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第41章「ドラゴン便で爆死!? 空輸拡大が火炎の餌食」

 「空を使った運輸って言ったら飛行船もあるけど、ドラゴンを使えばもっと速いし柔軟に荷物を運べるはずだろ? しかも多国間の連合便にすれば需要は膨大だ!」


 黒峰銭丸は、王都近郊の草原で大きく広がる空を見上げながら、いつも通りに大きな構想を語った。最近は魔王国との共同開発も爆死し、行方不明と思われていたが、しれっと生還してまた新しいビジネスをぶち上げている。彼の隣で水無瀬ひかりがため息交じりに書類を抱えている。


「ドラゴン便って……噂では大空を自在に飛ぶドラゴンを使った配送らしいですが、そもそも扱いが難しいんじゃないですか? 訓練や安全面とか、色々問題が山積みかと」


「そこを解決すれば大儲けできるってわけさ。ドラゴン牧場を整備し、専門の乗り手を育成して、国際空輸を一挙にやってしまうんだよ。飛行船より速くて、山道や海を軽々超えられるんだから!」



 銭丸は魔王国や近隣の諸国が加入した“多国間物流連合”に声をかけ、「ドラゴン便」という形で航空輸送の新路線を開設する話を進めていた。王都側でも“本当にドラゴンを使うのか”と半信半疑ながら興味を示す商人が少なくない。何しろ高速かつ魔物退治経験があるドラゴンなら、安全に見える面もあるからだ。

 バルドはドラゴンの飼育や警備を担う予定で、メルティナはドラゴン用の餌や医療、装着する魔導具を研究。ひかりは出資交渉と運賃システムを整理し、銭丸が取りまとめる形で計画が走り始める。


「まさかドラゴンを実際に運輸に使うなんて……うまくいけばすごいビジネスになるけど、本当に平気なんでしょうか?」


「大丈夫だろ。ドラゴンも大人しい品種を選ぶし、飼い慣らしは専門家がやってる。爆死なんて起きるわけがないさ!」



 工事や準備が進み、郊外にはドラゴン牧場が建設される。そこに数頭の“比較的温厚なドラゴン”が集められ、飼育や訓練が始まる。商人たちはさっそく荷物を預け、試験飛行を行ってみると、大型のドラゴンが空を舞いながら短時間で近隣の国境まで荷物を届けてみせた。

 この成功例に刺激され、複数の国々が「ドラゴン便をぜひうちの国内にも拠点を作ってほしい」と申し出てくる。銭丸は「よし、これはイケる」と勇んで拡張の段取りを進める。


「最初は数頭だけの運用だけど、数を増やせば空輸網が完成する。陸路と船を使わずにすむから、時間もコストも下げられるぞ!」


「でも、ドラゴンが増えすぎたらエサや飼育スペースとか、暴れたりしないんですか?」


「そこをしっかり管理するのさ。あくまで“飼い慣らされたドラゴン”だし、暴れるはずがない」



 ドラゴン便の評判は良好で、最初に使った商人が「神速だ」と絶賛し、いろんな国から試験依頼が殺到。飛行船業者や陸路の馬車業者は焦りを感じるほどの盛況ぶりだ。銭丸は「ほら見ろ、俺の目に狂いはなかった」と胸を張り、さらなる投資を呼び込む。

 一方で、牧場近くでドラゴンが羽ばたく音に怯える村人や、飼育に手こずる飼育員の不満も少しずつ表面化。バルドは必死にトラブルを抑え込み、メルティナがドラゴンの体調管理に奔走する。ひかりは苦情窓口を作ってなんとか不満を吸い上げるが、客観的にはまだ大きな問題は起きていない。


「ここまで大丈夫なら、あとは慎重に運用すれば……」


「だろ? もう爆死なんて言葉は忘れてくれ!」



 さらに拡張を進めようとする銭丸は、新たに「大型ドラゴンの導入」を提案。より重量のある荷物を運ぶため、より巨大で力の強いドラゴンを持ち込んで、海外の大規模輸送を狙うという。

 ひかりやバルドは「まず小型で安定運行に専念すればいいのに……」と止めようとするが、銭丸は「資金を集めている今がチャンスだ」と聞く耳を持たず、大柄なドラゴン数頭を海外から購入しようとする。


「サイズが大きければ一度に大量の荷物を運べる。その分、利益も跳ね上がるだろ?」


「でも、飼い慣らしが大変じゃ……」


「専門家がいて大丈夫だ、問題なし!」



 ほどなくして大型ドラゴンが牧場に到着するが、見た目からして凶暴そうな雰囲気を醸し出しており、飼育員たちは少しビビっている。訓練が始まるが、小さなトラブルが相次ぎ、火を吐くのを制御できなかったり、餌の与え方を間違えて怒らせたり。

 バルドが鞭を振るって取り押さえようとするが、ドラゴンがすでに気性を荒らげていて手がつけられない場面もある。メルティナは魔導首輪で制御を試みるが、完全には言うことを聞かない。


「これは……危険すぎるんじゃ。なぜこんな大型を?」


「もう少し慣れたら大人しくなるさ。いまは慣れるまで我慢だ!」



 数日後、銭丸は「大型ドラゴンを投入したデモフライト」を実施しようと企画。投資家や貴族を招いて、いかに大量の荷物を一度に運べるかを実演する狙いだ。場所は広大な牧場付近の滑走路を想定しているが、そこに観覧席を設け、多くの見物客を呼ぶ予定。

 ひかりは「こんなに人を呼んで大丈夫ですか? まだ調教できてないのに……」と青ざめるが、銭丸は「大丈夫、専門家がちゃんと乗るし、俺も立ち会うからさ」と言って強行。


「まさか爆死なんかしないさ。こんなの普通に飛びゃいいだけだろ」


「無理矢理すぎる……」



 デモ当日、広場には出資者や貴族、商人が集まり、ドラゴンの飛行ショーを一目見ようと期待を膨らませる。小型のドラゴン便はすでに安定して運行しているが、今日は“巨大ドラゴン”が大量の荷を背負い、一気に離陸するところを見せるという目玉だ。

 ところが、飛行直前になってドラゴンが嫌がるようにうなり声を上げ、飼育員や専門家がなだめようとする。明らかに機嫌が悪い兆候だが、銭丸は「大丈夫、客が待ってるんだ」とゴーサインを出してしまう。


「ほら、リフトオフだ! 何も問題……」


 その瞬間、ドラゴンが猛スピードでダッシュし、まだ荷が完全に固定されていない状態で上昇を開始。飼育員が振り落とされ、火を吐く器官が暴走して突然の火炎ブレスが飛び交う。


「うわあっ! 火が……!」



 一瞬で火炎が牧草地や観客席を舐め回し、周囲が悲鳴に包まれる。ドラゴンの積み荷に火が燃え移り、煙を上げながら急上昇。さらに暴れたドラゴンが背中の貨物を振り落とし、地上で爆発を起こす。実は中に魔導石や火薬が入っていた可能性がある。


「バカな……魔導石をそんな大量に……」


「こ、これはまずい! 逃げろ!」


 銭丸は駆け回って消火しようとするが、巨大な炎があちこちで噴き上がり、パニック状態。ドラゴンは空を旋回しながら更に火を吐き、観客席や設備が次々と焼失していく。



 銭丸は呆然と炎上する会場を見つめながら、獰猛な咆哮をあげるドラゴンが降下してくるのを目撃する。すでに制御不能に陥った巨大生物が暴れ回り、火の海を加速させている状態だ。次の瞬間、ドラゴンの尾が観覧ステージを薙ぎ払って破壊、銭丸を巻き込むように吹き飛ばす。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。ドラゴン便は……爆死ッ……!!」


 彼の呻き声とともに、積み上げられた魔導燃料も誘爆を起こし、轟音が牧場全域に響き渡る。大火柱の中でドラゴンも暴れながら脱出を試み、結局さらに混乱が拡大していく。銭丸は火と瓦礫に飲まれ、視界が一瞬で真っ白になる。



 翌朝、かつてのドラゴン牧場は焦土と化していた。厩舎や格納庫も焼け落ち、ドラゴンの一部は逃げ出し、一部は死骸となって転がる。多国間空輸を目指した壮大な構想は、炎と爆発と暴走した巨大ドラゴンによって一夜にして破滅。

 出資者や商人、観覧に来ていた貴族も大損害を被り、「やっぱりあの男に任せると最後は火柱だ」「もういい加減にしてくれ」と嘆息する。もちろん銭丸の姿は見当たらず、“こんな炎の海で助かるわけがない”と皆が思いつつ、もはや「また生きてるんだろう」と苦笑を浮かべる者もいるのがいつものパターンだ。


「魔王国じゃないが、ドラゴンは手に負えないよな……」


「時代を切り拓くつもりが、また最後は爆死オチか。いつまで続くんだ、これ」


 こうして、大空を支配して物流を革新するはずのドラゴン便計画も大失敗に終わり、焼け焦げた荒野を残すのみ。人々はまた銭丸の爆死を噂しながら、彼が現れたら今度こそ全力で逃げようと誓う――しかし、その誓いが守られる日はまだ来ないかもしれない。

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