第72章「幻夢遊園地で爆死!? 果てなき夢が呼ぶ破滅」
「海も空も地底も果てまで行き尽くしたが、まだ“夢”の世界を本格的にビジネスにしたことはなかったよな? だったら、現実の街に“幻想”を持ち込んで大規模テーマパークを作れば、子供も大人もみんなが喜ぶはずだ。いまこそ“幻夢遊園地”を造って、一攫千金を狙う時だろ!」
◇
黒峰銭丸は、王都の広場で大掛かりな看板を取り付けながら、そう高らかに宣言していた。周囲にはいつもの仲間である水無瀬ひかり、バルド、メルティナが顔をそろえているが、彼らはすでに嫌な胸騒ぎを覚えている。銭丸が大きな企画を打ち立てるたびに、最後は“爆死”の大惨事が起きてきた。そのパターンを幾度となく見せられていても、彼を止める術は持ち合わせていないのだ。
「夢の世界って言っても、どうやって実現するんですか? この現実の王都に大規模な遊園地を作って、幻術や魔導で“夢みたいな景色”を見せるってことですか?」
ひかりが書類をめくって確認しながら問いかけると、銭丸は大きくうなずいた。
「そうだ。魔導研究所の若い連中が、“幻覚+空間変質”の技術を使えば、限られた敷地でも無限に拡張感のある遊び場を作れるって言うんだよ。つまり、客に“夢と魔法の世界”を体感してもらうというわけさ。今度こそ爆死なんてありえない!」
バルドが“前にも幻覚系の迷宮や霊界に手を出して爆死したろ?”と小声で突っ込むが、銭丸は聞き流し、「今回はしっかり安全策を敷く」と適当な約束をするだけ。メルティナは大規模な幻術と空間操作を組み合わせることに疑念を拭えないが、銭丸の推進力に押され、彼女や研究所も技術協力する形になっていく。
◇
こうして“幻夢遊園地”プロジェクトが始動し、王都郊外の広大な敷地が造成される。そこに巨大な円形のドームをいくつか並べ、外見はただの遊園地のようでありながら、内部では魔導装置によって空間を歪ませ、客が入ると普通では考えられない広さや景色が展開される仕組みだ。
バルドが警備や工事管理を担当し、メルティナが空間制御と幻術演算をまとめる。ひかりは再び財務管理や出資契約、そして“万が一の賠償問題”まで抱えて苦労が絶えないが、銭丸は「きっと儲かる!」の一点張りで突き進む。
最初にテスト運営が行われると、確かに“幻夢”の名にふさわしい世界が広がった。ドームの中に入ると、まるで別次元へ来たような幻想的な建築が空にそびえ立ち、床が雲海となって足元がふわふわ漂うアトラクション、空飛ぶ絨毯のように移動できる仕掛け、水や火が踊るショーなど、魔導を最大限に活かしたスペクタクルだ。テスト客たちが「これはすごい!」と盛り上がり、銭丸は“爆死の心配なんて杞憂だろ”と自慢げに笑う。
◇
やがてグランドオープンの日がやってきた。王都から貴族や商人、さらには地方からの観光客が馬車や飛行船に乗って詰めかけ、「幻夢遊園地は革命だ!」との評判が噂を呼んで連日盛況になる。ドームの中で体験する“空間変形アトラクション”や“夢幻パレード”にみんなが拍手喝采し、街中で話題が絶えない。
銭丸は“この数年で一番の当たり”と鼻を高くして、さらに新アトラクションを拡張しようと計画を膨らませる。ひかりが「もう少し安定させてからにしましょうよ……」と止めても、「客が多いうちにどんどん稼ぐんだ」と聞かず、魔導負荷をさらに増やして巨大アトラクションを連続稼働させるよう指示する。
◇
だが、度重なる増設と過剰な演出が原因なのか、空間制御装置が想定以上のエネルギーを消費し始める。メルティナが警告しても、銭丸は「稼げるときに稼がなきゃ意味ない」とフル稼働を命じる。大勢の客が訪れるたびに、装置が超並列で幻術と空間変形を行い続けるため、中心にある“夢核”と呼ばれる魔導制御コアが高負荷に陥り、温度や魔力波が上昇し続けていた。
同時に、来場者の“願望”や“恐怖”が幻術を通して濃縮され、装置内部に蓄積されるという副作用が生まれていた。これは計画段階で想定していなかった事態らしく、人間の潜在意識や感情が幻術回路に流れ込み、どんどん負のエネルギーを膨らませている模様だ。メルティナが「これは“悪夢化”の可能性がある」と言っても、銭丸は「また大げさな」と軽く聞き流す。
◇
ついにある夜、“夢核”がオーバーフローを起こし始めた。日中に大量の来客があり、各アトラクションがフル稼働したせいで、装置が休む間もなく、客たちの膨大な感情と欲望が溜まりに溜まってしまったのだ。施設の監視員が「コアが赤熱化してます!」と叫ぶころには、既にコアは警告温度を大幅に超えていた。
バルドが夜間作業員を集めて非常停止をしようとするが、コアが自己防衛モードを発動し、外部からの操作を遮断している。メルティナが「こんな高度な防壁をいつ組み込んだの?」と首をかしげるほどの結界が発生し、ひかりが「まさかまた暴走が……」と青ざめる。
結界の中ではコアが脈動し、現実と幻の境目をあやふやにしてゆく力が広がり始める。施設のあちこちに不可解な幻影が揺らめき、夜のドーム内を彷徨う客たちが「まだ営業してると思って」中に入り込んでしまい、それぞれの恐怖や欲望が具現化したような怪現象に悲鳴を上げる事態が連鎖する。
銭丸が駆けつけて「大丈夫か? こんな夜中に来る客なんか無視すりゃいい」と言い放っても、現実には人々が迷い込んでいる。幻術と空間歪曲が交じり合い、通路が入り組んで出口がわからない。まるで巨大な悪夢迷宮と化したアトラクションが勝手に稼働する形だ。
◇
まもなく“夢核”が極限に達し、内部で何かが弾けるかのような衝撃が走る。ドームの天井がぐにゃりと歪み、一部が空に浮かぶかのような錯覚を生み出し、次の瞬間には逆さに床が張り付くように上下が反転するエリアが出現する。客やスタッフがパニックで悲鳴を上げ、あちこちの壁を掴むが、そこもまた幻影で通り抜けてしまう。
まるで“夢”と“現実”がごちゃ混ぜになった空間が生まれているようで、バルドが必死に客を救おうとするが、ただでさえ混乱している大勢の人々が悲鳴を上げて際限なく狂乱の渦に巻き込まれていく。メルティナが止めようとするが、コアへアクセスする術がない。ひかりは半泣きで「また……同じ結末になるんですか?」と呟く。
銭丸は最後まで意地になってコアへ突っ込もうと試みる。「あそこを破壊すりゃ終わるだろ」とチェーンソーじみた魔導のこぎりを抱え、空間の歪む通路をかろうじて乗り越えようとするが、踏み込むたびに足場が幻になって崩れ落ち、何度も転倒する。ようやくコアのある中枢部屋にたどり着いたときには、床も天井も回転するように視界を惑わせ、すでにコアが不気味な虹色の輝きを放っていた。
◇
鮮やかながらも嫌な光を漂わせ、コアが膨れ上がり、縦横に無数の亀裂が走っている。銭丸が懲りずに特攻をかけ、「止まれぇぇ!」と叫ぶが、コアが激しく脈動し、何かの意志が介在しているかのように周辺へ幻術の激流をぶつける。周囲の壁や床が綿菓子のように溶けて形を失い、暗闇の空間に銭丸がひとり取り残されたかのように見える。
そこでいつものような絶叫が響く。「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。幻夢遊園地は……爆死ッ……!!」
直後、コアが限界に達して大爆発を起こす。幻術と魔力が混ざった衝撃波がドーム全体を内側から引き裂き、建築物が宙を舞うように砕け散り、炎と虹色の光があちこちで弾ける。客やスタッフを巻き込んだままの空間は、きらびやかな残像を一瞬だけ浮かべて、しばしの後、暗転して消え失せる。
◇
翌朝、王都の人々が現場を見に来ると、そこには無残な瓦礫と黒焦げの地面が広がっていた。あれだけ華やかだった幻夢遊園地のドームや建物はほぼ形を失い、ただ一部の鉄骨や魔導装置の破片が散らばっているのみ。あれほどの空間変形を引き起こす装置が連鎖誘爆を起こした結果、何もかも夢幻のように消えてしまった。
銭丸の姿は言うまでもなく見当たらず、あれだけ壮絶な爆発に巻き込まれたら生存は不可能だろう、というのが大多数の声。だが、これまでさんざん“爆死”から生還してきた男だからこそ、「本当に死んだのか?」と苦笑を浮かべる者が何人もいるのも事実だ。
こうして“夢の世界を現実に持ち込む”と謳った壮大な遊園地は、わずかな間の熱狂を残して大破局へと沈んだ。いつものように銭丸が必死に儲けを狙った先には、常に破滅的な大爆発が待ち構えている——それを人々が改めて思い知らされる結果となる。
あまりにド派手な爆散だったため、“夢こそ儚い”という悪い見本みたいに噂が広まり、観光に来た客も財産を失い、負傷や行方不明者が絶えないという悲惨なオチ。王都の住民は「これで何度目だ……」と新たなメモを取るだけで、もはや誰も驚きを見せないのが逆に痛々しかった。
いっそあの男も本当に夢幻の中へ消え去ってくれたのか。それともまた、何らかの“奇跡”を盾に生還して、次の地獄を呼び寄せるのかは誰にもわからない——これが毎度の定番になりすぎて、今回も一夜の幻夢に巻き込まれた民衆がいるだけだ。誰もが呆れてやるせない気持ちを抱きながら、ただ破壊と悲惨の残骸を眺めるばかりなのであった。




