第25章「農業革命で爆死!? ハイテク農場の大炎上」
「食ってのは、どんな時代にも需要が途切れない。ここで“農業革命”を起こして、一気に稼ぐしかないだろ!」
黒峰銭丸は、丘の上から広大な農村地帯を見下ろしながら力強い口調で語った。いつもと同じく無謀にも思えるが、ここ最近の失敗続きが影響しているのか、事前に書類や契約などをやたらと整えているようだ。彼の隣では、水無瀬ひかりが契約書類をめくりながら首をかしげている。
「農業といっても、ただ作物を育てるだけじゃ大きな利益にはならないんじゃ……?」
ひかりが疑問を投げかけると、銭丸は自信たっぷりに笑う。
「そこをハイテクで改革するんだ。魔導肥料や温室、それに自動灌漑システムまで導入すれば収穫量が飛躍的に伸びる。農家も潤うし、俺も儲かる、一石二鳥さ!」
◇
銭丸は周辺の農家や農業ギルドと入念に話し合いを重ねた。珍しく、こちらの要望や不安をじっくり聞き、最適化する姿勢を見せる。過去の爆死を反省したのかもしれない。農家たちは最初こそ半信半疑だったが、魔導肥料の試験区画で成長が早まった作物を見て心が動いた。
「こんなに早く育つなら、収穫が倍近くなるかもしれない」
「そういうこと。農家の皆さんも、俺も、みんな幸せになれるってわけさ」
ひかりは契約書に目を落としつつ、万全を期すための条文を追加する。いつもより慎重な姿勢に、バルドやメルティナも少し安心しているように見えた。
◇
工事が始まると、農村の一角に小さな肥料工場が建てられ、そこで魔導肥料を量産する仕組みを作る。さらに、収穫の効率化を狙って温室を設置し、寒冷期でも高付加価値の作物を育てようという計画だ。銭丸が資金を投じて設計図を整え、バルドが土木班と協力して工事を指揮する。
「配管がきちんと通っているかチェックしろよ。あと温室は耐火・耐衝撃を意識して頑丈にしろ」
「言われなくてもわかってるさ。こないだの件で反省してるんだろ?」
バルドは苦笑いしながら建築隊を誘導する。ひかりは工事費用と資金繰りを確認しつつ、投資家たちにも報告書を定期発行するなど、いつになくまじめな運営体制が敷かれていた。
◇
やがて工事が完了し、農地では魔導肥料を使った作物が育ち始める。予想どおり、通常よりも早く発芽し、茎も太くなっているようだ。農家たちは目を輝かせ、都市への出荷も好調。市場価格も悪くないと聞き、銭丸はさらに勢いづく。
「ほら見ろ、うまくいくだろ? 農家も儲かるし、肥料だってバカ売れだ」
「まだわかりませんよ。トラブルが起きないといいんですが」
「めずらしく全部対策してるんだ。大丈夫に決まってるさ!」
ひかりは半分あきれながらも、「ここまで上手くいってるなら」と期待を抱き始める。
◇
農家の収益が増えたことで、さらに畑を拡張しようという話が出てくる。銭丸も工場の増設を検討し、一層の出荷量アップを狙った。その一方で、自動灌漑システムや温室の魔導装置をほぼフル稼働させるため、負荷が高まっているという報告も届き始める。
「稼働率が高すぎると、どこかで設備に不具合が出るかもしれませんね」
「そのときはメルティナが修理してくれればいい。スタッフも増やすし、万全さ」
銭丸は自信を崩さない。小さな異変があっても、即対応する体制があるから大丈夫だと言い切る。
◇
そんなある日の夜、肥料工場のタンク近くで異常な温度上昇が検知される。作業員が慌てて操作パネルを停止しようとするが、どうやら制御系が混線しており、思うように反応しない。銭丸が駆けつけ、エンジンを止めようとするが、熱と魔力の暴走はすでに始まっていた。
「こ、これはやばいぞ……! バルブを開いて圧力を逃がせ!」
「動きません! 何かが詰まってるみたいで……」
スタッフが必死にレバーを回すが、固着していて開かない。中では魔導肥料が加熱され、ガスが発生し始めた模様。メルティナが冷却薬を散布しようとするが、タンクの内部圧力が急上昇し、抑えきれない。
ドオォン――!!
激しい爆音とともにメインタンクが破裂し、炎と爆風が工場を包む。周囲に保管していた肥料在庫も誘爆を起こし、工場の壁や天井が一気に吹き飛んで連鎖崩壊。銭丸は爆炎の渦中で体ごと吹き飛ばされ、転倒した拍子に声を上げる。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。ハイテク農場は……爆死ッ……!!」
そのまま轟音がすべてをかき消し、工場の基礎ごと炎に飲み込まれていく。燃え上がった火の勢いは温室や農地にも及び、配管や魔力装置が次々と破裂してアチコチが大混乱に陥る。
◇
翌朝、農地の中央は巨大な黒焦げ跡になっていた。そこここに肥料や土の破片が散乱し、温室は骨組みだけ残して炭化している。自動灌漑システムも破壊されて水が漏れ出し、湿地のようになっていた。農家や出資者が呆然と廃墟を眺める中、銭丸の姿はどこにも見当たらない。
「せっかくの農業革命だったのに……なんでこうなるんだ」
「ここまで対策してたのに……結局、最後の最後で大爆発かよ」
人々がため息をつき、顔を曇らせる。これほど慎重に準備したにもかかわらず、大失敗に終わった事実に失望する者、嘆きの声を上げる者。いつものように、銭丸の生死は不明で、あれだけの惨状では生き残れるはずがないと思われた。
だが、「あいつはそう簡単に死ぬわけない」と苦笑いする農家もいた。どれだけ爆死してもなぜか次のビジネスを始めているのが、黒峰銭丸という男だから。いつかまた、どこかで「カネは裏切らない」と嘯いて立ち上がるのかもしれない。
こうして豊作の夢を見せかけたハイテク農場は、最終的に大規模爆発で大破滅に至り、農民と投資家たちの希望は一瞬で消え去ったのだった。




