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第71章「地獄観光で爆死!? 冥府への誘いが呼ぶ大惨劇」

 「“天国”までリゾート化したし、次はやっぱり“地獄”しかないだろ? あの世の極楽を売るなら、地獄のほうも観光にすれば、バランスが取れるじゃないか。地獄には死者の魂や恐怖が満ちているって噂だが、そこを逆手に取れば、まさに“絶叫アトラクション”になるはずだ!」



 黒峰銭丸は、王都近郊の廃墟になった修道院で古い文献を漁りつつ、声を張り上げていた。すでに天国リゾートを作っては爆死し、海底・天空・深海神殿・砂漠や月面など、あらゆる場所で巨大ビジネスを立ち上げては最後には破滅――そんな伝説を刻んできた張本人が、また新たな領域へ踏み込もうとしている。いつもの仲間である水無瀬ひかり、バルド、メルティナが恐る恐る見守っているが、無謀な企画は止まりそうにない。


 「地獄って……生者が本来行くところじゃないですよね。あの天国リゾートのときも“死者の世界を利用する”なんて無茶をした結果、あんな惨事になったじゃないですか。今度はさらに深刻な“冥府”とか“大罪の業火”があるような場所なんでしょう?」

 ひかりが書類をめくりながら呆れ半分で指摘するが、銭丸は頷きさえせず、ニヤリと笑う。

 「だからこそビジネスチャンスなんだよ。魂の苦しみや炎の裁き――聞いただけで怖ろしいが、それを安全に“観光”できれば、好奇心旺盛な客は喜んで大金を払うだろ? 爆死の心配なんて、もう何度も乗り越えてるじゃないか!」


 バルドはため息をつきながら「乗り越えてるんじゃなく、毎回爆死してるんだよ……」と小声で呟くが、銭丸の耳には届かない。結局、地獄観光プロジェクトが押し流されるように動き始め、メルティナが亡者の世界を扱うための魔導儀式や、瘴気対策の結界を設計し、ひかりはまたしても多額の借金と出資契約を取りまとめる形になった。



 銭丸の狙いは、古くから“冥府への門”と伝わる遺跡を使って死者の魂が送られる領域、通称“地獄”へ踏み込もうというものだ。どうやら天国リゾートを作ったときと似た発想で、“生きながらにして地獄を見学する”ツアーを販売しようとしている。しかも死者の裁きを眺めるアトラクションや、“地獄の炎”を使った焼き尽くし体験など、相当に危険な香りしかしない計画が山積みだった。


 以前の霊術や儀式の失敗例があり、周囲も猛反対すると思いきや、奇妙なことに“さらなるスリル”を求める闇金や裏社会の連中がこのプランに乗り気になっているという話を聞く。闇の顧客が「罪人の魂を地獄に落として見せるショー」や「恐怖を体験するための拷問アトラクション」に興味を示しているらしい。

 バルドが「こんなの公にやったらまずいだろ?」と食い下がっても、銭丸は「ならクローズドなVIP客向けにやればいい。闇金勢や好奇心の強い貴族が金を落としてくれるなら問題ない」と強引に推し進める。ひかりは頭を抱えて「公には無理なら裏商売になる……それって最悪のパターン」と思いながらも止まらない流れに唇を噛む。



 こうして王都外れの修道院跡で“地獄ゲート”が整備され、地下に眠る巨大な祭壇を掘り起こすことから始まった。メルティナが儀式を設定し、バルドの護衛隊が怪しげな霊術師や闇金筋の客たちを受け入れる形で準備が進む。施設には「地獄の業火」を模した赤黒い装飾が施され、亡者のモチーフをあしらった内装が並ぶなど、見た目は“お化け屋敷”の延長に近いが、使う魔導と呪術はまるで本物の冥府と繋がるかのようだった。

 銭丸が広告を打つ段階で大っぴらに宣伝こそしないものの、闇社会や好奇心の強い貴族に対して「地獄観光が実現。最深の業火を覗き、地獄の裁きを体験できる」と囁くと、意外にも需要はあるらしく、早期予約が埋まったという。ひかりは「こんなに人が来るなんて、世も末ですね……」とため息をつく。


 準備が整い、試験運用として小規模な儀式が行われる。祭壇中央に設置された“地獄門”が赤い炎をゆらめかせ、人の魂を数分だけ向こう側へ送り出し、地獄の光景を体験させて再び呼び戻すという仕組みだ。最初の数人は「まるで燃え盛る奈落を見た」「炎の牢獄に囚われる感覚があった」と青ざめながら戻ってくるが、確かに“帰還”は成功している。銭丸は「ほら見ろ。意外と安全じゃないか」と得意になっていた。



 実際、初期のうちは割とスムーズで、客は恐怖と興奮を味わい、大金を落として帰る。特に闇金勢や裏社会の者たちは「地獄の炎を見た」というステータスめいた体験を買い、さらには“仇敵の魂を地獄に落とす”などという復讐プランまで耳にするが、そこはギリギリのラインで銭丸が「まだ試してない」とごまかしているらしい。ひかりは倫理的にドン引きしているが、既に止まらない。

 そんな中、メルティナが連続的にゲートを使うことのリスクを再三警告する。「地獄と呼ばれる領域は大きな負の感情や罪が渦巻く世界。その扉を何度も開けば、こちらにも悪霊や怨念が逆流してくるかもしれない」と。だが銭丸は「前の霊術失敗と同じ轍は踏まない」と大言壮語し、周囲の不安を封じ込めてしまう。



 ある夜、施設が闇客で賑わう最中に不可解な事件が起きる。何者かがゲートを勝手に操作し、複数の客を一斉に地獄側へ送り込んだ形跡がある。戻るはずの魂が戻らず、体だけが抜け殻となって動かず横たわっているという悲惨な状態になった。バルドが監視カメラ(魔導映像)を調べても犯人が映っておらず、闇金系の抗争か、あるいは地獄そのものが呼び込んだのか謎のままだ。

 この時点でかなりやばい雰囲気が漂うが、銭丸は「騒ぎを抑えればいいだけだ。利用規約に“魂の行き先は保証しない”と書いてあるし、客も自己責任ってことで納得させれば続行できる」と無理やりビジネスを続ける。ひかりが「そんなの倫理的に……」と訴えても、「金が入るうちはやめない」と突っぱねるのだ。


 そして案の定、悲劇の引き金が引かれる。ある闇金の大物が「すでに死んだ仲間の魂を地獄で呼び出して取引したい」と言い出し、大金を積んで銭丸に“特別儀式”を要求する。そんな荒唐無稽な依頼だが、銭丸は「儲かるなら」と受けてしまう。メルティナが必死に止めるが、最終的に金の力で押し切られる形に。

 当日、祭壇はあらゆる闇の術式で強化され、“地獄門”が通常以上に大きく開かれる。ところが、途中で儀式が暴走を始め、魂を呼び戻すどころか一気に大量の怨霊や鬼火が逆流し、施設全体を呑み込む霊的嵐が発生。バルドが警備陣を投入するが、亡者の群れが次々と人間に取り憑いて奇声を発し、建物のあちこちに黒い炎が走る。



 ドォンという轟音が響き、地下の祭壇室が血のような赤い光で満ちる。周囲の壁や天井に亀裂が走り、重い石が次々に落下。メルティナが結界を張ろうとしても、その上から鬼火が飛び交い、焼け焦げの煙が立ちこめる。客やスタッフが逃げ惑うなか、銭丸も相変わらず最後まで金の巻き上げを気にしている。

 「くそっ……こんなところで止められるか……! ゲートを閉じるんだ、誰か閉じろ!」

 しかし制御装置は既に破壊され、門は全開になったまま。冥府から吹き出す黒風が室内を渦巻き、獣のような怨霊がうごめき出す。バルドが剣を振るうが、まともに斬れずに弾かれ、銭丸は最後までどうしようもない状況の中で声を上げる。


 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。地獄観光は……爆死ッ……!!」



 断末魔の絶叫の直後、祭壇が崩れて床下から業火が噴き出すかのような爆発が起きる。怨霊の力と魔導の衝突が爆心地を作り出し、施設全体が一瞬にして火柱に包まれる。黒い炎と赤い炎が交錯し、凄まじい衝撃波で建物の外壁が吹き飛び、空には無数の亡霊が叫んで消えていくような光景が広がったという。

 翌日、そこには瓦礫と焼け焦げた地面が残され、施設だったものはまるで痕跡もないほどに破壊されていた。人々が「あれほどの怨霊の爆発なら助かるわけがない」と口を揃える一方で、「でも、銭丸だからな……」と半信半疑で首をかしげるのもいつものこと。


 こうして「地獄を観光に変える」という前代未聞の試みは、今回も一瞬のスリルと多額の投資を飲み込んで、最後は“爆死”の大爆発へ飲み込まれる形で幕を下ろした。生者が冥府へ手を伸ばそうなどと考えれば、逆に冥府がこちらに侵入してくるのは道理——その結果、財産も命も呑み込む大破壊を誘発するのが、いつもの銭丸の結末だろう。

 何度舞台を変えても、彼が行き着く先はやはり大炎上または大爆発——人々はもう驚きすらなく、「またか」と苦笑するだけである。しかし、その彼自身が地獄に行けたのかどうか、また本当に死んだのかどうかは、霊術師たちにもわからない。万が一戻ってきたら、次は何をやらかすのか……人々は疲れた顔でそんな噂を交わしながら、焼け野原と化した地獄観光施設の跡地を遠巻きに眺めるだけだった。

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