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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十四章《祈りのあわいに》

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第90話《祈りの行方》

再びアストレアへ書簡が届いたのは、あれから一週間後だった。

差出人は――ラグス。

前回のようなホログラムではなく、達筆な文字で綴られた書簡を、伝達ユニットが静かに運んできた。


マリアスは皆を集め、テーブルの上にそれを広げる。


「今回はラグスからだ。……やはり奴は生きていた」


その名が発せられた瞬間、イエルの眉間がわずかに歪む。


「マリアス……何が書いてある」


低く押し出すような声。


マリアスは一度、書簡へと視線を落とした。


「今から読み上げる。……皆、席に着いてくれ」


促されるままに、全員が静かに腰を下ろす。


紙の擦れる音だけが、静かに残った。

マリアスはゆっくりと息を整え、書簡を読み始める。


「アストレアを統べる者へ。


先日の第七区の件、まずは失礼いたしました。

もっとも、貴殿らが我が国へ侵入したことに対する対応に過ぎませんので、そこはご理解くださいませ。

その結果、私も少々大きな損傷を負うこととなりましたが――

それもまた、結果の一部でしょう。


さて、本題です。

一週間後、ノエル様が対話の場を設けられます。

場所は祈りの塔第一層広間。

アネシアとの対話については、その後ノエル様の判断に委ねられます。


また、貴殿らの要望についてですが今回に限り、同行者全員の入国を許可します。

当日は西側国境へ警備ユニットを向かわせます。

指示に従い、そのまま入国してください。


最後に。

イエル様の身柄は、無事な状態で引き渡していただきます。

余計なことをする必要はありません。


以上です。


ルミエル中央統制官 ラグス」


読み終えた瞬間、部屋の空気が重く沈んだ。


イエルが低く吐き捨てる。


「ラグス……僕をも殺そうとしたくせに」


その声には、怒りと、わずかな苦さが混じっていた。


オルガが腕を組み、静かに口を開く。


「だからこそ、オレがお前を守る。……それにしても、話が通りすぎてるな。ラグスのことだ、何か企んでる可能性は高い。罠はあると思って動いた方がいい」


マリアスはわずかに頷いた。


「あぁ。だが――ノエルは理解しているはずだ。私たちよりも、都市の脅威がアネシアにあることを。そして、それを止められる可能性があるのが……私たちしかいないということも」


その言葉に、わずかな沈黙が落ちる。


カイが静かに口を開いた。


「……やっぱり、ナギも連れて行くんだよね」


マリアスは迷いなく頷く。

そして、まっすぐカイを見る。


「そうだ。アネシアとの対話に、ナギは必要だ。カイ、君は全力でナギを守れ」


「もちろん。命に代えてでもナギを守る。それがオレの使命だ」


その瞳に、迷いは一切ない。


マリアスは小さく頷き、次にルカとヨウルへと視線を向ける。


「ルカ、ヨウル。君たちもナギを守ることに全力を尽くしてくれ。何かあれば、カイを助けるんだ」


「アイ!」


ルカが元気よく応じる。


ヨウルもまた低く唸り、ナギへと身体を寄せた。

理解しているかのように、その頬をそっと擦りつける。


ナギはまだすべてを理解しているわけではない。

それでも、ヨウルの頭を優しく撫で、そのまま抱きしめた。

その腕の中には、まだ形にならない想いが宿り始めていた。


マリアスは静かに立ち上がった。

その視線は、宮殿の外。

遥か都市の方角へと向けられている。


「……この件は、国民にも伝える」


その一言で、空気が引き締まる。


カイが息を呑む。


「公にするの……?」


マリアスは迷いなく頷いた。


「あぁ。これはもう、一部の判断で進めていい話ではない。我々は――この国の祈りを背負っている」


ゆっくりと言葉を紡ぐ。

静かだが、確かな重みを持った声だった。


「アネシアは、この世界そのものを揺るがす存在だ。ならば、我々が何を選び、どこへ向かうのか……民にも知る権利がある」


オルガが腕を組んだまま、低く唸る。


「つまり……覚悟を問うってわけか」


「そうだ」


短く肯定する。


「これは戦いではない。祈りを守るための対話だ。だが――命を懸けることに変わりはない。もし私に何かあれば……君たちは、何があってもこの国に戻れ。そして、この国を守るんだ」


その言葉に、空気が凍りつく。

カイが思わず声を荒げた。

 

「ちょっと……マリアス! 何を言ってるんだ」


ナギの不安げな瞳が揺れる。

 

「マリアス、どういうこと? 平和のお話だよね?」


マリアスはそっと手を伸ばし、ナギの頬に触れた。


「そうだ、ナギ」


柔らかな声。


「その先の未来を……君たちが紡ぐんだ」


オルガが一歩踏み出す。


「待て、マリアス。覚悟はわかった。だが、なんでも一人で背負い込むな。心配するな――オレが全員守る。そしてエリカも、必ず救い出す」


その言葉に、イエルも静かに続いた。


「そうだ、マリアス。僕たちは仲間だ。だから、全員で行くんだ。そして……僕が必ずルミエルを立て直す。きっと兄さんだって……わかってくれる」


オルガが腕を組み、ふっと息を吐く。


「とにかくだ、全員で帰る。それで……そのあと、オレとエリカの式もあるしな」


「式?」


カイが首を傾げる。


「兄さん、式ってなに?」


オルガの顔がわずかに強張る。


「け……結婚式だ」


「結婚式!」


ナギがぱっと頬を押さえ、目を輝かせる。


その無垢な反応に、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。


マリアスが小さく笑う。


「オルガ……お前は、エリカの気持ちを置き去りにしているな」


「そ……そんなことはないぞ、きっとエリカだって……」


照れ隠しのように顔を背けるオルガ。


その様子に、皆が小さく笑った。

重く沈んでいた空気が、少しずつほどけていく。


マリアスは、ゆっくりと皆を見渡した。


「……そうだな。ありがとう、みんな」


その声は、先ほどよりもずっと穏やかだった。


「皆がいれば、必ず帰れる。取り戻そう。民が、穏やかに祈れる国を」


カイが勢いよく立ち上がった。


「よし! 大丈夫さ。今度は、必ずうまくいく!」


その声に、空気がわずかに軽くなる。


イエルが静かに続く。


「そうだ。怒りではなく、赦しを……」


一度、言葉を噛みしめる。


「僕も、まだ割り切れてはいない。だが――争いは、仲間さえも傷つけると知った。この対話に賭けよう」


その言葉に、皆の表情がわずかに引き締まる。


しかし、その輪の外でオルガだけは一歩引いたまま、静かに状況を見据えていた。


――いくらこちらが対話の姿勢で臨んだところで、相手が殴りかかってくるなら話は別だ。これ以上、仲間を傷つけるような真似をしてきたら……ノエルとて容赦はしねぇ。そのときは、躊躇なく剣を抜く。


視線をわずかに落とす。


――覚悟はしておけよ、マリアス。


オルガは誰にも気づかれぬまま、静かに決意を固めた。


マリアスが一歩前に出る。


「準備を進める。出発の朝、広場で演説を行う」


その声は、穏やかでありながら揺るがない。


「各自、支度を整えてくれ」


一瞬の静寂のあと――皆が確かめ合うように視線を重ねる。


「おう!」

「了解!」


明るい返事が、重なる。


その響きは決意と不安が入り混じりながらも、確かに前へ進もうとする声だった。


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