第24章「ご当地テーマパーク! 魔導遊園地計画の一瞬」
「ただの遊園地じゃ物足りない。各地方の名物や文化を詰め込んだ“ご当地テーマパーク”を作れば、全国から客が押し寄せるだろ!」
黒峰銭丸は王都近郊のだだっ広い空き地を見渡しながら、いつになく張り切った口調で言い放った。過去には壮大なプロジェクトをいくつも爆死させてきたが、今回は事前にいろいろ手続きや書類を揃えており、少しだけ慎重な姿勢が見られる。
「ご当地テーマパークですか……地方の名物や文化を一か所に集めるってことですよね。言うのは簡単ですけど、かなり大掛かりじゃないですか?」
水無瀬ひかりが膨大な書類をめくりながら尋ねると、銭丸はにやりと笑う。
「スケールが大きいほど儲けもデカい。料理や工芸、民俗芸能から魔物ショーまで、何でも揃えて客を呼ぶんだ。子どもから大人まで楽しめる完全版遊園地ってわけさ」
◇
都市の行政担当者やギルドとの交渉では、銭丸は珍しく粘り強いプレゼンを行った。観光客が増えれば地元経済も活性化する、若者の雇用が増えるなどメリットを強調。今度こそ大丈夫だという保証を取り付けようと、契約書類を分厚く揃えて臨む。
「一度は農業革命やらテーマパークやら、失敗例がありますが……今回は本当に安全対策をしているんでしょうね?」
「もちろんさ。温泉や料理だけじゃなく、火災や災害対策も抜かりなく準備してる。きっと大成功するよ」
銭丸は胸を張って言い切る。ひかりは苦笑を浮かべつつ「過去があるんですから油断しないで」と釘を刺す。
◇
やがて工事が始まり、広い敷地に大きなゲートやメインストリート、各地方のエリアを模した“ご当地パビリオン”が続々と建設される。料理ブース、工芸体験ゾーン、魔物レースミニコース、さらには遊具やミニコンサートステージなど、あらゆる娯楽が詰め込まれた“魔導遊園地”の構想が進む。
「今回こそ、ちゃんと耐火建材を使ってるんですね」
「そりゃそうだ。火災には懲りてるからな。魔導制御装置も安全マージンを大きく取った。もう失敗する要素はない!」
バルドは建築現場を見回り、メルティナは魔導装置の配線をチェック。ひかりは工事や運営スタッフとの契約を管理しており、皆が慌ただしく動いている。
◇
いよいよ開業日が近づくと、銭丸の手回しで大々的な宣伝が行われる。“全国の名産・文化が一度に楽しめる”“家族で丸一日遊べる”“グルメフェスに魔物ショーまで”という触れ込みに、都市部や近隣国の人々が興味を示した。投資家たちも「これは当たるかもしれない」と期待感を高める。
「これだけ前宣伝したなら、オープン初日は大混雑だろうな。スタッフを多めに雇っとけよ」
「すでに臨時スタッフの教育を進めています。清掃班や警備員も充実してるはずです」
「よし、完璧だ」
◇
開業当日、朝からメインゲートには長い列ができ、パーク内は一気に賑わいを見せる。各エリアの料理ブースには行列ができ、工芸体験コーナーは子どもたちでいっぱい。メインストリートのステージではパフォーマーがショーを繰り広げ、拍手喝采が沸き起こる。
「見ろよひかり、まるでお祭りだ! 客がこんなに楽しんでくれてるなら、今度こそ安泰だろ?」
「本当にトラブルが起きなくてよかったです。スタッフが頑張ってくれましたからね」
ひかりは受付で見守りつつ、売上報告がきちんと上がってきているのを確認しホッと胸をなで下ろす。バルドやメルティナも巡回しているが、今のところ大きな問題は見当たらない。
◇
オープン後しばらくは順調に推移し、銭丸は「いよいよ大成功だ」と投資家に報告して回る。追加のエリア拡張を考えたり、魔物レースをさらに本格化したいと意欲を燃やしたり、野心的な計画を語る。
そんな矢先、小さなトラブルが相次ぐ。いくつかのブースで調理器具の魔導装置が過熱し、煙が立ちこめたり、工芸体験コーナーで使う塗料の在庫倉庫が異臭を放っていたりする。
「ここまで大きい施設だし、多少のトラブルはあるさ。すぐ対処すれば問題ないだろ?」
「今回もきちんと修理体制を取ってますし、小火程度で済んでますね」
ひかりが問題箇所をリストアップし、スタッフと連携して消火や清掃を行う。客への影響は最小限に抑えられ、パークは平和に稼働を続ける。
◇
だが、ある夜、バックヤードの巨大倉庫で魔導仕掛けの装飾物を保管していた箇所から異音がするとの報告が入り、メルティナが確認に行くと、温度センサーが非常に高い数値を示していた。誤作動かと思われたが、念のため換気を強化しようとしたところ、配管が詰まっていて空気が循環しない状態に。
スタッフたちが原因を探るうち、装飾の一部に火器用の薬品が混ざっていることが判明。しかも倉庫内の温度が急に上昇し、装飾物の塗料が溶解してガスを発生しはじめる。
「早く通気口を開けて冷却しないと……!」
「配管が外部と繋がってない? どうなってるんだこれ……!」
バルドが駆けつけて扉を開けようとするが、外に積み上げられた材料が邪魔をして開かない。さらに魔導照明の配線がショートし、倉庫の奥でパチパチと火花を散らした。
「嘘だろ、ここで火が……! まずい、早く消火を――」
◇
連鎖的に何かが誘爆したのか、倉庫の奥でドンという音が響き、魔導花火のような閃光が走る。片づけられずに残っていた魔導粉末が火を噴き、一気に装飾品や布類に燃え広がる。スタッフが消火道具を抱えて駆け込もうとするが、扉付近にはもう炎が迫っていた。
「くそっ、出せるだけの消火魔法を使え!」
「間に合いません! 別の出口を探さないと……」
倉庫と隣接するブロックの壁を燃え上がる炎と黒煙が覆い、銭丸が慌てて「今すぐ避難誘導だ!」とアナウンスを回す。パーク内の客も巻き込まれる危険があるため、スタッフたちが急ぎ客を外へ誘導し始めた。
◇
火の手は次第に大きくなり、隣の管理棟へも延焼を始める。そこには魔導燃料やパーク演出用の火器、特別効果用の薬品が保管されており、一つ火が付けば連鎖誘爆は確実。
案の定、ほどなくしてドォンという大きな爆発音が響き、建物ごと吹き飛ぶ衝撃が伝わってくる。銭丸が「まずい!」と叫んだ瞬間、火柱が空へ勢いよく伸び、管理棟の壁や天井が崩落。一帯は火の海と化していく。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。ご当地テーマパークは……爆死ッ……!!」
銭丸の声が炎と爆風にかき消され、周囲にいたスタッフたちも必死に逃げ出す。客の多くは既に退避できたが、テーマパークの中核施設は手が付けられないほどの大炎上。追加の爆発が次々に起こり、パーク全域が轟音と閃光に包まれていく。
◇
翌朝、パークの大半は瓦礫の山と化していた。メインゲートこそ形を残しているものの、内部は焼け野原で建物は無惨な姿しかない。せっかく開業し、盛り上がりを見せた“ご当地テーマパーク”は、一夜にして崩壊してしまった。
出資した貴族やギルドは肩を落とし、開業初日の勢いはどこへやら。スタッフたちは途方に暮れ、廃墟となった会場をただ眺めるだけ。いつものごとく、黒峰銭丸の行方は分からず、「あの爆発で絶対死んだ」と口にする者もいれば、「いや、なにしろ銭丸だし……」と苦い顔で言う者もいる。
「今回こそいけると思ったのに……どうしてこうなるんだ」
「しっかり対策してたはずでも、最後にひっくり返す破滅の力があるとしか思えない」
そんな呆れ混じりの会話が飛び交い、立ち尽くす人々。結局、この“大掛かりな魔導遊園地計画”も爆死という結末を迎え、盛大に期待された観光ビジネスは一瞬の花火で散った。それでも、彼が本当に死んだかどうかは定かではない――なにしろ、カネは裏切らずとも、黒峰銭丸はいつだってあり得ない形で生還してきたからだ。




