第53章「海上メガフロート都市で爆死!? 深海魔獣が呑み込む野望」
「陸の開発はだいたい限界があるだろ? ならば、海の上に“メガフロート都市”を作ればいい。広い海面を活かして、大規模な人工島を浮かべちゃえば、物流も観光も大繁盛に決まってるってわけさ!」
黒峰銭丸は、王都の港に停泊する大型船のデッキ上で、熱っぽくそう語った。いつものように野心あふれる構想だが、その隣にいる水無瀬ひかりは苦笑を浮かべるばかり。過去の爆死歴など、まるでなかったかのように声を弾ませる銭丸に、彼女は半分あきらめた調子で書類を確認している。
「メガフロート都市って……海上に巨大な浮島を作るんですよね? そもそも、あちこちの技術と膨大な資金が必要ですし、海の脅威は多いと思いますけど」
「そこを俺が取りまとめるんだよ。船舶ギルド、魔導研究所、それに海外の投資家たちを巻き込めば資金は集まる。海を支配する都市ができれば、大儲け間違いなしだろ?」
◇
銭丸はさっそく、海洋ギルドや造船所などと連携し、巨大な浮体構造を用いた“メガフロート”の建設に踏み切る。魔導エンジンで安定させ、海流や波に対応できる技術がある、と技術者に説明を受けつつ、「海上にビルや施設を整備し、そこを商業や観光、住宅にまで活用する」という青写真を打ち出す。
バルドが資材運搬と警備の指揮をし、メルティナが海上での魔導機器調整を担当。ひかりは例によって契約と財務の管理をするが、「失敗すると大事故になる」と警告しても、銭丸は「慎重にやるから大丈夫!」と答えるだけで進めてしまう。
「本当に大丈夫なんでしょうか……毎度それで爆死してる気が」
「安心しろ。海には爆発のリスクが少ないだろ?」
「『深海爆発』とか、嫌な響きがありますけど……」
◇
工事は順調に進むように見え、少しずつ海上でメガフロートの骨組みが組み上がっていく。様々な魔導素材を使って軽量化しつつ、内部に空気や魔導浮力を仕込み、かなりの面積を確保。そこに商業区や居住区、娯楽施設などを配置する計画だ。
銭丸は意気揚々と「未来都市だ! 世界が注目するぞ」と広報を展開し、出資者も「まさかこんな海上に都市ができるとは」と興味津々。バルドやメルティナが地道に調整しているおかげで、建設中は大きなトラブルも起きないまま開業が近づく。
「ちょっとはすごいと思いますけど……本当に完成しちゃうんですね」
「だろ? もう爆死の心配はないさ。あとはグランドオープンして客を呼ぶだけだ!」
◇
メガフロート都市が完成し、ついにグランドオープンの日がやってくる。大きな浮島はまるで人工の島のようで、船や小型飛行船が行き来し、海上にはきらびやかな施設が建ち並んでいる。観光客や投資家がこぞって訪れ、その浮遊感や新しい海上ライフに驚嘆の声を上げる。
銭丸は前日のプレスツアーで「これが新時代の都市だ!」と豪語し、島内には商業施設だけでなくアミューズメントや海上公園まで備えている。ひかりも「こんなにうまくいくなんて」と驚きつつ、最後の調整に駆け回る。
「本当に順調なんですね。建設中の事故も少なかったし……怖いくらい」
「もう爆死なんて言葉は忘れてくれ。俺は海でも大成功だ!」
◇
しかし、オープン直後からいくつかの問題が表面化する。潮の流れが予想より強く、メガフロートが計算以上に揺れていると判明。さらに一部の魔導浮力装置が不安定で、島全体が微妙に傾き始めている。また、下層の空間に海水が侵入しているとの報告が上がる。
ひかりが「これ、早く対策しないと。そのうち沈まないか心配ですよ」と言うが、銭丸は「微調整の範囲だろ」と楽観的。大勢の観光客が来ている手前、いまさら大規模な改修はできず、とりあえず運営しながら補修する方針を取る。
「祭りの雰囲気を壊したくないんだよ。多少の不具合は隠しておけばいい」
「隠しておくって……何か嫌な予感がします」
◇
さらに、地元の漁師から「最近、近海で深海魔獣の目撃が増えている」という情報が寄せられる。大きな海上都市の建設によって海洋生態系が乱れ、魔物が活発化しているのではないかと懸念する声も。バルドは警備船を用意して警戒させるが、「まさか深海魔獣なんて滅多に出やしないさ」と銭丸は取り合わない。
「万が一来たらどうするんです? 海の上で大暴れされたら……」
「そのときは冒険者や軍船を呼べばいい。心配いらないさ」
◇
グランドオープン後、数日は大盛況で客足も多く、メガフロート都市が一種のテーマパークのようににぎわう。商業区が華やかに灯り、夜の海に浮かぶ光の都市が絶景だと話題を呼ぶ。銭丸は「ほら、やっぱり成功だろ」とひかりに胸を張る。
ところが、オープンから一週間ほど経ったある夜、天候が急変し、巨大な嵐が海上都市を襲う。激しい暴風雨と高波がフロートを揺らし、設備の耐久限界を超えそうな勢い。建物が軋み、観光客が悲鳴を上げて屋内に避難する。
「わああ、こんな嵐、滅多にないってレベルでしょ!」
「落ち着け! 魔導バリアを起動してるから、大丈夫だ……たぶん」
◇
しかし、魔導バリアは大波に耐えられず、部分的に陥落。さらに下層へ海水が大量に浸入し、フロートの一部が沈みかける。慌てたスタッフが排水ポンプを回すが、装置の故障が連鎖して電源がショート。そこへトドメのように、深海魔獣の巨体が荒波の中から姿を現す。
巨大な触手や顎を持った魔物が、嵐に乗じてフロートに体当たりし、外壁を破壊し始める。観光客の悲鳴がこだまし、バルドが必死に応戦するが、相手が大きすぎる。メルティナが魔導砲を撃つが、効果は薄い。
「嘘だろ……あんな化け物、どう止めるんだ!」
「くそっ、深海魔獣なんて聞いてないぞ!」
◇
激しい風雨の中、フロートがさらに傾き始め、甲板から建物まで水が入り込み、火花を散らしながら魔導装置が壊れる。人々が必死に脱出ボートに殺到するが、魔獣が触手で船を掴んで壊すなど大混乱。銭丸は「落ち着け!」と叫ぶが、何もかも制御不能だ。
最後に魔獣がフロート中央部の基幹を破壊し、大きく崩れた床の下で銭丸が瓦礫に挟まれる。豪雨が降り注ぐ中で、彼は断末魔のような叫びをあげる。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。海上メガフロートは……爆死ッ……!!」
その瞬間、魔獣がとどめを刺すように触手で突き上げ、巨大な水柱とともにフロート都市が二つ三つに割れて沈んでいく。銭丸は渦巻く海水と崩れた建材に呑まれ、嵐の闇へ消えていく。
◇
翌朝、嵐が収まった海面には、メガフロートの残骸と漂流物が広がっていた。地形を変えるほど巨大だった都市はわずかの期間で破壊され、深海魔獣は既に姿を消している。生還者たちは近くの救援船に回収されたが、銭丸の姿はお決まりのように見当たらない。
「これだけの惨事なら死んだはず」と思いつつ、一部の人は「何度爆死しても戻ってくる怪人だからな……」と苦笑を隠せない。大海原に夢を描いたメガフロート都市は、またひとつの爆死伝説を刻んで沈んだ。海に浮かぶ廃墟と瓦礫、そして人々の絶望だけが、この大事業の末路を物語っているのだった。




