第37章「遊興特区で爆死!? 夜の歓楽街の秩序崩壊」
「夜の店や娯楽がバラバラに存在してるだけじゃ、潰し合いも起きるだろ? それなら“一帯を特区”にして、合法的に遊べるエリアを作れば、みんな安全に楽しめるし、大儲けできるはずだ!」
黒峰銭丸は、王都の裏通りを歩きながら勢いよく言い放った。日没後の歓楽街は、スラムに近いエリアや闇ギルドの影響を受けやすい店舗も多く、治安がいいとは言えない。そんな場所を「遊興特区」にまとめようとは、いかにも彼らしい大胆な発想だ。
「でも、“夜の歓楽街”をまとめるとなると、裏組織やら麻薬やら危険な商売も絡んでそうですよ? 本当に大丈夫ですか?」
水無瀬ひかりが心配そうに言うと、銭丸は手にした特区構想の書類をパタパタしながらにやりと笑う。
「そこを“合法化”して管理すれば、むしろ秩序が生まれる。好き勝手やってる連中を取りまとめれば、トラブルも減るし税金も取れる――一石二鳥さ!」
◇
銭丸はさっそく市役所や有力貴族、さらに改革派官僚の一部に働きかけ、「夜の歓楽を一体化して安全に管理する特区」を提案した。トラブルの温床とされる裏通りを特区として区切り、ガードマンや医療施設を設け、合法的に遊興を提供する――言うは易しだが、裏社会や闇ギルドの承諾が必要になる。
「やはり闇金ドランあたりに相談して、裏社会と渡り合うルートを確保するのが早いですよ」
「そうだな、ドランも半分呆れてるだろうが、顔は利く。うまく行きゃ奴らも儲けになるはずだし」
バルドは危険を感じながらも、銭丸の指示で闇金筋との折衝を手伝い、メルティナは「遊興街で薬品やアルコールが悪用されないか」チェックする仕組みを考案。ひかりは特区の財務と契約関係を管理し、複雑な人脈をなんとかまとめ上げようとする。
◇
準備が進むと、裏通りの旧建物を一部取り壊して特区ゲートを作り、メインストリートを整備。キャバレーや酒場、ダンスホール、闘技バーなど様々な店を集め、治安維持のためガードマンを常駐させるというルールを設定。
銭丸は「こんなに遊べる場所が安全に固まっていれば、庶民も貴族も夜に集まるだろう」と自信をのぞかせ、投資家も「相当稼げそうだ」と期待する。
「もし暴力沙汰や麻薬騒ぎが起きても、特区の管理人がすぐ対処すれば、問題が外に広がらない。ギルドも関与しやすい」
「本当にそう機能すればいいけど……裏社会絡みで何も起こらないなんてことあるんですか?」
「大丈夫、ドランが『そっちに手出しするな』って回ってるから。むしろ闇ギルド側も管理するほうが都合いいみたいだ」
◇
やがて“夜の遊興特区”が完成し、正式オープンを迎える。大きなゲートと照明が夜道を照らし、華やかな看板や魔導ランプが行き交う人の目を引く。酒場やダンスホールには若者が集まり、富裕層の貴族や商人もふらりと訪れる。
入り口には簡易セキュリティチェックがあり、明らかな危険物や武器を持ち込ませない仕組み。それでも多少は抜け道がありそうだが、銭丸は「厳しすぎると客が来ないから、このくらいが丁度いい」とのんきに語る。
「いや、久々に夢のような繁盛だぞ。みんなが夜に遊んでくれるなら、店も儲かるし、俺も特区運営で手数料を稼げる」
「人が多いのはいいですが……あまり治安を軽視しないでくださいよ」
ひかりが釘を刺すも、銭丸は笑って「大丈夫、大丈夫」とあしらう。
◇
オープン直後は特に大きなトラブルもなく、客足が増えていく。特区内の各店舗は競うように派手なキャンペーンを打ち出し、花街のような華やかさが夜ごとに展開される。闇金ドランも“上納金”を徴収する仕組みで裏をまとめ、表向きは平和に回っているかのように見えた。
だが、そんな甘い話が長続きするわけもない。ある夜、特区内の麻薬取引をめぐって揉め事が起きたという報告が入る。銭丸がバルドと駆けつけるが、既に当事者たちは逃げ去っており、現場には薬物の痕跡らしきものが落ちている。
「特区内で麻薬はご法度だと言っただろ……誰が持ち込んだ?」
「わからない。店の裏でこっそり取引したみたいだ。闇ギルドの若い連中かもしれん」
◇
警備隊を強化してチェックを厳しくするが、そうなると今度は一部の客が「自由に遊べない」と不満を漏らす。かといってゆるめれば再び危険な取引が発生する――ジレンマ状態に陥る。
さらに、別の店同士の客引き合戦が激しくなり、道端でケンカ騒ぎが絶えない。バルドが止めに入っても焼け石に水。銭丸が仕切ろうとすると「店の独立性を奪うな」と反発される。
「自由過ぎても秩序崩壊、取り締まり過ぎても客が来ない……難しいですね」
「けど俺はこの特区で爆死なんかしたくない。うまくバランスを取りながら運営するんだ!」
◇
そう話しているうちに、ある日、特区の酒場で大規模な乱闘が発生。酔っ払った客同士が口論し、店の備品を壊して外に飛び出し、周囲の店舗を巻き込んだ大ケンカへと発展。通報を受けた警備隊が駆けつけたが、数十名が入り乱れる騒ぎになってしまう。
店内の酒樽が倒され、そこに魔導ランプの火花が移って小爆発が起き、近くの屋台にも火が飛んで……と、いつもの爆死コースがちらつき始める。
「まさか、こんな喧嘩から……止めろ! 火が……」
「うわああっ、熱い! 逃げろ!」
魔導燃料を使っていた店が次々と火を噴き、あっという間に路地一帯が火の海になっていく。混乱を恐れて隠れていた闇ギルドの連中も巻き込まれ、各店が右往左往で出口を塞ぎ合う。
◇
銭丸は飛び回りながら「鎮火しろ! 警備はケンカを止めるんだ!」と指示するが、すでに制御不能。客や店員も逃げ惑い、連鎖的に爆発を起こす酒樽や魔導具が火を噴く。特区がまるで戦場のような惨状を呈し始めた。
「やっぱりこうなるんですか……!」
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。遊興特区は……爆死ッ……!!」
銭丸が断末魔をあげると同時に、激しい誘爆が路地裏を吹き飛ばし、炎と破片が宙を舞う。倒れた建物が銭丸ごと崩れ落ちていき、火の手が特区全域に広がっていく。もはや誰にも止められない地獄絵図だ。
◇
翌朝、“遊興特区”を標榜したそのエリアはほぼ焼失し、瓦礫と焦げ跡だけが残った。人々は「こんな大火は何十年ぶりだ」「店が全部燃えちまった」と嘆き、出資者は呆然と立ち尽くす。闇金や裏ギルドも大打撃を被り、商業ギルドは「なんでこんなことに……」と頭を抱える。
そこに銭丸の姿は当然見当たらず、「あの規模の火災に巻き込まれては無事なわけがない」と誰もが口を揃えるが、過去を知る者は「またやりやがった」と苦笑を浮かべる。
こうして夜の歓楽街を合法化して秩序を作るはずだった“特区”構想も、最終的には大爆死の炎に包まれ、廃墟と化した。秩序どころかさらなる混乱を招いただけという皮肉な結末――銭丸が手がけるビジネスは、今日も裏切らない“爆死”オチを迎えるのであった。




