第52章「超難度ダンジョン観光で爆死!? モンスター逆襲の悲劇」
「これまで観光や冒険といえば、浅いダンジョンや安全な遺跡しか取り扱わなかっただろ? でも本当に“心震える体験”を求める客は、もっと刺激的な場所を望んでる。だったら、“超難度ダンジョン”を観光化して、一気に大稼ぎすればいいんだよ!」
黒峰銭丸は、王都の冒険者ギルド支部で地図を広げながら熱を帯びた声を上げた。隣では水無瀬ひかりが、ため息をつきつつ資料を確認している。既に何度も危険な事業で爆死している銭丸だが、また新たな無謀計画を持ち込んだ形だ。
「“超難度”ってことは、通常の冒険者でも手が出せないくらい危険なんですよね? そんな場所を観光化なんて、客が命を落とすかもしれませんよ」
「だからこそ需要があるんだ。安全マージンをそこそこ確保しつつ、スリルを提供する。要は富裕層向けのアトラクションとして売り出せば、すごい金を落としてくれるに違いない!」
◇
今回の標的は、王都から遠く離れた山岳地域に自然発生した**“超難度ダンジョン”**。深い地底層までモンスターが跋扈し、強力なボスも潜んでいるため、普通の冒険者は踏破できないといわれる場所だ。だが、観光事業として整備できれば相当な注目を集める可能性がある。
銭丸は冒険者ギルドや観光ギルドに声をかけ、「安全なルートを設け、ガイドや設備を整えてツアー形式で潜る」プランを持ちかけた。バルドとメルティナが護衛とモンスター対策を担当し、ひかりは契約・財務面でサポートする。
「安全なルートなんて言っても、相当手間がかかりますよ。モンスターを完全に排除しないといけないんじゃ……」
「適度にモンスターがいればこそスリルがあるのさ。爆死なんてしないよう、万全の準備をしとくさ!」
◇
さっそく銭丸は“ダンジョン観光ツアー”の広告を作り、「超難度の非日常体験を味わおう」「プロの護衛付きで安全!」と宣伝を打ち出す。好奇心旺盛な貴族や金持ち冒険者が興味を示し、「一度は深層の景色を見てみたい」「強いモンスターを横目で見たい」と申し込みが増え始める。
実際には、ある程度モンスターを掃討して安全ルートを確保し、危険地帯はワイヤーや魔導結界で塞ぐ予定だ。バルドが掃討隊を率い、メルティナが回復ポーションや結界装置を整備し、ひかりが各種保険や契約を結ぶ形だ。
「本当……うまくやればそこそこの利益が出そうですけど、相手がモンスターとなると想定外が多すぎますよ」
「やめてくれ、そういう不安を煽るのは。大丈夫、準備万端だ。もう爆死は勘弁だよ」
◇
やがて初回のテストツアーが組まれ、複数の貴族や富裕層の冒険者モドキが参加を表明。銭丸が直接ガイド役を買って出る形で、バルドやメルティナをメイン護衛、ひかりが案内係や物資管理を担当する。
出発日はダンジョン入り口で儀式のように記念撮影が行われ、客たちは「こんな深いダンジョン、初めてだよ!」と浮き足立っている。銭丸は「危険もあるが、ガイドに従えば問題なし」と得意気にまとめ、いよいよ潜入が始まった。
「ほら、ハプニングはあっても死亡事故なんて起きないさ。見せ場を作って楽しんでもらうだけだ」
「今までの爆死歴をちゃんと振り返って……」
◇
序盤は計画どおり進む。道中の小モンスターをバルドのパーティーがさくっと排除し、メルティナが結界を張って客を守る。ダンジョンの幻想的な地形や発光鉱石などを楽しむ客たちは「すごい!」「まるでファンタジーだ!」と大喜びだ。
更に進むと中層にある広間に到達し、そこには比較的強めのモンスターがいるはずだったが、事前にバルドらが大半を掃討済みで、安全に見学できる。貴族たちが「強い敵はどこ?」と肩透かしを感じつつも、やや安心して撮影や見学を楽しむ光景が見られる。
「ほら、順調だろ? このまま深層にちょっと足を伸ばして、絶景スポットを見せてから戻るさ」
「ほんとに大丈夫かしら……」
◇
しかし、ダンジョン深層には想定外のモンスターが潜んでいた可能性が高い。メルティナがその気配を感じて「強めの反応がある」と警告するが、銭丸は「客が絶景を見たがってるし、ここまで来たら行くしかない」と強行する。
バルドも不安を抱えつつ、護衛を増やして慎重に進む。暗い道を抜けた先は広大な地底湖のようなエリアで、壁や天井に宝石のような結晶がきらめく幻想的な風景だ。客が「うわあ、すごい……!」と感嘆の声を上げ、銭丸も「ここが目玉スポットだ」とニヤリとする。
「はい、ここで写真とお土産を用意して……集客用の映像も撮ろう。あとは帰るだけだな」
「そうですね。手早く済ませて戻りましょう」
◇
ところが、地底湖の奥から低い唸り声のような音が響き、空気がピリピリする。何かが動き始めている気配を感じ、バルドが剣を構え、「嫌な予感がする」と客に後退を促す。
次の瞬間、湖面が激しく波立ち、巨大なモンスターが姿を現す。どうやらこのダンジョンの最深部ボスクラスの存在らしく、体長が馬鹿でかい上に、複数の触手か腕がのたうっている。メルティナが「あれは想定外……こんなのいたなんて!」と叫び、客たちが悲鳴を上げて逃げ腰になる。
「なんだこれ、話が違うぞ! 倒せる相手じゃないんじゃ……」
「くそっ、撤退だ! みんな下がれ!」
◇
バルドが大声で指示し、パーティーが出口を目指して引き返そうとするが、モンスターが巨大な咆哮を発し、湖面から粘液や魔法弾のようなものを吐き出してくる。床や壁が崩れ、いつの間にか後ろをモンスターの眷属らしき小型生物が塞いでいる。
銭丸は客を誘導しようにも道が寸断され、バルドらが必死に戦うが数が多すぎる。次々と襲い来る怪物の群れに、客たちが絶叫しながら散り散りになる。
「やべえ……こんなの俺たちじゃ手に負えない!」
「こっちだ、別ルートから逃げるぞ!」
◇
混乱の中、洞窟が大きく揺れ始め、大量の水と泥が流れ込む。恐らくモンスターの攻撃で地形が破壊され、地底湖の水が溢れ出しているのだ。天井も崩れて落石が降り注ぎ、あちこちで悲鳴が聞こえる。
銭丸は濁流に足を取られながらも、最後の声を振り絞る。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。超難度ダンジョン観光は……爆死ッ……!!」
直後、天井から巨大な岩塊が落下し、爆音とともに辺りを飲み込む。激しい水と土煙が銭丸の視界を奪い、モンスターの咆哮が洞窟に響き渡るなか、彼は瓦礫の下へ消えていく。外からは陥没のような音がとどろき、残された人々が必死に退避する惨状が展開される。
◇
翌日、救援隊が入口付近まで行くが、ダンジョン内部は大規模な崩落で通路が塞がれ、地底湖が氾濫しているとの情報が入る。深層部の探検は不可能になり、生存者もわずかしか出てこない。富裕層の客たちが行方不明という最悪の結果に、王都や冒険者ギルドは騒然となる。
多くの人が「あの男に乗せられて無謀な観光に行ったばかりに……」と嘆き、銭丸の姿はいつものように見つからない。「さすがに崩落とモンスターじゃ助かるまい」と誰もが思うが、同時に「まだ生きてそうだ」と半ば諦め顔の囁きも絶えない。
こうして“超難度ダンジョン観光ツアー”という究極のスリルを売る計画は、信じられない速さで破滅し、深層から吹き出す水とモンスターの大逆襲によって崩壊した。冒険のロマンを銭丸が商売にすると、やはり爆死という落とし穴が避けられないのだ――人々は再びそう悟るほかなかった。




