第十五話
平和ボケした日本人がいきなり殺し合いなんてできるわけがない。
最初は追われている貴族っぽい人達をスルーして南の村へ向かおうと思っていたんだ。
...けど金髪ツインテールの女の子が落馬して泣き出した時には色々理由をつけて飛び出そうとしていた。
まあ俺魔人だし強いらしいし、なんとかなるっしょ。とか、ここで貴族っぽい人に恩を売っておけば後でおいしい思いができる、とかデメリットの方が大きいとわかっていても、自分自身に言い訳をして助けようとしていた。
さてどうやって登場したらいいだろうか。
金髪ツインテちゃん側から攻撃されるのは避けたい。
...そうだ、誰でも知ってる正義の味方だったら攻撃されないんじゃないか?
正義の味方、正義の味方かあ...誰もが知っていて、なおかつ登場シーンにセリフがあるヤツがベターか。
水戸◯門?ダメだ、スケさんカクさんがいない。せめてキャロットちゃんがいればスケさんを任していたのに。カクさんは...北の魔人でいっか。
じゃあ暴れん◯将軍か?キメ台詞は、「この魔人の顔、忘れたとは言わさんぞ。」...か、格好いい...いや待て。今の若い女性に暴れん◯将軍を知ってる奴が何人いる?時代劇から離れた方がいいか。
ナウくてヤングでハイカラな正義の味方....
!!これしかない!
金髪ツインテちゃんも今にも死にそうでピンチだ!ユクゾッ!
慌てて様子を伺っていた場所の草むらから飛び出す!いくぞっ決め台詞!
「愛と正義のサラリーマン中年戦士、バブームーン!
月に変わってOSHIOKIよ!!!」
そう!俺が選んだのは、幼稚園児からおじいちゃんまで誰もが知ってる、セー◯ームーン!
き、決まった...。口上改変も完璧だ。セリフの中に正義って単語が入ってるのも個人的にポイントが高い。ああ、あの人は正義の味方だ!ってなるもんな。
...。
...?おかしいな、場が静まりかえっている。
日本なら歓声を上げながら助けを求めてくる筈なんだが。
...!!しまったここは異世界!日本のサブカルチャーなんぞ知ってる人はいない!
不味いぞ、空気を読み違えた。この状況を打破するにはどうすればいい?
「おいそこのフードのにいちゃん、こっちはあんたのおふざけに付き合ってる暇はねぇんだ。うせな!」
舌打ちと共に剣を抜いた、髭がボーボーのオッサンに怒られた。この場の空気を変えてくれてありがとうございます。
オッサンの言う、フードのにいちゃんってのは俺のことだろう。
このフードはキャロットちゃんに出発前にもらった。もちろん家宝にします。
ガラの悪い髭のオッサン集団は、山賊かな?と思ったけど統一された鎧を着ていた。どっかの国の兵士なんだろうか。
一方金髪ツインテの女の子達の集団は、メイドさんやイケメンの騎士っぽい人達で構成されている。
どう考えても前者が悪人で後者が善人にしか見えない。でも先入観だけで善悪を決めつけてはいけないな。金髪ツインテちゃんが極悪人かもしれないし。
でも一応聞いておこう。
「何やら揉めていられるご様子。双方が争う理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ?なんでテメーにそんなこと言わなきゃいけねえんだ!こっちの事情に首突っ込むなや!」
その通りですぅ...。俺だったらこんな怪しいフードの野郎に説明する前に殺すわ。
「...あいつらの大元がクーデターを起こして、邪魔な私たちは追われているわ。...私達は捕まったらきっと殺される。」
おっ、金髪ツインテちゃんは素直に教えてくれた。ありがたい。
しかしこのツインテちゃん近くで見るとホント美人だ。戦場であっても見とれてしまう。身長150cmぐらいで、北の魔人・レオの、赤みががった金髪とはまた違ったプラチナブロンドの金色。
勝ち気そうに釣り上がった目。落馬して土で汚れていても溢れ出る気品。そしてキャロットちゃんとは真逆の断崖絶壁。
でも大丈夫、俺はどっちでもいける!
「ではこちらの方達に味方します。」
「勝手にしろや。どうせお前ら全員皆殺しだ。俺達のやることはかわんねぇ。仏が一つ増えるだけだ。」
そう言い終える瞬間に髭のオッサンが俺の頭に目がけて、剣で切りかかった。
魔人の動体視力は高い。オッサンの動きがスローに見える。
余裕を持って躱せた。しかし躱した際にフードが取れて顔が出てしまった。
ヤッベ、顔覚えられたら俺も追われるようになるのかも。
「「うっ、うわあああぁあぁあ!!」」「ヒイッ...」
あちこちから悲鳴が上がった。オッサン陣営からも、金髪ツインテちゃん陣営からも。
ど、どしたん?
「ま、魔人...。」
金髪ツインテちゃんから声が漏れる。
は?なんか正体バレとる。ナンデ?ナンデナンデ!?
...あ。人化魔法かけ忘れてる☆ミ
ああああああああ!!やらかしたああぁ!!
せっかくキャロットちゃんから教えてもらったのに無駄にしてしまった。
...バレたからには仕方ない。目的地の南の村への滞在を諦めて、もっと離れた村を探すしかない。
と、とりあえず目の前の問題を片づけてから考えよう。髭モジャオッサングループをどうにかして無力化しないといけない。みんな魔人の登場にビックリして動きが止まってるし、チャンス。
っていうか魔人の顔に驚いて逃げてくれれば助かったんだけどなあ。
ん?髭のオッサンと男が何やら喋っている。
「戦士長、あいつは本当に魔人なんですかね?」
「何だと?」
髭のオッサン戦士長だったのか。戦士長のオッサンと、その部下っぽい、線の細い漢との会話だ。
「浅黒い肌、金色の目なんかの特徴はありやすが、肝心の出会った瞬間に戦闘に入るような凶暴性がみえやせん。
マリー派の変化魔法を使った一芝居の可能性もありやすぜ。」
変化魔法...キャロットちゃんから教えてもらった、人化の魔法の人間版かな?
「そりゃあ俺もそれは考えたが...。」
「俺に任せてくだせぇ。一瞬であのペテン師をあの世に送ってやりますよ。」
「...。」
線の細い男が俺に無造作に自信に満ちた顔で近寄る。
どうしよう。まだ異世界初戦闘の心の準備が整ってないんだけど!
内心慌てていると、線の細い男が俺のすぐ目の前まで近づいていた!
「化けの皮をさっさと剥な。もうバレてんだよそっちのタネ、はっと!」
喋っている途中に剣を上段にして切り込んできた。
さっきの戦士長の攻撃と比べて、殺意が段違いだ。だからだろうか、さっきはスローモーションに見えたのだが、今回はスローに見える代わりに...頭が、アタマがカッと熱くなる。
そして反射的に右拳を握り、相手の顔に向かって突きを放っていた。
相手の顔が弾け飛んだ。
首がない体が行き場を見失って倒れる。
.........。
俺は、俺はこの世界で、初めて殺人を犯してしまった。




