというわけだ。メルティナは「絶対にやめたほうがいい」と泣いて警告するが、彼は聞かない。

 いざ術式を発動しようという段階になり、場所は改めて山頂近くの岩場。バルドと部下が危険を承知で足場を作り、メルティナが封印陣を敷く。そこに竜を誘導して呪いをかける作戦だ。竜を崖下から飛び道具で挑発し、怒らせて誘き寄せるなど、本来なら無謀もいいところだが、銭丸はすでに血眼になっている。


 結果は誰が見ても火を見るより明らか——竜が再び姿を現し、瞬時に火のブレスを吐いて儀式陣の一部を焼き払った。メルティナが慌てて他の紋様をつなぎ直すが、竜はあまりに強大で、術式の展開前に防衛ラインが破られる形になる。バルドが間に入って剣を振るうが、竜の一撃で吹き飛ばされ、銭丸は術式を完成させようと必死に陣へ魔力を注ぐ。

 「あいつを封じ込めば、金になる……!」

 叫び声も空しい。竜は眼光を鋭く光らせると、狂暴な吠え声を上げ、尾で地面を叩き裂きながら猛烈な風圧を放つ。そこへさらにブレスを重ね、峰全体が轟音の火砕流に包まれたかのようになる。崖が崩れ、儀式陣が崩落した地点で、銭丸は例によってしがみつき、最後の力で叫んだ。


 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。竜の秘境は……爆死ッ……!!」



 直後、竜の息吹が山肌ごと吹き飛ばし、銭丸を中心に火柱と衝撃波が爆ぜる。一瞬で周辺が崩壊し、岩や瓦礫が谷底へ落下。炎と悲鳴が交錯する中、峰の上部がゴッソリと崩れて自然がまとめて粉々になったかのような光景が広がり、空が血色に染まって見えたという。

 翌日、生き残った者が麓から状況を確認しようとしても、上部は大岩と土煙で埋まり、竜の姿も見えない。そもそも山頂が吹き飛んでいるため、そこへ登る道も崩落していて近づけない。多くの死傷者や行方不明を出し、銭丸の姿は当然見当たらない。再び王都へ戻った人たちは「またか」と嘆息し、どこか「やはり」と呟く。


 こうして「竜の秘境を観光地にして金儲けをする」という欲望は、強大な竜の怒りと、乱暴な術式の失敗によってまんまと砕け散った。いつもの銭丸のごとく、最後は炎と爆発の悲鳴とともに“爆死”オチに終わる。もはや王都の人々には驚きすら薄く、「彼はきっと本当に竜の餌になったのだろう」とささやくだけだ。

 しかし何度も同じ末路を見てきた者たちは、「どうせまた、どこかで生き延びて次のバカげた計画を立てるんだろう」と苦笑を隠さない。こうして“竜の秘境で爆死”という新たな物語が加わり、銭丸の伝説はさらに厚みを増す。いずれにせよ、大惨事をもたらした後には破滅と欠片しか残らないのが彼の常——いつまでも続く因果のループを、今度こそ本当に断ち切る日は来るのだろうか。いや、神のみぞ知る……それが王都の人々の一致した見解だった。

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