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第二十四話


「き、キスをしてあげる!」

「...。」


「王女様のキスよ!光栄に思いなさい!」

「...。」


「ね、ねぇ妾のキスよ?う、嬉しくないの?」

「...。」


「か、勘違いしないでよね!これはジョアンナ領へ行くあなたへの褒美であって、別にあなたのことなんか何とも思ってないんだから!」

「...。」


「ま、まだ褒美が足りないの...?し、仕方ないわねやっぱり結こ..」

「ジョアンナ伯爵が心配ですね!!直ぐに出発します!!」


マリーちゃんがいい終わる前にダッシュでメークイン男爵領を出た。


ジョアンナ領へ行く道を走る。

なーんかマリーちゃん護衛契約結んだ辺りからおかしくない?積極的すぎる気がする。いやこれは試されているのか?護衛契約を結ぶのに相応しいかどうか。

...そりゃそうか。やっぱり俺のような童貞の勘違いが一番イタい。コイツもしかして俺に気があるのか!?みたいな。

間違いないな。やはりこれまで通りスルーせねば!鋼の心を持て!俺!


マリーちゃんへの対応を考えていたらメークイン男爵に教えてもらったジョアンナ伯爵領への目印が見えた。


「確か森の木より高い城って言ってたな。あれのことか。」

前方に、森を隔てて、石でできた小高い城が見える。

目印あると行き先分かりやすくていいな。ちょっと速度上げよう。

馬に乗って移動するスピードの5倍以上の速さを出して森を駆ける。魔人の力ってすげー。


直ぐにジョアンナ伯爵城と思われる城が見えて来た。

そしてやはり帝国軍と思われる軍に攻め込まれている。


「うわ。メークイン男爵の予想通り、戦況が悪い。」


メークイン男爵城は城壁と大きい堀があったが、ジョアンナ伯爵城には壁があるが、堀がない。メークイン男爵城よりも防衛力は劣っているだろう。

既に城壁も何ヵ所も崩されて領内への侵入を許してしまっている。そしてジョアンナ伯爵城自体が敵軍で囲まれていた。伝令が来なくなったのはこれが原因だろうな。


しかもジョアンナ伯爵城の前に大型のトカゲみたいなのがいるのが見える。


「もしかして...ドラゴン!?」


勝てなくね?無理でしょドラゴンとか。ファンタジー最強の代名詞じゃん。

...今からでも戻って報告するか。ドラゴンいたらさすがに魔人でも勝てないって分かってくれるでしょ。

ジョアンナ伯爵には申し訳ないが撤退だ。

うおっ火を吹いてる!無理無理!ありゃ無理だわ。


...ん?あの人は...


ーーー


「ジョアンナ様!西の城門も破壊!突破されました。」

「...そうか。」


私、ジョアンナはジョアンナ伯爵領を治める貴族だ。

先代の伯爵が高齢で隠居した時に、色々あり私が継いだ。


ジョアンナ伯爵領は領地が広く、気候も比較的安定しているため農作が盛んだ。私の領地が王国の農産物を占める割合は、およそ15%と非常に多い。

だからだろうか、マリー派の食物事情を潰そうとしたのか領地が狙われた。伝令によると、メークイン男爵領もほぼ同時に攻め込まれているようだった。伝令を放ってもすぐさま排除されてしまうようでその後の状況は分からなかったが。


恐らくジョアンナ領とメークイン領が辺境にあるのに、同時に狙われた理由は農産物の出荷能力が高いからだろう。


ジョアンナは農産物の生産量が多く、メークイン領は馬を家畜にする事業が盛んなため、馬車を多く持っている。

そしてお互いに協力し、王国全土への出荷を実現していた。

メークインとジョアンナは切っても切れない存在なのだ。


だからこその同時攻撃。

そしてその策は見事にマリー派に大打撃を与えている。私の領地で生産した物は現在各地への供給が止まっている状況だ。

このままではマリー派の存続が危うい。


もっと防衛に予算を回すべきだった。農産に集中し過ぎた。まさか王国側から攻められると予想していなかった。


全ては遅かったのだ。


「ジョアンナ様!あれを見てください!」


後悔している私に、部下が悲鳴に近い声で私に呼びかける。城の窓から巨大な緑色の蜥蜴が見えた。


「な...ア、アースドラゴンだと...。」


アースドラゴンは成体の竜種の中でも1番弱く、唯一の四足歩行で、翼が退化しているため飛べない。だが竜種は竜種。

そのブレスは小さな城ぐらいなら消し飛ばし、放たれる尾撃は魔人すら絶命に至らしめる。


一説によると、人間の平均魔力が1だとしたら、アースドラゴンは平均5000ほどあるらしい。

天敵は同族か魔人種しか存在せず、プライドが高くて孤高の存在。年齢を重ねる毎に魔力と知能が上がっていく頂点捕食者。

そんな存在が何故こんな辺境に。


明らかに過剰戦力だ。いち伯爵領を落とすにはオーバーキルにも程がある。

今まで何度か襲撃はあったが、アースドラゴンまで持ち出してくることはなかった。腕のいい召喚士か魔物使いでも雇えたのだろうか。

...今回は本気だ。完全に殺しにきている。

我が領地もここまでか。包囲さえ崩せれば領民を逃がせれたものを。


ドオォオン!!

次の瞬間外が目を開けていられないほどの光に包まれた。


「な、何だあ!?」


部下が声をあげる。


目の眩みがとけたと同時に城の中であるのに風が吹いた。

私達の居た城の外壁が吹き飛んでいる。


今のは...ドラゴンブレスか!

このジョアンナ城は対魔力レンガで作られていたため、一撃は持ってくれたようだ。だが...


目の前にドラゴンの大きな顔、牙、目が映る。


緊張で喉がカラカラに渇く。

全身から冷や汗が流れ落ちる。

呼吸が止まる。


誰も何も喋れない。

ドラゴンと目があった私たちは、

正に蛇に睨まれたカエルだった。


ドラゴンから放たれる恐ろしいまでの魔力の奔流。

人間では絶対に辿り着くことができない魔力密度。

ただそこに存在するだけで、気が弱いものは意識を手放す。


これほどまでに圧倒的なのに、まだこれより強い竜種が存在するのか。

絶望的過ぎて、そんなくだらないことを考えた、


まさにその時。


その絶望をさらに超えた絶望を体験することになった。

この目の前のアースドラゴンでさえも。




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