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第十六話

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人間は、目の近くに物が近づいたらまばたきをする。

それに近い感覚の条件反射だったと思う。殺意を感じ取った瞬間、反射的に攻撃してしまった。

恐ろしい。恐ろしい程の力だ。この魔人の力は。


金髪ツインテちゃんは目を丸くしてこちらを見ていて、護衛の騎士からはどよめきがあがっていた。そのどよめきは恐怖の色も強いが、どこかほっとしたような雰囲気も感じる。追手に囲まれた絶望的な状況から、事態が好転した時の安心からだろうか。

一方、髭のオッサン戦士長は厳しい顔をしている。オッサンの引き連れているメンバーも、動揺を隠そうともせずに後ずさりしていた。


「...撤退だ。本物の魔人様が相手じゃ仕方ねぇ。」

髭のオッサンが呟く。オッサンのそばにいた男が「撤退ー!」と、大きく叫ぶとオッサンの軍は我先にと逃げ始めた。オッサンの仲間達が撤退する中、オッサンだけがこちらに歩いてきた。


「魔人様。先程は私、部下共々失礼な物言い、行動をしてしまい申し訳ありません。どうか許して見逃してくれませんか。」

髭のオッサンが丁寧な言葉遣いで俺に話かける。


「虫のいい話だ!お前らは何人私達の仲間を殺した!」

俺が答える前に金髪ツインテちゃんの護衛騎士が声をあげる。仲間の恨みは分かるけど、お前何もしてねぇだろ。優勢になった途端調子のんじゃねえ。


「別に逃げてもいいですよ。次にあったら全員殺しますけどね。」

「ありがとうございます。この借りは忘れません。」

心にもないことを答えた。こう言えばもう二度と会わなくてすみそうだったから。

騎士は不満顔だったがこの場の主導権は俺が握っている。渋々といった感じで引き下がった。

正直まだ俺は殺人のショックから立ち直れていないから逃げてくれる方がありがたい。髭のオッサンは馬に跨って最後にこちらを向いて一礼し、去って行った。あのオッサンちゃんと指揮官してるなあ。


この場所には俺と、金髪ツインテちゃん、10人ぐらいの護衛騎士、数人のメイドさんだけになった。


俺が攻撃した場所は、夥しい量の血が飛び散り、首がなくなって倒れている男からは血がまだ流れ出ている。

この惨状を見てもう一度自分が人を殺したことを再認識する。だがやはり()()()()()()

俺が先ほどショックを受けたのは、殺人を犯しても、思ったより何も感じなかったことだ。

確かに少し罪悪感はあるが、蚊などの害虫を殺したぐらいにしか思っていない。原因は転生の際に神様に何かされたか、魔人になって価値観が変わったからのどちらかだろう。


まあ、悩んでも人を害してしまった事実はなくならない。ポジティブになろうポジティブに。人の命が前世より軽そうな世界で適応できるようになったと考えよう、そうしよう。それでも積極的には殺さないようにするけどね。


俺が自分の罪について黙って考えていたからか、金髪ツインテちゃん側は誰もアクションを起こせず、棒立ちだ。

せめて金髪ツインテちゃんの折れた足を手当てしてあげようよ。


「足の治療をした方がいいのではないですか?」

しょうがないからこっちから話題を振ってみる。

時が止まっていたかのように緊張して立っていたメイドが動き出し、金髪ツインテちゃんに駆け寄る。

ツインテちゃんも今更痛みを思い出したのか、顔が歪んだ。


30歳くらいのイケメンの騎士がこちらに近寄ってきた。恐怖で足震えてて、生まれたての子鹿みたいで笑える。まあ俺のせいなんだけども。


「ご助力感謝致します。私はガーデン王国の近衛騎士のカズラと申します。...あの。失礼ですが、あなたは本当に魔人様なのでしょうか?」

「...そうです。たまたま南の村を目指していまして。途中であなた方を見つけた次第です。」

「ほ、本当に魔人様でしたか。南の村に何か目的が?」

「観光...ですかね。」

キャロットちゃんが喜ぶご飯を探しにな!あとこの世界の一般常識を調べに。

でももう行けないかな。村の近くに魔人出現ってなったらみんな逃げちゃうよね。

この人達は助けられたからまだ冷静に話せてられるんだろうけど。


「観光ですか。」

はあ?殺戮の権化の魔人が観光?...みたいな顔してる。信じれんよなー。理由も付け加えておくか。


「ええ。知り合いに美味しいものを食べさせたくて。そのレシピを調べに。」

間違っても人間の常識を調べにとか言わない。なんかコイツ怪しいこと考えてますよ!とか思われそうだもんな。


「...なら妾の国へ来ればいいじゃない。南の村より美味しいものを提供できるわ。」

「ま、マリー様!」

マリーっていうのかこの金髪ツインテちゃん。

護衛の騎士がマリーちゃんの爆弾発言に焦っておられる。


「そしてレシピを教える代わりに妾達を守ってほしい。今、妾達は窮地に立たされているわ!その状況を変えたいの!」

「マリー様!失礼ですぞ!」

藁にもすがる思いなんだろう。必死さが伝わってくる。

すぐに騎士がマリーちゃんを嗜めた。こんな特大爆弾を側に置けるか!とも思ってそう。俺もそう思う。


でもレシピは知りたいな。ただの村より貴族っぽいマリーちゃん家の方が美味しそうなもの食べてそうだし。

だけどデメリット大きすぎでしょう。たかがレシピのために殺人の可能性がある護衛を引き受けるなんて有り得ないッス。

メリットが小さすぎて考えるにも値しませーん。

今回はご縁がなかったということで。超美人のマリーちゃんと別れるのは惜しいけどね。


「すみません、そこまでは助けれな--」

助けれない。と言い切る寸前、マリーちゃんがとんでもないことを言い放った。






「引き受けてくれたら!あなたと結婚してあげる!!」



オッピョーーー---イ!!




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