第十四話
第三話にキャロットの挿絵を追加しました。もしかしたら今後デザインを変えるかもしれないので参考程度に。
妾の名前はマリー・ゴールド・フォン・ガーデン。17歳。ガーデン王国を治めるゴールド王家の長女よ。
長女と言っても上に兄が、腹違いを含めて7人。だから王位継承権は第8位の気楽な立場ね!でも継承権は低くても王族は王族だから義務だけは大きい。好きでもない公爵に嫁いで、適当にパーティーに出て、適当に子供を作ってダラダラ生きていくものとばかり思っていたの。
あの日迄は。
3日前に魔人の森で、大きな魔力と魔力のぶつかり合いが起こったわ。十中八九、方角魔人同士の縄張り争いね。
ガーデン王国は魔人の森とは山を隔てているのに大きな魔力の余波が妾の部屋まで届いたわ。国王であるお父様は国民の混乱を避けるために、ダンジョンが発生した可能性があるとか、局地的な魔力爆発とか苦しい説明演説をしていたけどそんな嘘を信じるアホはこの国にはいないわ。
その方角魔人の縄張り争いを危険視して国軍を山の麓に必要以上に配備したのがお父様の失策だった。
軍が王国を発った1日後に第3王子のバージル兄様のアホがクーデターを起こし、第1王子〜第7王子までを各地で暗殺。それだけではなく、敵国である、ルアー帝国の軍まで国内に招き入れ王国を掌握したわ。そして妾は兄様達が死んで、なりたくもないのに王位継承権2位まで繰り上がってしまった。
正直言って、大人しい性格のバージル兄様がこんな大それたことをするとは思えないわね。帝国になにか唆されたのかしら。
まあ起きたものはしょうがないわ。クーデターなり革命なり勝手にすれば?どうせ私のやることは王家のつながりを強固にするために嫁ぐだけよ。結局やることに変わりはないわね。
と、楽に考えていたけど、妾の派閥の貴族が継承権の繰り上がりに喜んで勝手に盛り上がり、バージル兄様に宣戦布告。暗殺された第1王子〜第7王子の派閥を取り込んだものだから、大規模な内戦に発展してしまった。
大義名分もあり、魔人の森から帰還した王国軍と周辺国家の協力、さらに死んだお兄様たちの派閥を吸収した妾の派閥、マリー派閥がやや優勢に見えたのだけど、帝国から派遣された魔法兵が状況をひっくり返してしまった。魔法兵が魔法を使うたびに雷が落ちて、一度に何千人もの王国兵が死んだ...。あんな魔法は聞いたことも見たこともなかったわ。帝国の切り札と見て間違いなさそうね。あんな規模の魔法、使えて1日に1〜2回が限度でしょ?と思ったけど貴重な魔力ポーションをガブ飲みしてるのか、雷を乱発してくる。耐えきれず多数の負傷者をだしてマリー派閥・王国軍は敗走した。
そして王国軍に祭り上げられた妾を亡き者にせんと、第3王子軍の激しい追撃が始まった。強力な雷魔法や、派閥に加わっていた者の王都にいた家族が人質に取られて戦意を削られる。妾の派閥は人質による離反者が続出。瓦解した。
どうにもならなくなった妾は、王都を少人数で秘密裏に脱出したわ。魔人の森の方向の山へ、馬に跨って向かっているというわけ。
...ほんっとーに馬鹿らしい。頼んでもいないのに勝手に担がれて。妾はゆる〜く暮らしたかったのに。この怒りを誰にぶつけるのがいいのよ。クーデターを起こしたバージルお兄様?私の派閥?魔人の森へ出兵したお父様?...は今、行方不明か。
「全員死ねばいいのに。」
「お嬢様。お行儀がわるいですよ。」
「最後ぐらいいいでしょ。どうせもうすぐ死ぬんだから。」
「...」
妾お付きの歳若いメイドが黙る。メイドも理解しているのだ、自分の死期を。
そしてちょっと前から後ろの方が騒がしい。馬の蹄が地面を蹴る音や怒声が聞こえる。
間違いなく追手の第3王子軍だ。
「...ですがまだ可能性はあります。南の魔人の領域に入れば...」
妾達が山を越えて魔人の森に向かっているのには理由がある。南の魔人の縄張りに入っても魔人が襲ってこないというウワサがあって、そこに一旦逃げ込もうっていう、くだらない作戦。街道を抑えられてそれしか選択肢がなかったのもあるわね。
...確かに南の魔人の領域に入れば第3王子軍は追っては来れなくなると思う。方角魔人に喧嘩を売って滅んでない国はないわ。でも南の魔人が襲ってこないっていうのは、あくまでウワサ。攻撃してくる可能性の方が高いのよ?
そんな不確かなウワサに頼らざるを得ないほど私達は追い詰められている。追手に追いつかれる可能性と南の魔人に襲われる可能性、どっちが高いのかしら。
そうくだらないことを考えていたせいか、夜なのもあり、目の前に迫った木の幹に気づけなかった。
「うっ!....」
しまった!と思った時にはもう遅く、避けきれずに木の幹に頭を打つ。そして落馬してしまった。
「「お嬢様!」」
焦る護衛の騎士とメイドの声。
幸いにも妾は背の低い木の上に投げ出されたので命に別状はなかった。けど...右足に違和感がある...
曲がってはいけない方向へ曲がっている...
...。
.........。
...............終わった。
絶望が心を覆う。
こちらへ引き返してきた護衛の騎士が剣を抜く。
追手が追いついてしまった...。
こちらの護衛の数が世話役の2人のメイドを含めて10人。
追手は少なく見積もっても4、50人。奇跡が起きないかぎり勝つ見込みはない。
楽に死ねればいいが、妾を含めお付きのメイドも見てくれがいい。散々嬲られてから殺される。それをリアルに想像してしまい、涙と鼻水がみっともなく流れ出る。
今まで弱みを見せて来なかったからだろうか。しゃっくりをあげて泣いている妾に、護衛の騎士やメイドがハッとした顔でこちらを向いた後で、悲痛そうな顔で武器を固く握り締めた。
...いっそのこと自刃してしまおうかしら?
思えば妾はいつも斜めに構えて生きてきた。
今回の戦争も、最後は今思ったように潔く死ねばいいと斜めに構えていた。
でも。やっぱりホントは死にたくない。真に死にたいと思ってる人間なんかいない。
本当は、本当は、物語のような王子様と恋愛したかった。
手を繋いで一緒にデートをして笑い合ってみたかった。
そして結婚して、子供を産んで、一緒に名前を決めたかった。
後悔。...後悔しかない人生だったな。
もういっか。最後にちょっとぐらい素直になっても。
派閥に祭り上げられた時からずっと言いたかった言葉。
それも恥も外聞もなく泣きながら叫んだ。
「誰か!!誰でもいいから誰か助けて!!」
「愛と正義のサラリーマン中年戦士、バブームーン!
月に変わって血祭りよ!」
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