第70章「天国リゾートで爆死!? 極楽の門を叩く亡者たち」
「天まで行ったが、まだ“あの世”ってやつは本格的に攻めてないだろ? そこでだ……今度は“天国”や“極楽”と呼ばれる場所を観光化してみせるんだ。生きてるうちに極楽体験ができるリゾートを作れば、どんな客だって金を惜しまないに決まってるじゃないか!」
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黒峰銭丸は、王都の古寺跡地で奇妙な霊的結界を覗き込みながら、いつもの大口を叩いていた。これまで海底や天空、深海神殿にブラックホールまで手を出しては爆死を繰り返してきた男が、今度は“天国”に関連するビジネスを立ち上げると豪語している。周囲にはおなじみの仲間、水無瀬ひかり、バルド、メルティナが疲れた目を向けているが、もう止める術はなさそうだ。
「天国って……具体的にどうやって行くつもりですか? そもそも死んだ後の世界とか、魂が行く領域とか、そういう定義が曖昧じゃないですか。勝手に観光化なんて可能なんでしょうか?」
ひかりが冷静に尋ねるも、銭丸はニヤリと笑って答える。
「ここの古寺には“極楽門”と呼ばれる霊的ゲートがあるっていう伝承があるんだ。要するに、死者を送る祭壇だが、逆に生きてるうちにそこを観光ルートに転用すればいい。魂をちょっとだけ向こう側に送り込み、安全に帰ってこられるようにすれば、新しいビジネスになるだろ? 爆死なんてもう懲り懲りさ!」
メルティナは霊的な話には慣れていないが、魔導研究の一部で“魂の通路”や“冥界通信”についての仮説があると聞いたことがある。とはいえ、それを観光客向けに開放するなど前代未聞であり、相当危険を伴うだろうと直感する。
バルドは「案の定、妙な連中を引き寄せる話になるんじゃないか?」と眉をひそめる。だが銭丸は「金になるから大丈夫だ!」と突き進む。ひかりが「毎回その言葉で最後に爆死してるの、覚えてません?」と呆れても、彼はまるで耳を貸さない。
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こうして「天国リゾート」「極楽観光ツアー」という前代未聞のプロジェクトが動き出す。舞台となるのは王都近郊にある“鬼門”と呼ばれてきた古寺跡。この場所はかつて霊的な儀式で死者を弔い、場合によっては魂をあの世へ送るための“極楽門”が存在すると言い伝えられていたという。
銭丸はその古寺を買い取り、廃墟同然の建物を改装して“極楽門リゾート”を建設する計画を提示。内部には宿泊施設や癒やしの温泉、さらに天国をイメージした装飾を施したホールやベッドルームを整える。そして客に擬似的に“死に近い体験”をさせ、魂を数分だけ極楽へ飛ばし、再び生還させる——そんな目玉アトラクションを売りにしようというわけだ。
もちろん、魂を抜き取るなんて正気の沙汰ではないし、魔導研究所でも危険すぎると反対の声が強い。しかし銭丸は「短時間だけなら大丈夫」と言い張り、例によって得体の知れない闇ギルドから特殊な霊術師を雇い入れる。
メルティナが「闇ギルドの力を使うなんて、ゴーレム事件や人工頭脳の暴走よりも危険だ」と慌てても、彼は「金になるなら多少のリスクはOK」と笑う。すでに出資を募ってしまったため、止まるに止まれないのが本音だろう。
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バルドが施設の警備と儀式装置の運搬を担当し、メルティナは周囲の霊的環境を調整しながら、最小限の安全策を敷こうとする。ひかりが観光パンフレットや契約書をまとめ、「極楽体験は自己責任で」「魂の行き先については当社は責任を負いかねます」とか非常に危うい文言を付加。客が集まるのか不安だったが、意外にも「死ぬ前に天国をちょっと見たい」「親しい故人と会えるかも」という不思議な動機の客が多く、初期募集はそこそこ好評を博した。
こうして施設は“死者を送り出す古寺”を改装したリゾートとして再生され、銭丸は幽玄の雰囲気を生かして“死後の世界を先取りしよう”というコンセプトで宣伝。薄暗いロウソクの灯りや白い布の内装、ほのかに香る線香の匂いに仕立て上げ、客に“あの世への旅”を予感させる演出を大胆に仕込んだ。
開業初日には王都の好奇心旺盛な貴族や、何かを探し求める人々が集い、「魂の一時外遊ツアー」に申し込む。そこで霊術師が“極楽門”を開き、短時間だけ人の魂を抜き取って別の空間へ送り出す——という危険な儀式が始まる。最初は何人かが恐る恐る体験し、途中で悲鳴を上げながらも無事に戻ってきた姿に「すごい……本当に別次元を見た」と感動が走り、宣伝効果は抜群に上がった。
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銭丸は「ほら見ろ、まさに新時代の観光だ」と得意満面で語り、客の体験談を派手に広告し始める。いわく「天国の門が見えた」「亡き祖母と会えた気がする」「無の世界を垣間見た」など、真偽不明ながらも感動の声が噴出。これでますます人が殺到し、施設は大繁盛する。バルドやメルティナは「大丈夫か?」と疑いながらも、少なくとも今のところ死者は出ていない。ひかりも「今回は本当に爆死しない……?」と一瞬期待しかける。
しかし、霊術師たちが言うには、あまりに多くの魂を抜き取り、頻繁に“極楽門”を開くと、門そのものが暴走するリスクが高まるという。そもそも古来は死者を一度に大量に送るなど想定されておらず、商売を想定していなかった。“異界との境界が歪み、悪霊や魔が入り込みやすくなる”と何度か警告されるが、銭丸は「またそんな迷信めいた話?」と鼻で笑う。
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実際に客が増えて高額な料金を払うほど、経営としては利益が出るため、施設のフル稼働が続く。次第に「短期間で数十人を連続送り込む」とか、「死んだ知人の魂を探し出して会話したい」と無茶な要望が相次ぎ、霊術師たちにも負担がかかる。さらに施設自体が霊的残留物で飽和状態となり、空気が重苦しくなっていく。
メルティナが「異界との境目が薄くなってる」とセンサーで警報を出し、バルドも「最近、夜にうろつく幽霊じみた影を見た」という報告が後を絶たないことを伝えるが、銭丸は「逆にホラースポットになるから儲かる」と軽い反応を崩さない。
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ついに最初の異常事態が起きる。ある霊術師が儀式の途中で「門が暴走してる……魂が戻らない!」と悲鳴を上げ、結局その客は行方不明になってしまう。体は生きているが意識が戻らない“抜け殻”状態だというのだ。
バルドが「これ以上の営業は危険だ」と即座に中止を求めるが、銭丸は抵抗する。「客に返金なんてできるか! まだ大勢の予約が詰まってる。何とか門を安定させてくれ!」と霊術師に押し付ける形だ。ひかりは「人の魂が戻ってこないって大事件ですよ」と叫んでも、彼は「やむを得ない事故だろ?」とまるで意に介さない。
次の夜、儀式中にさらに複数の客が同じように戻れなくなるという事態が連鎖し、霊術師たちが口々に「ここはもう無理だ……門が完全に壊れかけてる」と悲鳴を上げる。それだけでなく、逆方向から“大量の亡霊や怨霊”が施設内へ入り込み、深夜に浮遊する白い影や、突然人に取り憑く形で“半死半生”状態を引き起こす恐ろしい現象が噴出。
メルティナが魔法陣で浄化を試みるが、門から溢れる霊的エネルギーがあまりに強く、抑えきれない。バルドや警備隊もただ立ち尽くし、施設内は半ばホラー映画さながらの怪現象が連発し、悲鳴や失神者が続出する。
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連鎖的に門が大きく開き始め、誰も儀式を行っていないのに勝手にゲートが展開されているようだった。まるで“死者の国”そのものが施設へ流入してくるかのような凶兆が現れ、廊下や部屋が霧に包まれ、誰かのすすり泣きや無数の囁き声が響く。見れば、客やスタッフの姿が一部消えている場面もあったという。
ひかりが「こんなの想定外よ! 早く施設を閉鎖しなきゃ……」と必死に叫ぶが、もう外へ逃げ出せないほど周囲が霊気に包まれ、扉や窓が開かなくなっている。バルドが斬りかかっても異界の影がすり抜け、メルティナが浄化魔法を撃っても焼け石に水だ。
最終的に“極楽門”が巨大化して歪んだように暴走し、施設中央のホールで結界が崩壊して凄まじい量の亡霊や怨霊が噴き出す。あちこちで意識を失った客やスタッフが悲鳴と恍惚の混じった声を上げ、空気が黒い靄に包まれる。銭丸は無理やりホールに突っ込み、「止まれ……こんなふざけたこと」と絶叫するが、時すでに遅い。
門の核がビリビリと閃光を放ち始め、最後にいつものように銭丸の雄叫びが響く。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。天国リゾートは……爆死ッ……!!」
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その瞬間、霊的な衝撃波がドォンと走り、建物全体が爆発的に吹き飛んだような感覚に襲われる。実際には物理的爆風だけでなく、霊魂の力が混ざり合って何かが一気に崩壊する形だったという。翌日、近隣住民が駆けつけても、そこにはただ荒れ果てた更地が広がり、建物の跡形すら残っていなかった。
“極楽門リゾート”があったはずの場所には、焼け焦げた木片と瓦礫が散乱し、あれだけ華やかだった施設や客たちの姿は一切見当たらない。まるで大爆発に巻き込まれたかのようだが、そもそも炎の痕よりも霊的な瘴気の残滓が漂っており、一種の悪夢のあとが実感できるだけだ。言うまでもなく、銭丸の姿など皆無だった。
こうして、“生きながらにして天国体験を売る”という前代未聞の観光ビジネスは、短期間で多くの客を集め、怪しげな人気を博しつつも、いつもの結末を迎える。最後は銭丸の爆死じみた断末魔と、霊的な大崩壊によって施設ごと吹き飛んで消える。生者と死者の境界に踏み込めば、取り返しのつかない破滅が待っているのは当然——人々はまたしても、あの男が“やはり最後は破滅に終わった”と淡白に受け止めるしかなかった。
もしかしたら、彼は本当に天国へたどり着けたのかもしれない……などという噂がゼロではないが、少なくとも残された現世にはまた大量の借金と怨嗟の声が増えただけだ。天国どころか地獄を呼び寄せた「爆死の帝王」は、今回もなぜか姿を消して、世間にさらなる伝説を刻んでいくのだった。




