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第69章「氷雪王国で爆死!? 永久凍土の果ての悪夢」

 「海や空や深海やら、散々いろんなところを開発してきたが、まだ“氷雪の世界”は手付かずじゃないか? そこを観光ビジネスで攻めたら、新たな金脈を掘り当てられるはずだろ!」



 黒峰銭丸は、王都の酒場で分厚い寒冷地図をテーブルに広げながら、いつものように胸を張った。周囲には水無瀬ひかり、バルド、メルティナが集まっているが、彼らはこれまで幾度となく銭丸の大規模事業に引きずり込まれ、そのたび最後は“爆死”の大惨事を目撃してきた。今回も嫌な予感しかしないが、本人のやる気を止められる空気ではない。


 「氷雪の世界って……極寒の地帯のことですよね? 人が住めないほど冷える地域で、実際に商業や観光が成り立つかどうか、大昔から成功例がほとんどないんですけど」

 ひかりが資料をめくりながら、呆れ半分で尋ねる。

 「そこでこそ魔導技術の出番だ。永久凍土でも、上手く溶かせば温泉リゾートを作れるし、雪や氷をアトラクションにすれば、雪国ならではのビジネスが生まれる。オーロラや氷祭りだって客寄せになるだろ? 爆死の前科なんか気にしてたら儲からんよ」


 銭丸は大口を叩き、“今度こそ”という言葉を何度も繰り返す。バルドが「極寒地帯は魔獣や氷精霊もいて危ないし、寒さで設備が壊れやすい」と注意喚起しても、「そこを魔導炉で暖めれば解決さ」とあっさり押し切ろうとする。何度も続いた失敗経験からして危うい限りだが、銭丸が一度火をつけたら止まらないのが常だ。



 こうして一行は“氷雪王国”と呼ばれる極寒地域へ足を運ぶことになった。王都を出発し、山脈を越え、さらに北へ数日行くと、白銀の雪原が果てしなく続く風景に突き当たる。そこには小規模な集落が点在し、厳しい気候下で細々と生活している人々がいるが、大きな都市開発など見たことがない。

 銭丸が契約を取り付けた地元領主は、“寒さに耐えきれず移民が流出して困っているから、開発を歓迎”という立場であり、鉱山も近くにあるため、工業や商業の振興に期待を寄せていた。一方の地元住民は「外の人がいきなり来ても大丈夫か?」「氷の魔物に襲われるのでは?」と不安を隠せない。


 バルドが取り急ぎ工事班と警備班をまとめ、メルティナが“極寒用の魔導炉”や“暖房システム”を設計。ひかりが出資者との契約書類を山のように整理する中、銭丸はいつもの大言壮語を吐く。

 「ここに巨大なドーム施設を建てて、雪を溶かした温泉街と、凍らせたままの氷の宮殿を融合させる。さらに夜空にオーロラが出るように魔導ライトを仕込めば、観光客は大喜びだ。爆死なんてしないさ。むしろ新しい稼ぎの柱ができる!」



 まずは“氷雪王国の玄関口”となる城郭都市を再建することが決まり、現地では大きな工事が始まる。周囲を雪で覆われた町に高性能の暖房や上下水を通し、屋内型のアミューズメントエリアや宿泊施設を計画。氷の彫刻を常設展示し、酒場で温かい飲み物を提供するなどのアイデアが次々浮かび、銭丸は「これは当たりだ」と意気込む。

 問題は、想像を絶する寒波が時折襲う地域であること。暖房設備を24時間フル稼働すると、莫大な燃料や魔力を消費し、メルティナが「こんなコストじゃ運営が成り立ちません」と警告する。だが銭丸は例によって「客から高めの利用料を取ればいい」と強行突破を狙う。


 さらに、この地には“氷精の巣窟”と呼ばれる自然魔法領域があり、あまり人間が踏み込むと精霊や魔獣が怒り出すという伝承がある。バルドが「過去に何度か遭遇例があり、無闇に奥へは立ち入れないらしい」と調べるが、銭丸は「それなら観光向けに温泉ダンジョンでも作ればいい」と相変わらずポジティブ思考を捨てない。ひかりは「またか……」と嫌な胸騒ぎを抱えこむばかり。



 工事が進み、いくつかのドーム型建築が完成すると、雪原と氷の景観を楽しむ観光客が少しずつ訪れ始める。豪華ホテルや氷のバーが並び、銀世界の中にきらびやかな魔導ランプがともる姿は、たしかに美しく幻想的だった。真夜中に小規模なオーロラを魔導ライトで再現し、客から「すごい! 本物みたい!」と拍手が起きる。銭丸は「ほらな、爆死なんかもう卒業さ」と得意顔で言い切る。


 しかし、一定の期間が過ぎると問題が山積みになる。現地の気温が予想以上に低く、暖房設備が休めず、莫大な魔力を消費して借金が増える。氷の屋根が振動や風雪で壊れたり、道路が凍結して補修に追われたり、さらには周囲に住む“雪獣”が食糧を求めて街を襲うトラブルも頻発する。

 バルドたちが警備を強化しても、一部の魔獣は氷の壁を容易に破壊できるほど強靭で、実際に何度か市街地に侵入して被害を出す。ひかりが「安全対策に予算を……」と願っても、銭丸は「今は金が足りないからあと回しだ」と後手を踏み、その場しのぎを続ける。



 さらに深刻なのは“氷精の巣窟”付近で無理な観光開発を進めてしまったせいで、氷雪の精霊や魔導現象が一斉に荒れ始めたことだ。メルティナが結界を張ろうとするが、そこは古来より人を拒む場所らしく、自然の魔力が強すぎて制御が効かない。ときどき地吹雪が起きて観光用の施設が半壊し、何度も修復に追われるが、銭丸は「こんなの客が喜ぶイベントにしよう」と呑気に言う。


 ある日の深夜、街が異様な寒波に襲われる。気温が急降下し、ドームの魔導ヒーターが限界を超え、バチンという破裂音とともに一部停止。室内温度が一気に氷点下へ落ち込み、壁や配管が凍結して割れ、大量の水が流れ出して床が氷に覆われる。観光客は慌てふためき、バルドたちが暖かい場所へ誘導しようにも、施設がいくつも崩壊している。


 ここで銭丸が慌てて「非常ヒーターを稼働させろ!」と叫ぶが、魔力が足りず炉が動かない。加えて、隣接する外部区画に“氷竜”のようなモンスターが出現したという報告が入り、そいつがブレスで構造物を凍らせているらしい。バルドが迎撃に出るが、相手が大きすぎて歯が立たない。ひかりが「ここもう駄目かも……」と青ざめるなか、銭丸は必死にあれこれ指示するが、誰も対応できる状況ではなくなっていた。



 結果的に氷竜の襲撃と恐ろしい寒波が同時に街を飲み込み、建物のガラスや金属部分がバリバリ音を立てて割れ、地面には大きな亀裂が走る。暖房装置が完全に停止した瞬間、飛び散った水がすぐに凍り付いて雪と氷の塊になり、街全体が凍結するかのように閃きながら凍りついていく。    銭丸はドームの一角で転倒し、凍りついた床を滑りながら立ち上がれず、体を引きずって闘おうとするが、既にどうにもならない状態。周りの施設が次々と倒壊し、氷の板が雪崩のように押し寄せる。最後の声が、いつものように凍てついた空気にかき消されるかのように響く。


 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。氷雪王国は……爆死ッ……!!」



 その言葉とともに、巨大な冷気の爆風が吹き荒れ、魔導ヒーターの炉が逆転爆発を起こしてドォンという衝撃がドーム全体を砕く。雪と氷が舞い散り、建築物が根こそぎ破壊されていく。氷竜の咆哮に混じり、観光客やスタッフの悲鳴が凍りついたように遠のいていった。翌朝、壮大だったはずの街は白銀の瓦礫と氷の塊が積もる廃墟になり、多数の人命が失われる最悪の大惨事へ。

 かつてのメガフロートや月面、人工頭脳まで破壊した男が、今度は氷雪の地で火柱ならぬ“凍結の惨劇”に巻き込まれ、行方知れず——多くの人は「まさか生きてるわけがない」と口にしつつも「でも、あの銭丸だからな……」と苦い顔をする。


 こうして「氷雪王国」をリゾート化しようとした壮大な夢は、たった一度の寒波と魔獣襲撃で化けの皮が剥がれ、最後にはいつもの銭丸の爆死オチを迎える。結局、彼が関わる事業は何もかも裏目に出て破滅へ向かう運命から逃れられないようで、人々はまたしても「こんな荒涼たる地に、なぜ無理をしたのか」と口々に嘆く。雪原のしじまだけがすべてを呑み込む最終章の如き光景に、誰ももう驚きもせず、ただ翻弄された投資家たちが財産をなくして帰途に就くばかりだった。


 爆死伝説を何度も更新してきた黒峰銭丸——そのしぶとさを知る者からすれば、「まさか氷漬けになってもまた来るのか?」と呆れる声が絶えないが、現場を見た多くの人は「あれだけ凍結したらもう無理だろう」とため息交じりに語るのみ。こうして氷雪リゾートは、一瞬の華やかさを残したまま氷の墓場と化し、銭丸の商売熱がいかに破滅に向かうものかを再度思い知らされる結末に終わるのだった。

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