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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十五章《崩壊の継承》

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第96話《赤黒き祈念》

「兄さぁぁぁん!!」


イエルの絶叫が広間に響いた。


ノエルの口元から血が伝う。


「ラグス……これで満足か……」


掠れた声。


だがラグスは冷ややかな笑みを崩さない。


「ノエル様。先ほど、あなたに叱られましたね。前置きは置かず……さっさと死んでもらいましょう」


剣を振りかぶり、刃が振り下ろされようとした、その瞬間。


「ゴラァ!!」


怒号が炸裂した。

横合いから滑り込んだオルガが、ラグスの刃を叩き弾く。


そのまま体ごとぶつかり、衝撃がラグスを押し飛ばした。

ラグスは床を滑りながらも即座に体勢を立て直し、剣を構える。


対するオルガも、その燃えるような瞳で睨み返した。


「ラグス……オレは人を斬れるミデアだ」


低く唸るような声。


「なぜかオレは怒りを知っている。祈念核が、お前を殺せと叫んでやがる」


ラグスの口元が歪む。


「はい。あなたの祈念波……今なら私にもわかります」


その瞳が細められる。


「あなたは――邪悪です。オルガ」


その言葉と同時に、オルガの剣から赤黒い祈念波が噴き上がった。

それは刃から腕へ、全身へと燃え広がり、広間一帯を呑み込んでいく。


空気そのものが軋む。

赤黒い祈念波が広間を侵食し、石床すら震えていた。


その隙にマリアスがノエルを抱き起こし、イエルのもとへ運ぶ。

ふと、広間奥の扉に目が留まる。


「イエル! ノエルを連れてあの扉まで行け! 私とヨウルで援護する!」


「すまない、マリアス!」


イエルはノエルを肩に抱え、扉へ走る。


迫るユニットを、マリアスは斬り伏せる。

ヨウルは牙で噛み砕く。

二人が道を切り開く。


マリアスは先回りして扉を開いた。


中は中規模の会議室だった。

イエルがそこへ飛び込む。


「イエル、君の移動ユニットを呼べ! 塔を脱出してカイたちと合流しろ!」


マリアスが叫ぶ。

言い終えるや否や、マリアスは扉を閉ざした。


赤黒い祈念波と、ラグスの黒き擬似祈念が激しくぶつかり合い、広間一帯はまるで地獄の業火に包まれたようだった。


熱ではない。

怒りと殺意そのものが、空間を燃やしている。


剣と剣が激突するたび、火花が散り、衝撃が石床を震わせる。


オルガとラグス。

二つの異質な闘気が正面から噛み合い、広間そのものが戦場へ変わっていた。


激しい斬撃の応酬の中、ラグスが低く笑う。


「オルガ、あなたには信仰がないようですね。本当に私を殺しにきている。珍しい……いえ、こんな祈念種は初めてです」


その言葉に、オルガは剣を打ち込みながら吐き捨てる。


「オレは根本から違った」


重い斬撃を撃ち込み、さらに踏み込む。


「ミデアとして生き、この国の不条理にはいつも腹が立ってた。特にオレの祈念核がどす黒く疼くのは――大切なものを奪われるときだ」


その一撃に、ラグスが後方へ跳び、剣で受け流しながら間合いを取る。


黒い機構から火花が散った。

ラグスは愉しむように口元を歪める。


「私も同じですよ。奪われることは大っ嫌いです」


静かに剣を構え直し、黒い祈念が機構に脈動し始める。


「ですが――それ以上に、奪うことは実に心が躍る」


そう言った次の瞬間、ラグスの姿がぶれた。

消えたように見えたのは一瞬。

黒い残光だけを残し、ラグスはすでに懐へ踏み込んでいた。


「――ッ!」


オルガは咄嗟に剣で受けるが、衝撃で数歩押し返される。

石床が削れた。


ラグスは笑っている。


「どうしました、オルガ」


さらに追撃。

機構化した右腕から黒い祈念が噴き上がり、暴風のような斬撃が降り注ぐ。


オルガは受けながら歯を食いしばる。


「――速ぇ……!」


「あなたは強い。ですが私に及ばぬものがある。経験と策略。そして殺した数。怒りに任せて剣を振り回したとて、そんな力技は私には通じませぬ」 


そのとき、戦闘の余波を避けていたはずの護衛ユニット数機が、横合いから一斉にオルガへ襲いかかった。


「チッ……邪魔だ」


オルガの眼が鋭くなる。

振り向きざま、剣を後方へ一閃。

赤黒い祈念波を纏った斬撃が扇状に走り、ユニット群をまとめて断ち切った。


火花を散らし爆ぜるユニット。

残骸が床を転がる。


その一振りは、まるで背後に目があるかのような精度だった。

だが、次の瞬間。

ラグスの剣先が、オルガの喉元へ触れていた。

あと一寸、踏み込めば貫かれる距離。


「そして勝つためには手段を問わない」


オルガの額を汗が伝う。


さらに敵ユニットが続々とオルガの背後に集まり始める。


「くっ……いったいどんだけいるんだ……」


「オルガ。終わりです。あなたと剣を交えて何か近しいものを感じました。殺すのは惜しいですが……」


次の瞬間、オルガは素早く屈み低い体勢のままラグスの足に剣を振る。


ラグスは素早く剣を振り下ろし、それを弾く。


オルガは転がるように距離を取る。


「ラグス。お前はさっきノエルに言われたことをもう忘れたようだな。仕留めるときに仕留めなきゃ、獲物は取り逃がすぞ……学習しろ、ラグス」


「確かに。少し喋りすぎました。だがオルガ。状況は何も変わってはいませんよ」


再びユニット群がオルガに襲いかかる。

それと同時にラグスも間合いを素早く詰めてきた。


「両方は無理だ……ならばラグス、刺し違えてでもお前を殺す!」


しかしラグスはオルガの一撃を受け止めた。

次の瞬間、オルガの脚に激痛が走る。

敵ユニットの前脚がオルガの太ももを貫通していた。


「クソ……」


「では、次こそは仕留めましょう」


立ち上がれぬオルガへ、ラグスの剣が容赦なく振り下ろされる。


その刃が届く寸前――疾風が駆け抜けた。

ラグスの姿が視界から掻き消える。

鈍い衝撃音。

次の瞬間、床へ叩きつけられていたのはラグスだった。

その機構化された右腕に喰らいつき、牙を剥いて激しく唸っている白銀の影。


「……ヨウル!」


オルガが目を見開く。


ヨウルは喉を震わせ、ラグスを逃がすまいとさらに噛み締める。


「貴様……獣風情が!」


ラグスが振り払おうとした、その時。

オルガの背後で連続する斬撃音が鳴り響いた。

鋼が裂け、ユニットが砕ける音。


「すまない。遅くなったオルガ。今ので最後の一機だ」


マリアスの目の前で最後の四脚が煙を上げ崩れ落ちた。

マリアスは砕けたユニットの破片を払うように刃を構え、オルガの隣に並ぶ。


その時だった。

唸りを上げたラグスの剣が、不意に黒い軌跡を描く。


「ヨウル、避けろ!」


マリアスの叫びより早く、刃が閃いた。


白銀の身体が跳ねる。

ヨウルの前脚が深く裂かれ、血の飛沫を散らして石床へ転がった。


キャンッ――

 

鋭い悲鳴が広間に走った。

ヨウルはなお牙を剥くが、傷ついた前脚が震えている。


オルガの表情が変わる。


「てめぇ……!」


ラグスは血を払うように剣を傾け、薄く笑った。


「守るものが増えるほど、戦いは鈍る」


広間の空気がさらに冷えた。

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