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第26章「下水道改革で爆死!? 街の衛生大混乱」

 「どんな立派な都市でも、下水道が古くちゃ衛生面で危険がいっぱいだろ? ならば俺がリフォーム事業を手掛けて、新しく整備しちまえばいいじゃないか!」


 黒峰銭丸は、街外れにある地底トンネルの入り口を見つめながら、意気揚々と語った。彼の隣では、水無瀬ひかりが大きな下水道図面を確認している。


「下水道工事って、大規模な土木作業ですよね。しかも古いトンネルが張り巡らされてて、トラブルの温床になりそうですが……」


「だから、ちゃんと対策を打つんだ。老朽管を取り替えて、魔導で効率よく汚水を処理して、街の衛生を根本から改善する。大儲け間違いなしさ!」



 銭丸はさっそく市役所や衛生ギルドと交渉し、下水道リフォームに関する契約を取り付けた。街の住民からも「汚れや臭いがひどい」と不満が上がっており、工事がうまく進めば歓迎される見込みだ。今回も複数の商人や投資家から出資を集め、資金面は順調にスタートを切る。


「過去の事業みたいに急ぎすぎたりしないでくださいよ。下水は複雑なので、慎重に進めないと……」


「わかってるさ。地面の下で爆死なんて笑えないからな」



 工事はまず、老朽化した下水管を調査するところから始まった。バルドが土木班をまとめ、トンネル内の崩落しそうな箇所を補強しながら進む。ひかりは資材発注と経理を担当し、メルティナが魔導処理施設の設計を手伝う。みんなで慎重に手分けをし、毎度の大失敗を防ぐ姿勢がうかがえる。


「ここはひび割れが酷いな。早めにセメント補修しろ」


「はい、了解。あと数日かけてこの一帯を仕上げます」


 作業員が手際よく指示を受け、崩落リスクがある場所を順次修理していく。銭丸は地上で排水処理場の施設設計をしながら、地下と連携をとる形だ。



 魔導ギルドの協力を得て、「下水を一度魔導で浄化する装置」を導入する案も進行した。従来の単なる汚水流しとは違い、汚染を大幅に減らすことができるというのが売りだ。もし成功すれば、街の衛生レベルが格段に上がり、収益も期待できるはず。


「魔導の浄化タンクを設置すれば、雑菌や悪臭成分を分解できる。都市としては革命的だろ?」


「でも、ちゃんと稼働すればの話ですよ。水の流れが詰まったりしないように、メンテナンス体制を整えましょう」


 ひかりが注意を促すと、銭丸は「万全だ」と言い張り、追加のスタッフを雇って運転管理を行う計画を示す。



 ある日、下水トンネルの奥から不吉な噂が伝わった。湿気と腐敗ガスが溜まりやすく、魔物や不審者が潜んでいる可能性があるという。バルドが警戒しながら調査班を送り込むが、とりあえず大きな魔物の巣は見当たらない。ガス検知機は多少反応したが、換気を強化することで解決できたらしい。


「今回は迅速な対応ができてますね」


「だろ? これでトラブルなんか起きようがない」


 銭丸は胸を張って笑い、ひかりも「今度こそ本当に爆死せず終わるかも……」と少しだけ期待を抱く。



 工事が最終段階に入ると、街の下水管はほぼ新品同様に整備され、魔導浄化施設も準備が整う。試運転をしてみると汚水がスムーズに流れ、悪臭もかなり軽減された。住民からは早くも「快適になった」と喜ぶ声が上がり、銭丸は「大成功だ」と上機嫌だ。


「完成したら、町から報酬をまとめて受け取れるし、メンテナンス契約で毎年稼げる。これは安定収入になるぞ」


「これが続けば借金も返せますね。やっと安全にビジネスが……」


 ひかりが安堵の笑みを浮かべたその時、メルティナが慌てた様子で駆け寄ってくる。


「浄化タンクの魔導圧が異常に上がってます! 誰かが勝手にバルブを弄ったらしいんです」



 銭丸とバルドが急ぎ浄化施設へ向かうと、巨大なタンクが激しく振動し、魔導計器の針が危険値を振り切りそうになっていた。どうやら内部で水圧と魔力が逆流しており、排水経路がどこかで詰まっている可能性がある。


「先に排水路を開放しろ! 溢れたら大変だ」


「それが、地下トンネルの一部が何者かに塞がれたようで……!」


 スタッフが動揺しながら報告する。ふさがれている理由はわからないが、結果的に流れが逆流し、大量の汚水がタンクに溜まりつつある。さらに魔導エンジンが強制的に回り続け、過度な圧力がかかったまま止められない状態だ。



 あちこちでバルブを手動操作しようとするが、何本かが錠でロックされていたり、魔導ゲートが誤作動で閉まっていたり。何者かの悪意か、単なる手違いかは不明だが、事態は制御不能に陥る。天井から滴る水も増え、地上に抜けるはずの排水路が圧で破壊されかねない。


「くっ、こうなったらタンクの魔導エンジンを物理的に止めるしかない……!」


「爆発しないか? 勢いよく暴走してるぞ!」


 バルドが険しい顔をして警告するが、銭丸は「やるしかない」と叫んでタンクに駆け寄る。カバーを外してエンジンを強制停止しようとするが、高温の魔力炉が蒸気を噴き、触れるのも一苦労だ。


ドォォン……!!


 ものすごい振動が走り、タンク周辺の配管が次々と外れて水と魔力の混合液が噴き出す。メルティナが警報を鳴らすが、時すでに遅い。タンク内部で圧が限界を超え、腐敗ガスや汚水が合わさって大暴発を起こす。


「うわああっ……!」


 地下施設全体が轟音に包まれ、衝撃波で壁が裂ける。汚水が噴流となってトンネルへ逆流し、地上へと噴き上がる。銭丸は爆風に吹き飛ばされながら、断末魔の声をあげる。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。下水道リフォームは……爆死ッ……!!」


 凄まじい水圧とガス爆発がタンクを粉砕し、そこから噴き出す泥水と破片が周囲を飲み込む。地下トンネルまで連鎖崩壊が広がり、地上の路面が陥没する場所も出始める。



 翌日、街の一角には大穴がぽっかり開き、下水道の崩れたトンネルがむき出しになっていた。溢れ出た汚水が辺りを汚し、破片や泥が散乱。浄化施設も無残に破壊され、周囲に悪臭が漂う。

 せっかくリフォームして衛生面を改善するはずだった計画は、一瞬にして下水まみれの大惨事へと変わり果てたのだ。住民たちは「もう二度と下水道なんて触りたくない」と漏らし、市役所やギルドは顔を青くしている。


「あれだけ慎重に工事したのに……ここまで派手にやらかすとは」


「銭丸は……まあ、あれじゃ助かるわけないか。最後の見たよね、爆発に巻き込まれてたし」


 肩を落とす関係者の中には「あいつが簡単に死ぬと思えないけどな」と苦笑する者もいるが、誰一人確信は持てない。

 結局、下水道の衛生改革を目指した大事業も、凄まじい爆発と泥の津波で跡形もなく吹き飛んだ。人々はまたしても破滅した銭丸の姿に呆れるが、彼が再び姿を現すかもしれない――という疑念を捨てきれずに、泥まみれの街を復旧すべく動き出すしかなかった。

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