チャリティ・ショーの準備
学業に専念するために引退を宣言したアリだが、春先に企画したショーのために、勉学の合間を縫って、練習を重ねていた。
私は、私の時間の使える限りを、アリのサポートに振り向けた。
ラウルは、着々と、チャリティーショーの企画を軌道に乗せていた。企画を持ち込み、スポンサーを見つけては、援助をとりつけてくる手腕に、私は、彼は有能な経営者になれる、と、つくづく思ったものだ。
アリの活動の支援グループも、積極的に動いていた。
そんな中、イスラエル在住の、例の知人から、エステルが禁固刑を申し渡されたと、連絡が来た。
その話を伝えると、アリの顔色が青ざめた。
「禁固刑ですって?」
「大丈夫だ。春にはスウェーデンに来られるよ。ほんの短期間だから」
私がそう言うと、アリは束の間、ほっとした表情を見せ、それから、怒りをあらわにして、吐き捨てた。
「徴兵拒否への、露骨な嫌がらせだ」
愛国者を公言するエステルが、禁固を申し渡されたとしても、決して逆らわないだろうことまで、きっちり計算に入れてやったに違いない、と、アリは忌々しそうに顔をゆがめて、言った。
「だが、抗議をすれば、次に出国しようとする時に、もっと面倒なことになると、彼女は考えたんだろう」
私の言葉に、そうでしょうけれど、と、アリは、まだ不服そうな顔のまま、言った。
「それにしたって、不愉快な話ですよ」
「そんな理不尽な国でも、彼女は愛しているんだ」
悔しそうな顔のままのアリに、私はさらに言った。
「そして、もっと良い国にするために、行動しようと、そう考えているんだ」
そう言うと、アリは、わかっています、と、それでもやっぱり、悔しそうな、悲しそうな顔で答えた。
しばらくして、エステルが解放された、というニュースが、私の元にもたらされた。
私がそのことを伝えると、ラウルが呟いた。
「念には念を入れておこう」
どういう意味だろう、と、私は首を傾げた。
アリが説明してくれた。
「彼女が無事に来られるように、スウェーデン政府に正式に声明を出してくれるよう、頼むんです」
今度は絶対に、二人で滑りたいから、と。
無事に出国できそうだ、という連絡が、エステルから届いた時、アリは心底、ほっとしたような顔をした。
冬になり、スケート大会が次々と開幕した。
私たちは、リンクで、あるいはテレビで試合を観戦し、春のショーに参加を表明してくれた皆を、心から応援した。それは、実に様々な国籍の顔ぶれだった。
ラウルは、リンク側とすでに話を付け、さらに、各選手や、そのマネージャーなどを通して、ショーの構成についても、細部までを詰めていった。スタッフの配分など、裏方の細かい部分や、もちろん、警備のことについても、彼は慎重に事を進めていた。
アリとエステルは、プログラム構成について、メールで打ち合わせを重ねていた。
春分が過ぎ、日が長くなり始める頃、エステルは、ついにスウェーデンにやって来た。もちろん、アリは彼女を、空港まで迎えに行った。
エステルの時差の調整が終わると、二人はすぐに、合同で練習に入った。
曲は、二人が金メダルを取ったときと同じチームが、新しく作曲したものだ。
今まで一度も一緒に滑ったことがなかった、とは思えないほど、二人の息はぴったりだった。
本番の日が、近づいてきていた。
女子には禁固まではなかった気がするんですけども。




