表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/100

第23章「スポーツリーグを仕掛けろ! 熱狂スタジアム破滅」

 「国や街ごとにバラバラなスポーツ大会を開くくらいなら、いっそ“リーグ化”しちゃえばいいんじゃないか? 観客もスポンサーも全国規模で集まるはずだ」


 黒峰銭丸は王都の雑貨カフェで、地図とスポーツ種目一覧を並べながら熱弁を振るう。ここ最近、彼はたびたびビジネスを起こしては大失敗に終わっているが、懲りずに新規企画を推し進めていた。


「スポーツリーグというのは、例えば球技や闘技、騎馬競技など、様々な競技をまとめてシーズン戦にするわけですか?」


 水無瀬ひかりが、ノートをめくりつつ確認する。銭丸は勢いよくうなずいた。


「そうだ。各都市からチームを募って定期試合を組み、勝ち点やランキングを導入する。観客はシーズン通して盛り上がるし、ギャンブルも併設すれば儲かる。まさに“一大エンタメ事業”だ」


「またギャンブル要素を……。公営ギャンブル事業は前に爆死してませんでしたっけ?」


「細かいことは気にするな。リーグの成功自体で十分スポンサーが付くし、観客が集まれば収益は跳ね上がるはずだ」


 ひかりは苦笑を浮かべるが、銭丸の言葉には確かに一理ある。街の闘技や騎馬競技は人気だが、イベント自体が単発で終わりがち。そこにリーグ戦のシステムを導入すれば、新しい客層を呼べるかもしれない。



 すぐに銭丸は行動を開始した。王都だけでなく周辺の都市に声をかけ、「野球やサッカーに似た球技系」「騎馬や魔物を活用したレース系」「闘技や武術トーナメント系」など、それぞれチームや選手を募ってリーグの参加申し込みを取った。

 同時にスポンサーとして貴族・商会・ギルドを巻き込み、リーグ全体の運営資金を出資してもらう。バルドとメルティナは試合運営の安全対策、ひかりはスポンサー管理やチケット発行に追われる。


「こんな短期間で、よくこれだけチームや選手が集まりましたね」


「いや、皆乗り気だったよ。定期的に試合できれば、選手の稼ぎも安定するし、ファンも応援しやすいだろ? スポンサー企業は広告を出せてウハウハだ」


 銭丸は上機嫌で書類をまとめる。リーグの正式名称を「ユニバーサル・スポーツ・リーグ(仮)」とし、初年度は球技・闘技・騎馬レースを同時進行の形でスケジュールを組むことになった。



 開幕戦は王都の大スタジアムで開催する。銭丸の手配でスタジアムの改修が行われ、新たな観客席や魔導スクリーンを導入。飲食やグッズ販売ブースも拡充され、開幕日のチケットはあっという間に完売するほど盛況だった。


「見てくれ、ひかり。観客でスタンドが埋まってるぞ! やっぱりリーグ開幕ってのは華がある。これは大儲けの予感だ」


「本当にトラブルが起きなければいいですけど……」


 ひかりは、試合が始まる前から売店の行列やチケットのダフ屋行為など、いくつも問題を抱えていることを把握していた。しかし、いまのところ大混乱には至っていない。



 いざ開幕戦がスタートすると、華々しい開会式に続いて球技の試合が行われる。観客は熱狂し、チーム同士が白熱したプレーを繰り広げた。後日には闘技や騎馬レースも予定されており、リーグの存在感は急速に増していく。


「素晴らしいな。こうやって定期試合を続ければ、観客は何度も足を運ぶ。グッズや飲食も売れ続ける。最高じゃないか!」


 銭丸は売上報告を見て、大満足の表情を浮かべる。バルドも「今のところ危険行為は見当たらない。警備が効いてる」と言った。



 しかし、リーグ戦が進むにつれ、問題が噴出し始める。まず、チーム間での“八百長疑惑”が取り沙汰されるようになった。ある試合で明らかに実力差のある強豪チームが不自然に負けるなど、不可解な結果が続くケースがあったのだ。


「スポンサーが勝ち馬に投資して、裏でチームを買収しているんじゃないか?」「賭け金が絡んでいて、試合結果を操作しているのではないか?」という噂が広がり、ファンが不信感を募らせる。


「八百長なんかやめろって……これ、もし事実ならリーグの信用がガタ落ちだぞ」


 銭丸は弁明会見を開くが、疑惑は完全には拭えない。加えて、闘技部門では選手へのドーピングが横行。メルティナは魔導薬に詳しいため、試合前のドーピング検査を提案するが、対策が追いつかない。



 さらに、厄介なトラブルが襲う。レース部門で魔物騎乗を導入したことが仇となり、あるレース中に魔物が制御不能に陥って暴走した。観客席に突っ込む事態となり、負傷者が出てパニック状態に。スタジアム施設の一部が破壊され、数日間の営業休止を余儀なくされる。


「まさか魔物があんな暴れ方をするとは……」


「騎手の訓練が不十分だったんですよ。スポンサーの要望に合わせて種目を増やしすぎました」


 バルドとひかりが事後処理に奔走する中、銭丸は「今はまだ調整段階だ。長い目で見てくれ」とスポンサーやファンに言い訳を続ける。だが、運営側の管理能力が疑われ始め、投資家の一部が撤退の動きを見せるようになる。



 危機感を覚えた銭丸は、大スタジアムで大々的に“ファイナル・スペシャルマッチ”を組もうと発案する。多種目の決勝戦を同日に詰め込み、華麗なショーと音楽演出も加えて、一日で莫大な観客を呼び寄せる計画だ。


「ここで大成功すれば、みんな疑惑も忘れて盛り上がる。チケットは高額設定だが、完売間違いなしだろう」


「確かに華やかでしょうけど、急ごしらえで大丈夫ですか? 競技を一日に詰め込むって相当混雑しますよ」


 ひかりが心配を口にするが、銭丸は「無理やりでも派手にやるほうがウケるんだ」と譲らない。大勢の観客を集められれば、興行収入で借金を返し、リーグの評価を持ち直すことができるという算段だった。



 ファイナル・スペシャルマッチ当日。大スタジアムには、朝から多種多様な観客が押し寄せる。球技の決勝、闘技トーナメントの最終ラウンド、そして騎馬レースの最終戦が一日のうちに連続で開催されるという荒っぽいスケジュールだが、観衆は朝から興奮気味だった。

 ところが、実際に試合が始まるとさっそくトラブルが多発。試合時間や準備が被ってスタッフが足りなくなる。魔物レースの予行演習が押して、球技の試合が遅れ、観客同士がイライラし始める。


「何やってんだ、早く始めろよ!」

「闘技の方は進行してるのに、球技が全然進まない! 金返せ!」


 客席から罵声が飛び交う。警備員がなだめるが、収まらないまま次の試合が強行され、混沌とした雰囲気に包まれる。



 そして最終種目のレースがスタート。騎手や魔物が全力で走る迫力に、客席は歓声を上げて熱狂する。ところが、中盤で再び魔物が興奮状態に陥り、競馬とは別路線で走るはずの“特別魔物レース”用のドーピング疑惑が再燃。

 複数の騎手が異常な速さを発揮し、観客席が大荒れ。「不正だ」「どう考えてもおかしい速度だ」と怒声が上がり、騎手同士のぶつかり合いが発生。大混乱のままゴールラインをめちゃくちゃに突っ切る展開となった。


「おい、これは八百長だろう!」「金返せぇぇ!」


 観客の暴徒化が一気に進行。スタジアムの座席や廊下で乱闘が起き、売店が荒らされる。バルドたち警備員が止めに入るが、数が足りない。挙句の果てに火器を持ち込んだ輩が暴れ、数か所で火が上がり始めた。


「くそっ……また火事かよ!?」


 銭丸は慌ててアナウンス(魔導放送)で避難を呼びかけるが、皆パニックで言うことを聞かない。火の手がスタンドの座席や看板に移り、黒煙が吹き上がる。さらにスタジアム下層に保管していた魔導花火や爆薬(イベント用)に引火したらしく、大音響の爆発が発生。


 ドオオォン……という衝撃でスタジアムの上階が揺れ、支持構造が崩れかける。シーズン前に改装したばかりの鉄骨がきしむ音を立て、客席の一部が崩落し始めた。


「うわあああっ……!」


 群衆が雪崩を打って転倒し、悲鳴がこだまする。銭丸も衝撃波で吹き飛ばされ、貴賓席の柵を超えて数メートル下に落下。体を強打し、息が詰まる。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。スポーツリーグは……爆死ッ……!!」


 そう呟くや否や、上階からの瓦礫が降ってきて銭丸を押しつぶす。観客たちは我先に脱出を図り、スタジアムは炎と破片、暴徒化した人々でめちゃくちゃになった。



 翌日。巨大スタジアムは崩れ落ちた鉄骨と黒焦げの残骸だけが残った。大勢の負傷者が出て、リーグそのものは解体の方向へ。スポンサーや出資者は大損害を抱え、チームや選手はバラバラに逃げ散る。あれほど華やかだったスポーツリーグは、一瞬にして悪名だけを残して終わった。


「こんな騒ぎ、聞いたことない。八百長や暴動まで……無茶苦茶だ」


「これじゃあスポーツどころじゃない。リーグなんか二度とやりたくない」


 関係者は肩を落とし、観客たちも呆れて去ったあと、たまたま残っていた者が「あの銭丸って男はどこへ行った?」と呟く。だが、人々はあの大爆発で間違いなく彼は死んだと思っている。もっとも、なぜか行方不明のままというのが常だ。

 一部の人は「また突然生き返るかもな」と冗談交じりに語るが、無残に崩れたスタジアム跡を前にしては笑い話にもならない。こうして新時代のスポーツリーグを掲げた大事業は、燃え盛るスタジアムとともに崩壊し、黒煙の末に姿を消したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ