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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十五章《崩壊の継承》

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第95話《謀反の剣》

一階層の広間では、イエルとノエルがラグスを挟むように剣を構え、張り詰めた睨み合いが続いていた。


長い卓は、もはや対話の場ではなかった。

そこに漂うのは和解の余地ではなく、裁きが下される直前の冷えた沈黙だった。


先に口を開いたのはノエルだった。


「イエル、退がれ」


低く、揺るぎのない声。


「でも……兄さん!」


食い下がる弟を、ノエルは見ようとしなかった。


その眼差しには、兄としての情ではなく、国を背負う者だけが持つ厳しさが宿っている。


「ラグス。これまでの話に相違はないか。お前は父を殺し、お祖父様を殺し、尚且つイエルとオレまでも殺そうとした」


問われたラグスは、微笑みさえ崩さなかった。


「はい、間違いございません」


あまりにも静かな肯定に、空気そのものが軋んだように思えた。


ノエルはさらに問う。


「そしてこの状況も全て……お前が仕組んだことなのだな」


「左様でございます。予定よりはかなり早まりましたが……いずれはノエル様のお命もいただく予定でございました」


そこまで聞いたとき、ノエルの迷いは消えた。


「そうか……ならば、この国の最高指導者として、お前を裁かねばならぬ」


剣を構える。

切っ先が、真っ直ぐラグスを射抜く。


「ラグス……お前は、死ね」


床を蹴る音が弾けた。

ノエルの身体が一気に間合いを詰める。

鋭い斬撃が光を裂いた。

常人なら反応すら許されぬ速度だった。

 

だが、ラグスはそれを受け止めると、わずか一太刀でノエルを押し返した。


衝撃にノエルの体勢が崩れる。


しかし床に落ちるより先に身を反転させ、着地と同時に再び剣を構え直した。


ラグスの口元が愉快そうに歪む。


「ノエル様、見事でございます。……が」


その時だった。

広間を覆っていた祈念波遮断の電磁波が、不意に途切れた。


空気が変わる。

肌にまとわりついていた圧迫感が剥がれ、代わりに別種の不穏が流れ込む。


オルガが眉をひそめた。


「どういうことだ。ここにはオレたち祈念種がいる。ラグス、お前、不利になるぞ」


剣先を向ける。


だがラグスは静かに首を振った。


「いいえ、逆です」


直後、機構化された右腕と両脚が黒い波動に包まれた。

砕けた祈念核が埋め込まれた部位が、不気味な脈動を始める。


マリアスが息を呑む。


「祈念波か!?」


「いいえ」


ラグスは愉しむように答えた。


「祈念波の模倣……と言いましょうか」


禍々しい波動を見た瞬間、オルガの表情が変わった。


「貴様……その祈念核はどうした」


「これはリゼルのものと、あとはその辺のたくましいオリジンを殺して頂きました」


その言葉で、オルガの中の何かが断ち切れた。


「ラグスーー!」


怒号とともに剣を振り上げ、飛びかかる。


その瞬間だった。


轟音とともに、横合いから飛び込んだ巨大な質量が、オルガをまともに弾き飛ばした。

床を滑る身体。


広間に監視として配されていた中型ユニット群が、牙を剥いていた。


「――兄さん!」


カイが駆け寄る。


オルガは舌打ちしながら立ち上がる。


「大丈夫だ。少し油断した」


ラグスは感心したように呟く。


「興味はありましたが……実に便利ですな、祈念波とは。都市の祈念波脱却を目指しておりましたが……なかなか抜け出せない理由も理解しました」


広間の出入口には、いつの間にか無数のユニットが流れ込んでいた。

金属の脚が石床を打つ音が重なり、退路は静かに塞がれていく。


ルミエル側の要人のひとりが青ざめる。


「ラグス殿、これはどういうことですかな、話が――」


最後まで言わせなかった。

ユニットの前脚が、その胸を貫いていた。

男の身体が崩れ落ちる。


それを合図にしたように、秩序は一気に崩壊した。

刃が閃き、要人たちが次々と倒れていく。

白い石床を赤が走り、断末魔が高い天井に跳ね返る。


マリアスが息を呑む。


「なんてことを……」


ナギは目を伏せ、小さな肩を震わせた。


広間は、もはや完全に戦場と化していた。


ルカとユニット群が激しくぶつかり合い、金属同士の衝突が火花を散らす。

甲高い破砕音が空間に跳ね、白い石床に残骸が転がっていく。


オルガも剣を振るい、迫るユニットを次々と薙ぎ倒していた。

だが数が違う。

一機を断てば二機が迫り、押し返しても波のように次が押し寄せる。


ヨウルは低く唸り、地を転がるように駆けた。


跳ねるように敵へ食らいつき、マリアスを守る盾となる。

白銀の毛並みが閃き、その牙が機構を噛み砕くたび、火花が弾けた。


その中で、マリアスが叫ぶ。


「カイ! ナギを連れて塔を出ろ! ルカ、退路を開き二人を守れ!」


「アイ!」


「ソルフェ! 来い!」


マリアスの呼び声に応えるように、塔の開口部から白金の翼が飛び込んだ。

ソルフェは低空で戦場を駆け抜け、マリアスの前へ滑り込むように着地する。


マリアスは間髪入れずナギをその背に乗せた。


戦闘の最中にいたカイも、息を切らしながらナギのもとへ駆け寄り、マリアスに背を預けた。


「マリアス、この数は抑えきれない……どうすれば」


マリアスは剣を構えたまま振り返らない。


「カイ、お前は使命を果たせ。ナギを守るんだ。ここは私たちで抑える」


「……でも」


ためらいかけた、その瞬間。

一機のユニットがマリアスへ跳びかかる。

だが銀の刃が一閃した。

機体は真っ二つに裂け、火花を散らして崩れ落ちる。


「行け!」


その一喝は、命令であり祈りでもあった。


カイは唇を噛みしめる。


「……わかった。必ず、みんなで帰ってきて。ルカ、頼む!」


「任セテ!」


ルカのレンズが七色に発光した。

次の瞬間、眩い閃光が奔り、出口を塞ぐユニット群を薙ぎ払う。

爆ぜる光の裂け目。


マリアスが叫ぶ。


「今だ!」


カイはソルフェへ飛び乗る。

ルカを先導に、ソルフェは砲火と剣戟の渦を縫うように滑り抜け、広間を脱した。

背後では、なお戦いの轟きが追っていた。


その只中で、ノエルもまたラグスと激しく剣を打ち合わせていた。

刃と刃がぶつかるたび火花が散る。

だが、機構化された身体に祈念を纏うラグスは、あまりにも強い。

ノエルは攻めに転じる隙すら得られず、押し込まれるように防戦を強いられていた。

受ける、捌く、退く。

そのたび、ラグスの剣圧がじわじわとノエルを追い詰めていく。


そのすぐ後方では、イエルがノエルの背を守るようにユニット群と斬り結んでいた。

剣を振るうたび金属火花が散る。

だが、生身のネオスであるイエルの体力は確実に削られていく。

呼吸は荒くなり、腕は重い。

一機を退けても、次が迫る。


波のような攻勢に押され、ついに隙が生まれた。

息を切らしたイエルへ、二機のユニットが同時に飛びかかる。


「くそ、防ぎきれない……!」


その瞬間だった。


白銀の閃き。


片翼を広げたマリアスが戦場を切り裂くように飛び込み、そのまま一閃。

二機のユニットは断ち切られ、火花を噴きながらイエルの足元へ崩れ落ちた。


「イエル、ここは一旦引け!」


マリアスが叫ぶ。


「でも兄さんが!」


イエルが反射的にノエルの方を振り向く。


その瞬間。


世界が止まったように見えた。


ラグスの剣が、ノエルの腹を深く貫いていた。

刃が引き抜かれる。

赤が弧を描く。


ノエルの身体が揺らぐ。


信じられないものを見るように、イエルの瞳が見開かれた。


そしてノエルは、膝からゆっくりと崩れ落ちた。

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