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神秘学メンズラブシリーズ"nihil"  作者:
第四巻『血を流し死で洗い 命枯らすまで 荊棘たれ。』(CoSH Exc.2)

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Example 3-10

 翌日、あらかたFALKEからの文房具を片付け終えて、バスカヴィルは事務室のほうへ入室した。ノックの後に入ってきたバスカヴィルを見て、示し合わせたかのように全員が起立する。少し感心したのは、彼らはまるで軍人のマスゲームのように一挙一動の仕草を取らずに、思い思いのタイミングで厳かに行動する。ROZENの中でもっとも上位の部門に在籍する尊厳、ただ前線で剣を振るうだけが軍人ではないという主張が溢れている。


「おはようございます閣下。本日の連絡事項は昨日紹介出来なかった新人達の名前等です。こちらがプロファイルとなっておりますのでお目通しください。」


 部門の全てを管轄する大尉に書類を手渡され、横一列に並べられた新人達の前へ案内される。プロファイルを捲りながら握手を交わし、目についた部分で二言三言言葉を交わした。


「私からの連絡事項だが……。手が空いている者がいれば去年度分のあらゆる帳簿を私のところに全て持ってきてほしい。」


「去年度……全ての期間ですか? 全ての範囲で?」


 驚いた大尉にバスカヴィルは頷く。


「出来れば前元帥任期中全てに目を通したいが、取り敢えず去年度分を。」


 取引を把握せずしてなにが元帥だろうか。バスカヴィルの瞳に大尉も頷いた。


「承知しました。帳簿を出す時は持出記録が必要ですがお名前は……如何しましょうか?」


「無論私の名前で。但し、括弧書きで隣に持ち出した本人の名前の名前も入れておきたまえ。」




 パーシヴァルが両手に新聞や雑誌やテープを持ってきた頃には、バスカヴィルの机にはそれはもう多くの帳簿が軒並み並んでいた。


「……閣下。」


「おはようパーシヴァル。すまない、そのソファーの前の机に置いておいてくれたまえ。」


 流石に腕が疲れたのか、パーシヴァルは少し乱雑にかき集められたメディアデータを置いた。


「これは何をされているのです?」


「去年度分の取引記録に目を通しているんだよ。」


 仕事をする分の執務机のスペースには、名簿や取引のある会社の詳細などがまとめられたデータが散らばっている。


「成程……。」


「まあこちらは私のペースでやるよ。それで、持ってきてくれたんだね。」


 帳簿を閉じて、バスカヴィルは体を乗り出した。ローテーブルの上には、バスカヴィルの執務机と同じ高さになるくらいまで新聞類が重ねられていた。


「はい、本日部下が一式持ってまいりました。こちらは帝国直轄領の新聞や雑誌、こっちが他ローカルのものです。このテープは録音で、それぞれ直轄領分とローカル分になります。ローカル紙のほうですが、おそらく明日からのほうが手に入りやすいでしょうので、多くは明日以降に。」


 ガイドされるままに、バスカヴィルは帝国直轄領の新聞を手に取った。多くの誌は一貫してバスカヴィルの演説文全文を乗せ、過去の体制の批判と、前任者アンソニーを受け継ぐ事の明言に関した事が書かれている。


「帝国直轄領のメジャーな新聞はやはり中庸だな。」


「そうですね、リヴィングストン閣下の頃から過激な新聞はあまり読まれなくなったかと。」


 対して読者層を絞った新聞は軍部政治のマンネリ化に対する懸念の声が伺われた。この層は大きな進展のある政治を行い、帝国へ新風を入れて欲しいという声が大きいらしい。


(リヴィングストン閣下は確かに、正義感には溢れているが穏健にやる性格だった。対して彼らは新鮮さや斬新さが欲しいと言う事か。)


「あ、そちらはゴシップ誌です。」


 ざっと目を通したバスカヴィルは、次に手に取った雑誌で片眉を上げた。


「……久し振りに見たな、ゴシップ誌に載る自分の顔を。」


 白黒写真の上にはいやらしいゴシック体で、美貌の元帥が進む道とは、とかいう題字が振られていた。この写真は恐らく、パレードの後車を降りて観衆と握手をした時に撮られたのだろう。次のゴシップ誌には、行方不明の皇太子の噂、などと書かれている。


「目は通したのかね?」


「ええ、まあざっとは……。」


 口ごもるパーシヴァルにバスカヴィルも雑誌のトップ記事を開いた。元皇太子、冒涜的なまでの美貌の持ち主、前代未聞の元帥直行コース。これだけの条件が揃っていて、あらぬ噂が立てられてもおかしくはない。金か体か、正攻法でない事は確かだ、などと書かれていてバスカヴィルは含み笑いが絶えなかった。彼らの想像は下卑た物だろうが、それを持て余し切った語彙力で書き立てられた記事にはバスカヴィルも感服した。その表現は嫌いではない。彼らを籠絡出来たら面白そうではあった。


「ゴシップ誌も検閲はされているのでまあ……野放しではありましょうが。」


「いや、むしろこのままでいい。新聞は至って真面目に書いているが彼らの文章から滲み出る私の魅力もあるだろう。」


 目を丸くして、パーシヴァルは面白そうに自分のゴシップ記事を見るバスカヴィルを見つめた。あんな下卑た記事でもバスカヴィルの魅力は溢れるのだ。パーシヴァルは舌を巻いた。悪徳の美ほど抗いがたいものはない。新聞は理性に訴えるが、ゴシップ誌は大衆の本能に訴えた。最早元帥就任一日目にしてバスカヴィルは既にコンテンツ化され始めている。


「ところで各地域はやはり私の今後の動向に注目しているようだ。地域にどれだけ重点を置いた政策を取れるかが肝ではあるようだね。」


「誠にその通りです閣下。実地で参られずともやりとりで注目される部分もあるでしょう。打てる策を考えてまいります。」


「ありがとうパーシヴァル。一つ提案なんだが、私が大衆向けに出す声明は確か本部将軍が記者会見などで発表するんだったね?」


 あらかた読み終えたものを脇にやって、バスカヴィルは再び机に乗り出した。


「左様です。」


「それを他のROZEN支部に回すとどのくらいの時間がかかる?」


 ソファーに体を預けて、パーシヴァルはふむ、と顎をなぞった。


「なかなか難しいですね。仰りたい事は分かりますが時差がありますので……。ですが確かにメディアよりも先にROZEN支部の発表があるほうがよろしいのは事実。緊急のものは各将軍邸に電話をかけ、そうでないものは閣下が私に声明を渡した時点で各支部に電報を送るという手を取ってみましょう。今まで声明は本部が公式に発表してから、支部が事実確認をして公表しておりましたので。」


「では今後の手順はそれで。」


 それ以降は大した会話もなく、パーシヴァルは退室の許しを得て元帥室を後にした。部下に新たな手順を説明するとして、パーシヴァルはゴシップ誌に対するバスカヴィルの姿勢にため息が出るほど惚れ惚れしてしまった。


 * * *

毎日夜0時に次話更新です。

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