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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十三章《祈りの臨界》

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第83話《神の一閃》

マリアスは呼吸を整え、イエルへと静かに声を向けた。


「イエル、ここは一旦引け。ルシエの祈りを思い出せ……憎しみではなく、赦しで終わるようにと。今ここでお前が死ねば、孤児院の子たちはどうなる。まだ平和を願うルミエルの民の想いは、誰が繋ぐ」


イエルはわずかに目を細める。


「マリアス……君が真実を見ていてくれればいい。それを伝えてくれ。兄に、この国の民に」


その声は静かで、それでいて燃えていた。


「消えないんだよ。この男を消さない限り、この怒りも、憎しみも、恨みも……!」


わずかに息を呑む。


「マリアス……すまない。僕はネオスだ。君たち祈念種とは違う」


ラグスが、ゆっくりと口元を歪めた。


「よい覚悟です、イエル様。さすがはエリオ様のご子息」


「ラグス――お前はここで仕留める」


「ほう……どうやって」


「マリアス、離れろ! スタシスコア、放て!」


次の瞬間、イエルの指示に呼応し、従えていたユニットから三基の装置が射出された。


一基はラグスの目前へ、残る二基はその背後――ユニット群の中央へと着弾する。


刹那、半球状の場が展開された。


重力とも圧縮ともつかぬ不可視の力が空間を歪め、範囲内のユニットを敵味方の区別なく押し潰していく。

装甲が軋み、機構が悲鳴を上げ、次々と機体が沈黙した。


その力はラグスの身体を覆う機構にも及び、膝が落ちる。


「ラグス……貴様が機構を纏っていたことが仇になったな。地下でお前と会ったときに気づいた」


イエルが剣を拾い、ゆっくりと近づく。


「ここで――終わりだ」


刃が首元へと向けられる。


だがその瞬間、ラグスの身体から機構が剥がれ落ちた。

金属片が弾けるように飛び散り、同時に振るわれた一撃がイエルの剣を弾き飛ばす。

刃は宙を舞い、地面へと突き刺さった。


「クッ……」


「イエル様……致し方ありません」


ラグスが立ち上がる。


「あなたがここまでこの国を混乱に陥れたのです。ノエル様も――お許しになるでしょう」


その視線が、冷たく落ちる。


「イエル――お前も、死ね」


剣が振り上げられる。


「イエルーーー!」


マリアスは祈念波を一気に高め、片翼を展開した。

ラグスの間合いへと飛び込み、その腕を掴む。


だが――スタシスコアの影響圏。


身体が沈む。重い。動けない。


それでもなお、ラグスの腕を離さず、振り下ろされる刃を押し留める。


「マリアス! 僕のことはいい!」


「いいや、ダメだ、イエル。誰も死なせない」


だが重みに耐えきれず、マリアスの腕は振り解かれた。


「マリアス……ならばまず、お前が死ね」


ラグスの声が低く響く。


その刃が振り下ろされようとした瞬間――


祈りの塔の頂上に、恒星にも等しい光が収束し始めていた。

圧倒的な祈念波が大地を唸らせ、空気そのものを震わせる。


ラグスが思わず振り返る。


「……なんですか、あれは」


次の瞬間、塔の頂から一筋の光が放たれた。

閃光がラグスの背後へ叩き込まれ、爆発的な衝撃が戦場を飲み込む。

ユニット群はまとめて吹き飛び、地形すら抉りながら破壊が広がった。マリアスもラグスも、その余波に巻き込まれ弾き飛ばされる。


スタシスコアも砕け、拘束が解けた。


祈念波が戻る。


イエルは地を転がり、動かない。


マリアスは即座に体勢を立て直し、イエルへと駆け寄ると、その身体を覆うように抱き寄せた。

激しい爆風の中、祈念波で身体を覆いイエルを守る。


「ソルフェ! 来い!」


土煙を切り裂くようにソルフェが現れる。


イエルは気を失っている。


マリアスはその身体を抱え上げ、機体へと飛び乗った。


「離脱する――!」


振り返ることなく、第七区を後にする。

 


カイとナギはヨウルに跨り、宮殿へと国境沿いを駆けていた。


その時――背後から、轟音。


振り返ると、第七区の空に黒煙が立ち昇っていた。

まるで空そのものを焦がすように、濃く、重く。


「――マリアス」


カイが低く呟く。

ナギの肩が小さく震えた。


「カイ……マリアス、大丈夫?」


カイは答えられなかった。

その沈黙だけで、ナギはすべてを察してしまう。


「……戻る?」


小さな声。

カイは一瞬だけ迷い――すぐに頷いた。


「ヨウル、七区へ戻るぞ!」


その言葉を待っていたかのように、ヨウルは鋭く旋回する。

その瞬間だった。

背後から、地を揺らす振動とともに、巨大な何かが迫る。


「ママーー! ママーー!」


振り返る。


土煙を切り裂いて現れたのは、ルカと――その上に跨るオルガだった。


「カイ! どうなってる、マリアスは!」


「兄さん……すまない。ナギを守るために、マリアスが戻れって……。敵ユニットの数が多すぎて、食い止めてくれている隙に……。今から戻る」


カイの声には、わずかな悔いが滲んでいた。

オルガは短く息を吐く。


「気にするな。こっちも戦闘になっちまったからな……。それにしても、あの爆発……七区だよな。何が起きてやがる」


二人は並走し、そのまま七区へと向かう。

やがて――見えた。

片脚を損傷しながらも、歪な軌道でこちらへ戻ってくる機体。


ソルフェ。


「マリアス!」


カイの叫びと同時に、ヨウルの速度が一段上がる。

その背には、全身に傷を負ったマリアスと、気を失ったイエルの姿があった。


「イエルが酷い傷だ……宮殿に戻って治療しないと」


マリアスの身体も限界だった。

だが、その瞳の光だけは、消えていなかった。


「オルガもルカも無事か……よかった」


かすかに安堵を滲ませる。


「オルガ……申し訳ない。作戦は失敗だ」


「仕方ねぇさ。こっちも陽動のつもりが、完全に戦闘になっちまった」


オルガは肩をすくめる。

マリアスは小さく息を吐き、視線を上げた。


「……すまないが、オルガ。もう一仕事、頼まれてくれないか」


「ん? なんだ。言ってみろ」


その時――

背後から、追撃。

七区側から、およそ三十機の敵ユニットがこちらへ迫っていた。

マリアスはそれを指し示す。

オルガは一瞬で理解し、ニヤリと笑う。


「あぁ、なるほどな。ここはオレの出る幕じゃねぇ」


ちらりとルカを見る。


「ルカ、やってやれ。さっきの……ビーーッてやつ。ドカンと」


「ビーーで、ドカン?」


カイとマリアスが思わず顔を見合わせる。


「アイ。コノ大型、祈念波……イッパイアル」


ルカのレンズが七色に発光する。

次の瞬間――

白い閃光が一直線に走り、直後に爆発が連鎖する。

追撃していたユニット群は、まとめて消し飛んだ。


カイが思わず声を上げる。

 

「おおーー! ルカ、すげぇ! そんなこともできるのかよ!」


オルガが何か言いかける。


「あぁ。この短時間で仕込むのは――」


その言葉を遮るように、ルカが続けた。


「エリカノ、祈念波……ルカニ、届ク。エリカ……教エテクレタ」


その一言に、空気が変わる。

マリアスはゆっくりとルカに近づき、その頭に手を添えた。


「……ありがとう、ルカ」


「アイ!」


ルカはどこか誇らしげに応じる。


「そ……それよりイエルだ。早く戻るぞ。治療が先だ」


オルガの声が現実に引き戻す。


「そうだな……ありがとう、オルガ」


マリアスは頷き、そして――ナギを見る。

カイに抱かれたその小さな身体へ、静かに視線を向ける。


「ナギ……大丈夫だ。みんな、帰ってきた。イエルも……助かる」


ナギの瞳が、ぱっと輝いた。

強く、何度も頷く。

その小さな祈りは、まだ消えていなかった。


五人と二機は、そのまま宮殿へと帰還していった。

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