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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十五章《崩壊の継承》

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第92話《神域への歩み》

宮殿を出発し、街を抜け、森を越え――

マリアスたちは西側の国境へと辿り着いた。


そこに広がっていたのは、荒野。

そして――無数の残骸だった。


敵味方のユニットが、区別もつかぬほどに折り重なり、あちこちに散らばっている。

焼け焦げた装甲と、砕けた機構。

戦いの爪痕が、まだ生々しく残っていた。


マリアスはその光景を、静かに見据える。


「……オルガ。ここでの戦いは、これほどだったのだな」


オルガが低く応じる。


「あぁ。何百って数のユニットが、国境を越えて雪崩れ込んできやがった」


その声には、わずかな苛立ちと現実を知る重さが混じっている。


ルカが小さく胸を張る。


「ルカモ、戦ッタ」


オルガがふっと口元を緩めた。


「そうだな。ルカがいなきゃ、こっちがヤバかった。ありがとな、ルカ」


「アイ!」


短い返事が、妙に頼もしく響く。


一行は残骸を跨ぎながら、ゆっくりと歩を進める。

踏みしめるたびに、かつての戦いの名残が足元で軋んだ。


やがて――


視界の先に、整然と並ぶ影が現れる。


ルミエルの大型国境警備ユニット。

そして、その後方には、黒光りする中型の警備ユニットが十機。

無言のまま、こちらを待ち構えていた。


イエルがその光景を見据え、静かに口を開く。


「……彼らが案内役だな」


黒光りする中型ユニットが、音もなく左右に分かれる。

そのまま一行を囲うように陣形を組み、無言のまま前進を始めた。

ついてこい、とでも言うように走り出す。

遅れをとらぬよう、マリアスたちも速度を上げた。


オルガの手が、反射的に剣の柄へとかかる。


だが――


「オルガ」


マリアスが軽く手を上げ、それを制した。


「大丈夫だ。イエルも“人質”という形でここにいる。それに……アネシアを止められる可能性があるのは、私たちだけだ。向こうも、それは理解しているはずだ」


オルガは警戒しつつも静かに応じる。


「……そうだな」


オルガはゆっくりと柄から手を離した。


「それに……」


マリアスの視線が、さらに後方へと向けられる。


そこには、国境警戒用の大型ユニットが四機。

まるで中型ユニットを監視するかのように、一定の距離を保って追従していた。


「……私たちを守っている。ルミエルの女神――エリカが」


その名を聞いた瞬間、オルガの視線が空へと上がる。


「エリカ……オレのために……」


こぼれるように言葉が落ち、同時に涙が頬を伝った。


マリアスが横目でそれを見る。


「オルガ……お前は……」


一瞬、言葉を飲み込み――


「……まぁいい。お前のためにも、エリカは必ず救い出す。その後どうなるかは……知らんがな」


ナギが首を傾げる。


「オルガとエリカは、結婚するの?」


マリアスは小さく息をついた。


「オルガが勝手に言っているだけだ」


「ちょっ――」


抗議しかけたオルガの声は、途中でかき消えた。


そのとき、ルカが不思議そうに周囲を見回す。


「デモ……オカシイ。ルカ、エリカト同期シテイルノニ……国境越エテモ、エリカノ祈念波ヲ感ジナイ」


イエルが即座に反応する。


「……恐らく、この中型ユニットだ。今、僕たちを囲うように隊列を組んでいる。祈念波を遮断する電磁波を発しているんだろう」


カイも頷きながら口を開く。


「そうだ。俺が都市にいた頃、指令用に使っていた通信機は使えるのか?」


ポケットから小型の通信機を取り出す。


「ただ……エリカ側から接続してこない限り、こちらからはコンタクトできない」


軽く操作し、顔をしかめた。


「……やっぱりダメだ。完全に遮断されてる」


マリアスは小さく頷く。


「なるほどな。向こうも警戒は怠っていない……ということか」


その言葉の裏には、わずかな緊張が滲んでいた。


隊列はそのまま、無言のまま進み続ける。

囲まれながら導かれるように、彼らはルミエルの奥へと足を踏み入れていった。


やがて、一行は都市の外殻へと辿り着いた。


それまで走行していたユニットたちは動きを緩め、速度を落とす。

やがて歩みへと変わり、そのまま中央へと進み始めた。


背後では、護衛していた大型ユニットが静かに停止する。

まるで見送るように、無言のままその場に佇んでいた。


都市外殻には、多くの祈念種たちが並んでいた。

労働に従事させられているのだろう。

その瞳には、かつてあったはずの輝きがない。


彼らは一行へと視線を向ける。

だが、それが誰であるのかを認識している様子はなかった。


マリアスが、そっと口を開く。


「……すまない、同胞たち」


かすかな声。


「長く待たせてしまった。本当は今すぐ祈念を届けたい。だが……遮られている。もう少しだけ、待っていてくれ……必ず、届く」


その言葉は、静かに地へと落ちる。

それでも一行は、歩みを止めない。


視線の先――

遠くに、祈りの塔が聳えている。

白く、神々しく、すべてを見下ろすように。


ナギがマリアスに振り向き声を上げた。


「祈りの塔……!」


瞳が輝く。


「マリー様に、祈らなきゃ」


リュックから聖記書を取り出し、胸に抱きしめる。

そのまま静かに目を閉じ、両手を重ねた。


マリアスが、わずかに微笑む。


「ナギは本当に――」


言いかけた、その瞬間だった。


ふわりと温かな祈念波が、ナギの小さな身体から溢れ出す。

それは遮断されていたはずの空間をすり抜けた。

まるで、壁そのものが存在しないかのように。


「……!」


マリアスの視線が、周囲へと向く。


気配が変わっていた。

先ほどまで虚ろだった祈念種たちの視線が、すべて一斉にこちらへと向けられた。


オリジンたちは祈念核を淡く灯し、ミデアたちは、祈るように手を合わせていた。


そして、わずかに微笑んでいる。


「……ナギ」


マリアスの声が、静かに震える。


「君は……すごいな。皆が受け取ってくれた。私たちの祈りを……」


その瞳に確かな光が宿り、ゆっくりと、ナギを見つめる。


「ありがとう、ナギ」


マリアスはナギの小さな身体を、そっと後ろから抱きしめた。

その温もりは、確かにここに在るものだった。


ナギは振り返り、小さく笑う。


「みんな、ちゃんと聞いてくれてるよ」


その言葉に、マリアスは静かに頷いた。


やがて一行は都市部へと足を踏み入れる。

整然と並ぶ建造物。

磨き上げられた街路。

外殻とはまるで別世界だった。


だが、向けられる視線は明らかに違っていた。

冷たく、拒絶と警戒を隠そうともしないネオスたちの目。

 

「……歓迎、って感じじゃねぇな」


オルガが低く呟く。


それに応じるように、周囲の警備ユニットの数が増えていく。

左右、前後。

隙間なく囲い込むように。


「完全に監視されてるね」


カイが小声で言う。


イエルは前を見据えたまま、静かに答えた。


「これが……ルミエルだ」


やがて、視界が開ける。


その先に、祈りの塔が圧倒的な存在感でそびえ立っていた。

白く輝くその巨塔の麓。

広間の入口に、数人の人影が見える。


中央に立つのは、ノエル。

その傍らには、車椅子に座るラグス。

そして数名の要人たちが控えていた。


一行の歩みが、自然と止まる。


静寂が落ちる中、先に口を開いたのはノエルだった。


「……よく来たな、マリアス」


その声は低く、だが確かに届く。


マリアスは一歩前に出る。


「久しぶりだな、ノエル」


その言葉に、わずかな緊張が空気を震わせた。


ラグスが、ゆっくりと口元を歪める。


「これはこれは……随分と大勢でのお越しですね」


その声音は穏やかだが、どこか底知れぬものを含んでいた。


オルガの手が、再び剣の柄に触れる。


その一触即発の空気の中でも、ナギだけはまっすぐに塔を見つめていた。

まるで、そこに誰かを感じているかのように。

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