第54章「国境管理とゲート防衛で爆死!? 暴走防衛システムの結末」
「国境ってのは、国同士の行き来を見張るだけじゃ不充分だろ? 魔族の侵入や密輸、さらには飛行船やゲートの不正通過を防ぐために、もっと万全な防衛システムが必要なんだよ!」
黒峰銭丸は、王都近郊の国境警備拠点で、地形図と書類を並べて力説した。いつも懲りずに大規模な事業を思いつく彼だが、今回は“国境管理とゲート防衛”という要領を得ないほど複雑なテーマ。隣には水無瀬ひかりが、相変わらず呆れたように書類を抱えている。
「国境防衛システムって……具体的にはどうするんです? 普通なら関所や見張り台を強化するくらいですよね?」
「それじゃ甘いってことさ。魔族も空を飛んだり、密かにゲートを使ったりするだろ? だからこそ、強力な“魔導バリア”と“多国間連動ゲート監視”を導入して、完全防衛を実現するんだよ!」
◇
銭丸が提案するのは、**「国境全体を覆う魔導バリアと、ゲート通過を監視・制御する高度システム」**の構築。これにより勝手な侵入を防ぎ、国境警備を半自動化しようというのだ。巨大な結界装置を多数配備し、人間でも魔族でも正規の通行許可がないと通過できない仕組みを作ろうとしている。
出資者には「これが成功すれば国は安全になり、密輸や犯罪も減る」と説得して資金を集め、バルドは地上での警備部隊を、メルティナは魔導結界やゲート監視装置の設計を担当。ひかりは言うまでもなく、契約と財務を管理する。
「でも国境って山や森、海、空など広範囲ですよ。それを全部バリアで覆うなんて可能なんですか?」
「魔導研究所が言うには“広域バリア”の理論はあるらしい。俺たちがやれば、きっと爆死しないさ!」
「もう何度同じ台詞を……」
◇
工事が始まり、国境付近に結界塔が点在する形で設置される。各塔から魔力を放射し、空間をシームレスにつなぐバリアを形成する計画だ。さらに、ゲート通過用の“検問所”を幾つか設置し、人や物資が通るたびに魔導認証を行うという。
銭丸はそれを全自動化する構想を掲げ、無人の監視システムを大量導入。バルドが地上部隊を減らして警備費を節約し、メルティナが塔の魔導制御をプログラムして“人手が要らない完璧な防衛”を狙う。一見便利そうだが、彼らの過去の失敗を知る人々は静かに嫌な予感を覚える。
「これ、本当に暴走とかしないですよね?」
「機械任せにすれば、人間のミスが減るんだよ。暴走なんてあり得ないさ!」
◇
やがて結界塔がすべて完成し、試験運用の結果は上々。境界線上には薄い魔導の幕が張られ、鳥や小動物は問題なく通れるが、“魔力を持つ生物”は結界に感知される仕組みらしく、誰がどこを通ったかが全部記録される。さらにゲートの通行も管理され、違法ゲートは強制遮断されるという。
銭丸は「ほら、やっぱり天才システムだろ?」と鼻高々。貴族や軍関係者からは称賛の声が上がり、「これで国境紛争や不法侵入が激減する」と期待を寄せる。ひかりは「ただ……バリアにも弱点があるのでは?」と懸念するが、「大丈夫さ」と一蹴される。
「ほんの小さな不具合があったって、システムが補正してくれるんだ。爆死なんかあるもんか」
「聞き飽きました、それ……」
◇
数週間は平和に機能し、確かに密輸犯や不審者が捕まり、国境警備の負担が大幅に軽減された。人々からは「銭丸が珍しく成功している?」「今回こそ爆死しない?」などという皮肉混じりの噂がささやかれる。実際、このままなら彼が初めての完勝かもしれない――そう思われた矢先、トラブルが表面化する。
まず、あちこちの結界塔が微妙に魔力を過剰消費しているとの報告が上がる。メルティナが調べると、「自動判別システムが誤作動で、鳥や風、魔力の流れにも反応して余計に魔力を使っている」と判明。大陸規模での広域バリアは想定外の魔力を要求するのだ。
「これでは魔石の消費が数倍……補充が間に合わないんじゃない?」
「確かに予定より早いペースだけど、なんとか追加で魔石を買い集めれば……」
銭丸は苦し紛れに資金を投入するが、調達が間に合わず、塔の魔力が不安定に揺れ始める。
◇
さらに、ゲート検問のシステムが厳しすぎて、正規の商人や旅人まで通過できなくなる事態が頻発。「全員が違法扱いになり、バリアが弾く」という苦情が殺到し、貴族やギルドが怒り出す。緊急に緩和しようとプログラムを変更すると、今度は無差別に開放してしまうという真逆の不具合が発生。
結界塔内部も混乱し、メルティナと研究者たちが修正を試みるが、相互連携したシステムがあちこちで矛盾を起こし始める。ゲート認証情報がデタラメになり、「不審者を感知してないのに警報が鳴る」「正規通行者を捕縛してしまう」など混乱の連鎖が止まらない。
「こんなに不具合だらけじゃ、国境が混乱して逆に危険度が上がるじゃない!」
「くそ……全部同時に直すのは無理だ。稼働を一時停止したらどうだ?」
「いや、国境を無防備にするなと言われてるし……詰んでるな」
◇
そして決定的な悪夢が起きるのは、広域バリアの魔力が過剰反応を起こして、一気に“防衛モードの暴走”に突入したとき。何かの攻撃と判断したシステムが、自動的に周囲にあるすべての魔力反応を“敵”とみなし始めるらしい。
すると、結界は取り込んだ国境一帯で魔力を増幅し、近づく生物や乗り物を攻撃し出す。飛行船が落とされ、陸路の馬車が弾かれ、外交使節が冤罪で捕縛されるなど混乱が頂点に達する。
「うわああっ、バリアが勝手に攻撃を……」
「まさかこんな暴走パターンがあるなんて……! 止めろ、止めるんだ!」
銭丸が塔の停止スイッチを試みるが、システム自体が完全に排他モードに入り、人間の介入を拒否している。
◇
暴走バリアの高エネルギーに耐えきれず、結界塔が次々と異常熱を発し始める。魔石がオーバーヒートし、塔内部で連鎖爆発が起こり、激しい光と爆音を伴い塔が吹き飛んでいく。国境沿いの町や村が巻き込まれ、一面を火柱と崩落が覆う。
銭丸はその場を目撃しながらも対処できず、悲鳴を上げる。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。国境防衛システムは……爆死ッ……!!」
そう叫ぶ瞬間、近くの塔が大爆発を起こし、衝撃波で彼を吹き飛ばす。辺りには炎と魔力の嵐が舞い、瓦礫が飛び交い、国境線一帯が火の海に変貌。銭丸はその破片の雨に打たれ、なすすべなく崩れ落ちる。
◇
翌日、国境地帯には結界塔の残骸と焼け焦げた地形が広がっていた。暴走バリアはすでに崩壊し、多くの町や村が甚大な被害を被っている。外交ルートも機能停止し、多国間の往来も深刻な混乱に陥った。
人々は口々に「あんなに最先端の防衛システムが一夜にして消えた」「もう二度とこんな馬鹿な計画は勘弁してほしい」と嘆き、いつも通り銭丸の安否はわからない。「あれだけの大爆発だ、生きてるわけがない」と思う一方で「毎回そう思って復活してるし」と複雑な顔をする者も多い。
こうして“完璧な国境管理とゲート防衛”を謳った壮大なシステムも、最後には大破壊の暴走で国境を焦土と化して幕を下ろした。結局、どれだけ最先端技術を詰め込もうが、黒峰銭丸が関わると必ず爆死という形で落ちがつく――人々はそんな不条理を再度実感して、ただ呆れるしかなかったのである。




