第四十一話
「帝国は今、アースドラゴンとカムルチーに攻め込まれていますからね。」
「...マジ?」
マジマジ。
あの日、俺がトゥーメト公爵に提案した作戦は、帝国への進軍だった。
そもそもの問題が、王国各地に布陣してしまった帝国軍だ。
王国としての体を成していないほどに攻め込まれている為、一部の地域を取り戻しても、また直ぐに帝国軍に囲まれ、占領されてしまう。
じゃあ過剰戦力の俺が、王国全土をしらみつぶしに回って帝国軍を撃破するってのも現実的ではない。いつかは終わるだろうが、かなりの時間がかかる。
じゃあどうするか?
ガーデン王国に進軍して、守りが手薄になってるルアー帝国本土を攻撃すれば、帝国軍は自国を守るために王国から兵を退却させると考えた。
その際にネックになるのが帝国を攻撃する為の戦力だ。
出来るだけ早く帝国に辿り着き、なおかつ帝国が無視できないほど強く、帝国の地理に詳しくて直ぐに逃げれる人物。
そんなことはマリー派の、どの貴族軍でも無理だろう。
そう、カムルチーとアースドラゴンしかいなかった。
元々この2人は、帝国軍に従軍していただけあり、地理に詳しく、行軍も退却も素早い。戦力としても十分過ぎる。...唯一の懸念点が、相手がまだドラゴンや魔人などの戦力を保有しているってことだったんだけど、どうやらそれはなさそうだ。
そして後は本人の気持ちだ。
帝国への裏切りになるけどいいのか?と聞くと、帝国で奴隷の様に重労働させられたらしく、むしろ恨みの方が強かった。
思いっきり暴れまくると意気込んで帝国へ向かった。
因みに、アースドラゴンとカムルチー、どっちも目の前のギャル勇者に負けて捕らえられたらしい。
帝国にギャル勇者がいたらこの作戦も危なかったな。
「帝国が攻められているんだったら、パパとママも危ない...!」
「いや、アースドラゴンとカムルチーには軍人しか殺すなと言ってある。攻撃に巻き込まれていたら申し訳ないけどね...。」
気休めにしかならない台詞だろう。カムルチーは嗜虐的な性格をしてるし、アースドラゴンの攻撃は、範囲が広い。
勇者の両親に危害が及んでいないとは言い切れなかった。
「伝令!ルアー帝国、城壁外周にアースドラゴンとカムルチーと思われる存在が出現!激しい攻撃を受けています!被害多数!《魔人嬲りの勇者、イオ》及び、対ガーデン王国攻略部隊は全軍、至急帰還されたし!」
お、帝国側の伝令だ。
情報早いな。馬以外にも情報を伝達する手段があるのかも。
勇者は俺を見ながら後退りして距離をとっている。
「いいですよ、帝国へ帰っても。」
「なんでぇ?なんで見逃してくれるの?」
「あなたには、帝国の戦力が、勇者より強いものを持っていないと教えてもらいましたからね。」
「...それだけじゃ見逃す理由になってなくない?」
うるせーよ!早く行けよ!
戦場で敵に同情しちゃった、とか言える訳ねーじゃん!
「そんなに死にたいなら別に構いませんが...」
「い、いやっ帰りますぅ!見逃してくれてありがとう、オジサマ!」
強引に会話を終わらせようと脅したら、
速度アップ魔法を使って凄い速さで逃げていった。
オジサマ...?俺はまだ30歳だぞ!
あれ?でも俺が10代の頃は20代後半からオッサン呼ばわりしてたな...俺も遂におじさんになっちまったのか...。悲しい。
軽くショックを受けつつも、帝国軍を王国から退却させることができたことを思い出し、アースドラゴンに、魔力契約を通して帰還指示を出す。もう役目は果たしたからね。
アースドラゴンからカムルチーにも帰還命令を伝えてもらおう。
よし、作戦の成功をマリーちゃん達に知らせないとな。
......まず全員気絶してるのを起こす所からはじめないとな...。
め、面倒くさ。まあ自分でやったんだけども。
ーーー
頑張って全員起こした。
途中から起きた人にも手伝ってもらい、全員目が覚めたようだ。
マリーちゃん達には、勇者には速度上昇魔法を使われ、逃げられたと説明しておいた。
バレないよな?大丈夫だよな?
まあバラたらバレた時に何とかすればいいか。俺魔人だし何とかなるっしょ。
ーーー
当初の予定通りに俺たちマリー派軍は、王都へ入ることができた。
おお、流石王都。もの凄く発展している。
サニー村とは比べものにならないぐらい、建築物が頑丈そうで大きい。道路もレンガで補装されてて歩きやすいな。
だが居住区は閑散としている。まあ他国に攻められたら、そりゃ住人は逃げるわな。だがちらほらと、人の気配がする家もあるから全員が逃げた訳ではなさそうだ。
王都を中心にある王城に向かって進むにつれ、建物の損傷が激しくなっていく。血の跡や、魔法を使ったであろう跡もある。中心部で激しい戦いがあったようだ。
そしてガーデン王城の大きな門が見えた。
だが、城壁の前に大量の敵軍が待ち構えている。
あ、誰か出てきた。周りの敵兵より服が豪華だ。偉い人なんだろうな。
「そこで止まれ!王女よ!お前らにこの城を明け渡すにはいかん!」
「そこは妾たちゴールド王家の居城よ。返してもらうわ。」
マリーちゃんも前に出て声を張る。
なんだ?
カムルチーやアースドラゴン、ギャル勇者がこちらに負けたことは相手も知ってるはず。なんでこんなに強気に出れるんだ?てっきり俺は、王城を占領してた部隊も帝国に引いたかと思ってたんだけど。
「おい、連れて来い!」
「...?」
敵の偉いさんが部下に指示を出して何かを連れてこさせている。なんだろう。
「!!お父様!お母様!生きていらしたのですか!」
手枷をはめられた、すんごいイケメンの中年と、美人さんが連れてこられた。
アレがマリーちゃんのお父さんとお母さんですか。確か行方不明って聞いてたけど、まさかの生存。
...ちょっとやつれてるな。どっかで監禁されてたっぽいな。
!あーもしかして、俺達への人質として使おうとしてるから、こんなに強気なのか。うわ、卑怯くせー。
ん?まだ誰か連れてこられてる。
「な!」
「なんと!」
「何故捕虜に!?」
これまた手枷付きのイケメンが連れてこられた。
トゥーメト公爵やジョアンナ伯爵、メークイン男爵、更には味方の兵士までがリアクションをとってるから、皆んな知ってる人らしい。
「バージルお兄様...」
え?
え?アレが?第三王子バージル?
今回のクーデターを起こした張本人がなんで敵軍に人質扱いされてるんだよ。
意味が分からない...。
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