第36章「大図書館プロジェクトで爆死!? 紙の山が呼ぶ炎上の悲劇」
「王都にこれほど書物や資料が散らばっているのに、なんで“大きな公共図書館”がないわけ? みんなが自由に学べる場を作れば、学問も商売も盛り上がるってもんだろ?」
黒峰銭丸は市街地の一角で取り壊し予定の古い館を見つめながら、いつもの大言壮語を口にした。彼の隣では水無瀬ひかりが慎重に契約書類をチェックしながら、過去の失敗を思い返している。
「大図書館って、ものすごい量の本を扱いますよね。保存や管理のコストも高いし、歴史的に貴重な書物も混じってるから、取り扱いを間違えるとトラブルになりそうです」
「そこを俺がビジネスとしてまとめ上げるのさ。寄贈や協賛金を集めて、誰でも使える大図書館を建てる。しかも館内でカフェや勉強スペースも運営して収益を得るんだよ!」
◇
銭丸は地元の官僚や学術ギルドに声をかけ、**“王都大図書館”**の企画を持ち込む。散逸している貴族の蔵書やギルドの資料を集約し、自由に閲覧できる施設を作るなら、市民や学者、冒険者にもメリットが大きい。投資家たちも「文化的価値とビジネスを両立できるなら面白そうだ」と乗り気だ。
「管理は厳重にしますよ。古い巻物や魔導書も扱うから、火災や盗難対策をきっちりしたいですね」
「わかってる。バルドが警備と設備安全を見てくれて、メルティナも魔導資料の保管を担当する。ひかりは例によって経理頼むぞ!」
「はいはい……爆死しなければですけどね」
◇
改装工事が始まり、古い館を大規模にリフォームして巨大図書館として整備。1階は閲覧室と貸本コーナー、2階は貴重資料の閲覧区画、地下に魔導書の保管庫を設ける設計だ。読書スペースにはカフェを併設し、利用者がくつろげるように――まさに“知の殿堂”の誕生である。
工事が進むにつれ、寄贈や資料提供の申し出が相次ぐ。貴族や学者ギルド、冒険者ギルドも古い記録や地図、魔導書を寄付する形で名を売ろうと必死だ。銭丸は「これなら相当な数の本が集まる」と大喜びしている。
「たしかに資料が豊富になれば、学問や研究も捗るでしょうね」
「王都最大規模の図書館を目指すさ。文化事業としても評価されるから、補助金も期待できるしね!」
◇
開館が近づくと、館内には膨大な書物が並び、書棚が立ち並ぶ光景が圧巻となる。魔導書専用の保管庫や、貴重書室には厳しい火気厳禁ルールを敷き、スタッフを配置。ひかりは貸出システムの整備に奔走し、メルティナは魔導書の封印や消臭処理を担当。バルドが警備を入念に行い、“火災対策や盗難対策は万全”という触れ込みだった。
「前に貸本カフェをやったときは火災で爆死した経験があるからな……今回は絶対に火気を徹底管理するぞ」
「その心構えを最初からお願いしますよ。爆死するのはもう勘弁です」
◇
そして迎えた開館当日。市民や学者、貴族が大挙して詰めかけ、巨大図書館を見渡しては「すごい……こんなに本が集まるなんて」と感嘆の声を上げる。閲覧室やカフェは朝から賑わい、さっそく本を借りようとする人々で行列ができる。銭丸は「久々の大当たりだろう」と鼻を高くしている。
「すごい客足ですね……まさかこんなに人が押し寄せるとは」
「当然だ。いままで散らばってた資料がここに一堂に揃ったんだから、研究者や冒険者は大喜びさ。さらにカフェや物販コーナーで収益を確保――完璧!」
◇
数日間は大きなトラブルも起きず、図書館は順調に稼働を続ける。貴族も「ここで学問に浸れるのは素晴らしい」と好意的で、学者ギルドや学校からも利用希望が相次ぐ。無事に軌道に乗ったかに見えたが、小さな問題が少しずつ表面化していく。
書棚が急増して通路が狭くなり、転倒事故が起きそう
魔導書から微弱な呪波が漏れていると報告があり、メルティナが封印を強化
布張りの壁や床に紙くず・埃がたまりやすく、火災のリスクが高まる可能性
「こうした小トラブルも、すぐ対策すれば何とかなるだろ?」
「お客さんも多いので、そこはスタッフを増やしてこまめに点検しましょう」
◇
だが、急激に利用者が増えすぎたせいで、運営側の負荷が大きくなっていく。貸出カウンターが長蛇の列、カフェは満席で次々と空き椅子を求める客が溢れる。館内スタッフが手薄になり、警戒していた火災対策が少しずつ疎かになり始める。
そんなとき、本棚の奥で怪しげな本を読みふける人物がいるとの噂が立つ。悪意のある魔導士が“魔導書の封印を解こうとしているのでは”という話も聞こえてくる。
「本当にそんな危険人物が? ただのデマじゃないのか?」
「わかりません。でも、魔導書が多い場所だし、封印が解けたら火や爆発を引き起こす可能性もありますよ」
「バルド、館内を巡回しろ。怪しい奴を捕まえるんだ」
◇
バルドが警備を強化する中、別の場所では「地下に保管した羊皮紙がカビ臭い」とメルティナに苦情が入り、対処に追われる。館内で数件のすりや盗難事件も発生し、ひかりが対応に奔走。銭丸も事務仕事や出資者対応で忙しく走り回り、「ちょっと目を離すと色々起きるな」と苦笑する。
「利用者が多いのは良いことですけど、トラブルが多発してきましたね。大丈夫ですか?」
「何とか収まるさ。仕組みを整えればいいだけ……」
◇
そうこうしているうち、ある夜、閉館後に蠟燭の灯りがちらついているという報告が届く。館内は本来、魔導照明のみで、火気厳禁のはず。バルドが巡回に行くが見当たらない。翌日も朝から客が押し寄せ、みな慌ただしく対応に追われる。
そして、ある日の夕方、2階の貴重書コーナーで「謎の人物が封印書を無理やり開きかけていた」とメルティナが叫ぶ。警備員が駆けつけるが既に姿はなく、封印が一部破られた魔導書が放置されている。呪力の流出が微弱に見られ、危険レベルは高くないが不気味だ。
「変なことが起きてますね……これはまずい予感がします」
「厳戒態勢を敷いてくれ。夜間の見回りを倍にするんだ」
◇
しかし、混雑によるスタッフ不足は続き、夜間の警備が行き届かない箇所も出てくる。そして決定的な事件が起きたのは、深夜の地下保管庫で火の手が上がったとき。何者かが忍び込んだか、あるいは魔導書が暴走したか――理由は定かでないが、大量の紙や巻物が詰まった倉庫で炎が拡大する。
警報が鳴り、駆けつけたスタッフが水や消火薬で消火を試みるが、ぎっしり詰まった書物と魔導品に火が回ると消火は容易ではない。白い煙が館内を充満し、上階への経路が炎で閉ざされてしまう。
「くそっ……本の山が燃え上がったら、一気に火力が強くなる!」
「逃げてください! 火事です!」
◇
燃え盛る火と煙はあっという間に1階や2階へも広がり、館内に残っていた利用客が悲鳴を上げて出口へ殺到する。巻物や魔導書が誘爆を起こす形で火の粉と爆風を撒き散らし、本棚が次々と倒れて通路を塞ぐ。銭丸は「落ち着け!」と叫ぶが混乱は止まらない。
魔導の封印が中途半端に破れた書物もあり、妙な呪波や火花が飛び交う。メルティナが「こんな状況じゃ制御できない……」と青ざめているところへさらに火柱が立ち、吹き飛んだ書棚が銭丸を直撃する。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。大図書館は……爆死ッ……!!」
彼の断末魔とともにドォンという崩壊音が響き、煙と炎が視界を奪う。無数の本や紙が空中を舞い、炎の中で一瞬舞い散る鳥かごのように崩れ落ちていく。次第に建物の骨組みまで倒壊し、瓦礫の底に銭丸らしき影が消えていった。
◇
翌朝、大図書館だった建物は黒焦げの廃墟と化し、貴重な資料の多くは灰となっていた。奇跡的に残った本も一部あるが、水浸しや煤で使い物にならない。寄贈した貴族や学者は落胆し、出資者は頭を抱える。
人々は口々に「こんなに惜しいことはない」「国の財産が……」と嘆きながら、やはりいつも通り銭丸の行方が分からないまま。あれだけ派手に燃えたのだから助かるはずがない、と誰もが思う一方、あの男が妙にしぶといことを知っている人々は、今回も「さて、どうだか」と薄ら笑いを浮かべるしかない。
「せっかく文化事業が花開くはずだったのに、最後は本ごと燃やしたってことか。ありえねえ……」
「また爆死オチだよ……図書館まで吹き飛ぶなんて、どこまで厄病神なんだか」
こうして、いずれ王都の知識拠点となるはずだった大図書館のプロジェクトも、一夜にして灰燼と化した。膨大な書物とともに夢が燃え尽き、いつものように銭丸の爆死ばかりが記憶に刻まれる――いったい彼はどこまで破滅を繰り返すのか、それを知る者はまだいないのだろう。




