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第三十一話

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北の魔人、レオの名前は有名な筈だ。

キャロットちゃんは、方角魔人の地位は全魔人の憧れと言っていた。なら北の魔人を現役でやってるレオの名前は知られているだろう、と思っていたんだけど...。


「にゃはっ!にゃははははは!!お前アホ過ぎるにゃあ!!ひーひっひっひ!!にゃーっはっは!!」

...なんか凄い笑われてる。


「はぁ〜...。いやぁー久しぶりにこんなに笑ったにゃ。お前、中々ジョークのセンスあるにゃ。」

「それはよかったです。では面白かったみたいなので生かしてくれませんか?」

「駄目にゃ。さっきのセリフは嘘にゃーん。」

くそ、駄目か。敵をいたぶる魔人、って聞いてたから無理だとは思っていたけど...思ったよりコイツ性格悪いな。


だけど...よし、体が動く。痺れは大体治ったようだ。

まだ手は再生しきっていないが何とか戦えるようになった。

でも、少しこの魔人に聞きたいことがある。


「最後に教えてもらっていいですか?何故北の魔人の名前を言った時、笑ったんです?」

「にゃ?... しょうがないにゃあ。馬鹿な魔人へ冥土の土産に教えてやるかにゃ。お前のような魔力がない弱い魔人は、北の魔人の縄張りに入った瞬間殺されるからにゃ。」

ああなるほど...もうちょっと考えてハッタリ言った方がよかったか。


「それに北の魔人の名前は誰も知らにゃいのにゃ。」

「えっ?私の知り合いは知っていましたけど。」

北の魔人の名前ってメジャーじゃないのか?


「それこそあり得ないのにゃ〜。今の北の魔人は、あの東の魔人の再来と言われるほど凶暴にゃん。あの化け物と戦って生きてた奴はいないにゃあ。

それに〜、方角魔人っていうのはその強さゆえ、姿形、名前さえも誰も知らないのが常識にゃ。何でお前如きの知り合いが知ってるのにゃあ?」

この分だと、その知り合いが西の魔人なんですって言っても笑われるだけな気がする。


「...じゃあ分かったかにゃん?来世はもっとマシな嘘をつけるように頑張るのにゃぞ〜。」

言い終わった途端、カムルチーの抜き手が俺の眉間に放たれた。


「うおおっ!」

あっぶねえ!!ギリギリで躱せた!


「ちぇ、ちょっと長く喋り過ぎたかにゃ。動けるようになってるにゃん。

まあお前が死ぬことには変わりないにゃーん。」

上空の雲が帯電し始めた!さっきの雷攻撃か!?

ちくしょうコイツの固有能力強過ぎだろ!逃げることしかできない!


うおおおお!魔人の身体能力は世界一ぃぃ!!


咄嗟にダイビングジャンプを決め、落雷を避ける。

ぐあぁ!ちょっと掠った!

足が、ふくらはぎが一部吹き飛んだ!いぃってえぇ!!


「ぐぅぅ...。」

「お前ホント弱いにゃん。今まで戦った中でダントツで弱いにゃ。」

貶されているが、落雷で抉られたふくらはぎと左腕が痛くて答える余裕がない。


「ほーら次にゃ。」

雷雲が3箇所、帯電し始めた。...3箇所!?

む、無理だろそれは!コイツこんなに能力を乱射できるのか!魔力量どんだけ多いんだ!


「次は何処を狙おうかにゃあ?右腕がいいかにゃ?それとも腹?股間なんかも面白そうだにゃあ。」

この糞ドS!さっきのふくらはぎはワザとかよ...!


「きーめた!...全部にゃ!」

まずっ...!


空をつん裂くような音と共に、3つの雷の槍が俺に降り注ぐ。


一撃目が俺の右腕を消し炭にし、二撃目が腹を蒸発させ、三撃目で俺の下半身が吹き飛んだ。


「ぅ...が......。」

「...お前、本当に無知で弱いんだにゃあ...。

ピンチなのに固有能力を使ってくる気配もないし、私の名を聞いても逃げない。運動能力も低いし魔力も低い。

つい最近生まれたばかりの魔人みたいにゃ。」

仰向けに倒れ込んで無様にもがいている俺に、少し離れた場所に立っているカムルチーが言った。

その通り生まれたてだよ、と答えたいが答えれる気力もない。うめき声がかすかに漏れただけだった。


両腕は使えないし、腹も右半分が無い。足に至っては、そもそも股間から下が千切れてしまっているので存在しない。

満身創痍。虫の息だ...。


くそ...俺が強い固有能力を持ってたら...結局最後までどんな能力か分からなかった。

ピンチになったら発動してくれるかもと期待してたんだけど、それも無さそうか...。


ふと、目だけを動かしてニオン砦の方をみる。...マリーちゃん派が押されていた。いつのまにかジョアンナ伯爵も合流しているがそれでも無理か。

ちくしょう。相手の攻撃スピードが早すぎてメークインさんに借りた撤退指示用の信号弾を使えなかった。マリーちゃん派は引き時を誤って囲まれている。ジョアンナ軍を足しても相手の軍より数が少ない。


...全部俺のミスだ。ドラゴンがあの程度の強さなら二つ名持ちの魔人も大したことはないだろうと高を括ってしまった。もっと早く、カムルチーに勝てないと判断して撤退指示を出していればマリーちゃん達は逃げ延びれたかもしれない。

全ての見通しが甘かった。


くそう...。

自分自身への情けなさで涙が出る。


「いいにゃ、いいにゃその絶望した顔!

それを見るのが大好きなんだにゃあ。やめられないんだにゃあ。」

「...。」

仰向けに倒れる俺を覗き込むようにカムルチーが側に立つ。ちくしょう、体が一切動かない。死ぬ前にこのゲス野郎を一発殴りたかった。


.........!!



「ふー。じゃあ貴重な魔人の絶望顔も見れたことだし、さよならにゃん。

.........?笑ってる...のかにゃ?何が可笑しいんだにゃん?

苦し紛れでも最後は笑って死のう、って感じかにゃあ。」



...カムルチー。


俺は賭けに勝った。


俺は最初から最後まで攻撃をせず、逃げに徹した。


少しでも時間を稼ぐため。


無様でみっともなくても逃げ回った。




...ふふふ。

自然に笑が漏れた。



カムルチーの背後の空を見ると見覚えのあるシルエットが見える。

髪は銀髪でセミロング。肌は浅黒くてジト目。白目の部分が黒く、瞳は金色ーー




俺の目には、我らがキャロットちゃんの姿が映っていた。




「来世はもっとマシな嘘をつけるように頑張るのにゃぞ〜」ってセリフ書いたあとに、ちょっとオー◯ド博士っぽいな、と思いました。

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