第42章「教条対立で爆死!? 神殿・魔王・王国の三極同盟が崩れるとき」
「人間界だけじゃなく、神殿勢力や魔王国まで交渉できれば、世界を大きく動かせるはずだろ? 三大勢力のトップをまとめて同盟を結べば、紛争も減るしビジネスも広がる。やる価値はあると思わないか?」
黒峰銭丸は、王都の喧騒から少し離れた会合室で、いつものようにとんでもない野望を語っていた。彼の隣には水無瀬ひかりが座り、どこか嫌な予感を押し殺した表情で書類を広げている。
「神殿側は人間界の宗教勢力で、魔王国は魔族側の勢力ですよ。そこに王国……って、三極が揃って同盟なんて前例がほとんどないんじゃ……?」
「だからこそ大きなチャンスだ! 宗教と魔王、それに王国が結束すれば、世界が平和になるだけじゃなく、新たな商業ルートやインフラも作り放題だろう?」
◇
銭丸はすでに人脈を駆使し、神殿側の一部高位神官と、魔王国の穏健派、そして王国の改革派をそれぞれ説得し、「三極が会議を開いて互いの利害をすり合わせる」という場を作ろうとしている。もちろん、狙いは平和や文化交流もあるが、最終的には「三者が一体となれば経済規模が跳ね上がる」という皮算用が大きいようだ。
バルドやメルティナは警備や魔族のアテンドを補佐し、ひかりは王国側の調整と資金管理を担当する。相変わらず壮大な計画に首を突っ込むのが銭丸の流儀だ。
「でも、神殿の強硬派や魔王国の過激派がこれを許すとは思えません。過去に衝突した歴史も深いですし」
「そこを俺が粘り強くまとめるのさ。爆死なんかもう沢山だからな!」
◇
数週間後、銭丸の根回しによって、三極会談が王国と魔王国の中間地点にある“中立の神殿”で行われることが決まった。一部の神殿勢力は渋い顔をしているが、高位神官は「世界平和のためなら」と前向き。魔族も「利益になるなら悪くない」と態度を軟化させ、王国側は改革派中心に「この機会を逃せない」と意気込む。
銭丸は「やっと日程を抑えたぞ!」と歓喜し、ひかりやバルド、メルティナは「また危険な橋を渡るんですね……」とうなだれるが、それでも準備を進める。
「今回は対立する勢力を同じテーブルに着かせるんですから、警備と進行には最大限気を配ってくださいね」
「わかってる。細心の注意を払うさ。もう爆死は嫌だよ」
◇
そして当日、中立神殿には高位神官、魔王国の代表、そして王国の改革派代表が集まり、三者による協議が始まる。銭丸は議事進行のサポート役を担い、ひかりが記録担当、バルドが警備、メルティナが魔力干渉のチェックをする。一見、万全の態勢に思える。
会合は最初こそ緊張感が漂うが、「平和的に共存すれば、互いに得られるメリットが大きい」という銭丸のプレゼンと、関係者の説得で雰囲気が和らぎ、実際「共同で経済圏を作ろうか」という話まで進み出す。ここまでは順調といえる流れだった。
「すごい……本当に三者が一堂に会して協力を模索してる」
「ほら、やっぱり爆死なんて起きっこないだろ?」
◇
しかし、交渉の後半になると、神殿側の教条派と呼ばれる過激な一団が現れ、「魔族と手を結ぶなど神に背く行為だ」と厳しく糾弾する。同じ神殿でも折衷派は「それでは時代についていけない」と応酬し、会合が荒れ始める。
さらに魔王国側にも「人間なんぞ信用ならん」という声が上がり、王国の代表が「人間だって犠牲を払ってきた」と突っかかり、あわや口論が激化する。銭丸とひかりが必死に仲裁するものの、強硬派と穏健派の間に険悪な空気が立ちこめる。
「何とか落ち着いて……ここで破談になったらダメです!」
「くそ、まさに爆弾を抱えた会談だな……」
◇
一時は小康状態になり、銭丸が「続きは別室で話しましょう」と促してなんとか対話を再開する。だが、どこかで不穏な動きがあるらしく、バルドが裏の廊下を警戒巡回していると、怪しげな術式が仕掛けられているのを発見する。おそらく神殿派の一部か、魔族過激派か、あるいは第三者か――何者かが会場ごと破壊しようと画策している可能性がある。
「やばい、これは結界崩壊を起こす呪いみたいだ!」
「銭丸さんに伝えないと……!」
バルドはメルティナと合流し、術式を解呪しようとするが、既にトラップが複雑に仕掛けられており、時間がかかる。
◇
会談室では神殿の教条派が再度激昂して「神は魔族との結盟など認めぬ」と主張し、魔王国代表が「ならば破談だ!」と席を蹴りそうになる。銭丸が「待ってくれ! そんなことしたらまた争いに逆戻りだぞ!」と説得するが、対立は深まり続ける。
さらに強硬派が魔導具を振りかざし、「魔族を滅ぼせ!」と叫び始めると、魔族側も身構えて炎魔法の構えを取る。混沌とした空気が流れ、一触即発のムードが高まる。
「まずい、こんなの制御不能だ……」
◇
そこへバルドが駆け込んできて「すぐ避難しろ! 建物全体に仕掛けがある!」と叫び、メルティナも「これは結界ごと崩壊させる大規模呪いかもしれない」と警告を発する。人々が驚き、出口へ殺到しようとするが、神殿の一部扉が封鎖され、呪術の力が絡み合っていて開かない状況だ。
次の瞬間、床や壁が不気味に震え始める。魔力の脈動が走り、石造りの天井にひびが広がる。銭丸が慌てて「冷静になれ!」と叫ぶが、会談室は大パニックで誰も聞いていない。
ドオォン……!
魔力が爆発したような衝撃音が響き、天井から巨大な石が崩落。火花と破片が飛び交い、絶叫がこだまするなか、神殿の結界が一気に破られ、建物が崩壊の一途をたどっていく。
◇
銭丸は石塊の下敷きになりながら必死に身をかがめ、何とか上体を起こす。周りを見ると、魔王国代表や神殿側の一部がまだ必死に脱出を図っているが、強烈な魔力の波動が何度も爆心地のように爆風を起こしている。
炎と瓦礫が渦を巻く中、銭丸は声を振り絞る。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。三極同盟は……爆死ッ……!!」
呪術の連鎖爆発がさらに大きな震動を起こし、壁と天井が一気に崩落。銭丸は濛々と立ちこめる砂埃と火の中に呑み込まれ、断末魔もかき消される。
神殿は神々の加護も及ばないかの如く破滅へ至り、周囲には絶叫がこだまする。人間界と魔族、神殿勢力が手を取り合うはずだった歴史的会合は、一瞬にして炎と爆発と粉塵に包まれた。
◇
翌朝、中立神殿だった建物は完全に崩れ果て、近隣にも多大な被害が広がっていた。魔族と神殿、王国代表はどうにか生き延びた者もいるが、みな疲労と絶望で言葉もない。大事な交渉はぶち壊し、互いのわだかまりが一層深まった形だ。
そして銭丸はやはり行方知れず――あの崩壊に巻き込まれては助かるはずがないが、「過去に何度も爆死して生きてるし……」と半ば呆れ交じりの囁きが広がる。
こうして、神殿・魔王・王国が共同しようという壮大な挑戦は、またもや粉砕される形で終わった。壮大な夢を最後に持ち出す銭丸が、結局は呪術の炎に焼かれて爆死――まるで恒例行事のように、悲喜劇が繰り返されるのみである。




