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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十三章《祈りの臨界》

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第82話《引けぬ者たち》

ラグスは、マリアスの足先から頭頂まで、なぞるように視線を這わせた。


「ほう……見事に成長されましたな、女王陛下。ミデアでありながらその祈念波……やはり尋常ではない」


「ラグス。第七区の暴動事件……いや、虐殺事件。お前がここで何をしたのかは、すでに知っている」


マリアスの声は低く、揺らがない。


ラグスの口元が、わずかに歪む。


「ほう。それで――マリアス。あなたは何をしに、ここで戦っているのですか?」


一歩、間を詰める。

その声音には、明確な嘲りが滲んでいた。


「これこそ、まさに祈念種による“暴動事件”ではありませんか。十七年前の偽りが本物になる……実に都合がよろしい。感謝いたしますよ、マリアス」


マリアスは一切表情を変えない。


「それでいい。過程ではなく、今は結果がすべてだ。エリカの解放。そして、祈りの塔の奪還」


マリアスは一歩踏み出し、剣先をわずかに持ち上げる。


「ラグス――そこを退く気は……ないだろうな」


「よくお分かりで」


その言葉の直後、ラグスは抜刀し、迷いなくマリアスへと振り下ろした。

マリアスはそれを剣で受け止め、すぐに間合いを取る。


だが次の瞬間、ラグスの横蹴りがマリアスの腹を正確に捉えた。

衝撃に体が浮き、マリアスは転がるように地を滑るが、すぐに体勢を立て直す。


「マリアス……無魂のユニットは斬れても、人は斬れませぬか?」


ラグスは嘲るように言う。


「死にますよ、マリアス。私を殺す気で来なければ」


マリアスはわずかに戸惑っていた。

祈念種は身体に機構を宿し、祈念波そのものを武器とする。

本来であれば、生身のネオスを遥かに上回る戦闘能力を持つはずだった。


だが――

ラグスは、そのマリアスすら圧する強さを持っていた。


「ラグス」


マリアスは静かに呼ぶ。


「争いは望んではいない! そしてお前を傷つけたくもない。私たちは、対話で済むのならそれを望んでいる。ノエルに会わせろ」


ラグスは、ゆっくりと口元を歪めた。


「ちょうどいい。ノエル様も、あなたを捕え目の前に連れてこいとの命を受けております」


一歩、踏み出す。


「ただ……余計なことを喋られても困るのでね」


刹那――剣閃が走る。


「その前に、喋れぬよう喉を切り裂きましょう!」


ラグスの刃がマリアスの喉元を掠める。

紙一重で回避するマリアス。


「……仕方ない」


わずかに息を整え、目を細める。


「私は殺さない。だが――その右腕、落とさせてもらう!」


片翼を展開し、一瞬で間合いを詰める。

そのままラグスの右腕めがけて剣を振り下ろした。


だがラグスは避けない。

その一撃を、右腕で受け止めた。

鈍い金属音。

火花が散る。


「……!」


マリアスの瞳が見開かれる。


――機構……!?


「貴様……何者だ! ミデアか!?」


「いいえ」


ラグスは静かに笑う。


「汚い祈念種と一緒にしていただいては困ります」


わずかに腕を振るい、剣を弾く。


「私はネオスですよ。機構を纏っているのです」


その声音には、わずかな愉悦が滲んでいた。


「まあ……この程度はしておかないと、さすがの私でもあなたとは渡り合えませんので」


マリアスは一瞬で最善を組み立てる。

ラグスを相手に、なおかつ生かして勝つ――それはもはや不可能。

仮にここで討ち取ったとしても、それは新たな争いの火種にしかならない。


「ソルフェ!」


呼応するように、鳥型の移動ユニットが即座にマリアスのもとへ駆け寄る。


――ここは、一度引く。


同時に祈念波を解放し、旧式ユニット群をラグスの前へ展開させた。

円陣が形成され、進路を塞ぐ。

その隙に、マリアスはソルフェへと飛び乗り、後退に移る。

直後、ユニット群同士が再び激突し、戦場は爆音と閃光に包まれた。


「走れ、ソルフェ!」


祈念波を纏った機体が一気に加速する。


だが――


ラグスはユニットの壁を軽々と飛び越えた。

ふくらはぎの機構が発火し、地を抉るような加速。

次の瞬間には、すでにマリアスの背後へと回り込んでいた。


「――早い!」


振り返る間もなく、ラグスが跳躍する。

剣先は一直線にマリアスへ。


マリアスは即座に左手を掲げた。

接触の瞬間、左腕に集束した祈念波を解放する。

自身の腕ごと吹き飛ばす覚悟だった。

それでもいい。

ここで退けなければ、すべてが終わる。

 

左腕が発光し、祈念波が掌へと収束していく。


「ラグス――ここでお前が死ぬのであれば、それはお前の運命だ。その命を奪う罪も私が引き受ける」


その瞬間――


ラグスの背中が、突如として爆ぜた。

衝撃に弾き飛ばされ、そのまま地面を何度も転がり、ようやく静止する。


「……何が起きた?」


マリアスはまだ、祈念波を放っていない。

ソルフェを制止し、土煙の向こうへと視線を向ける。


そこには――

数十機のユニットを従えたイエルの姿があった。

移動ユニットに跨り、そのまま一直線に突撃してくる。

背後のユニット群からは、火線を放った直後の煙が立ち上っていた。


「イエル! 無事だったか!」


だが、その声は届かない。

イエルは機体から飛び降り、そのまま剣を抜いてラグスへと駆け出す。


「ラグスーーーー!」


その表情は、明らかに理性を失っていた。

ラグスは煙を上げながらゆっくりと立ち上がる。


そして――


二人の剣が激突した。


「イエル! 君じゃ勝てない!」


マリアスは即座に引き返し、援護へと回ろうとする。


だが――間に合わない。


次の瞬間、イエルは地面へと叩きつけられ、その首元にラグスの剣先が突きつけられていた。


「イエル様……痛いではありませんか。先程……次は斬ると、申し上げましたよね?」


ラグスの身体から、撃たれた煙が立ち上る。

その声音はかろうじて抑えられているが、奥底では怒りが軋んでいた。


「やればいい」


イエルは睨み返す。


「見ているぞ――ルミエルの神……エリカが」


その背後で、従えてきたユニットのレンズが一斉に赤く灯る。

ラグスの損傷した機構からは、油が滴り落ちていた。


「……そうか、ラグス」


イエルの声が低く沈む。


「お前は父、ルシエだけじゃない……祖父、エリオを暗殺したのも貴様か」


ラグスは小さく息を吐いた。

わずかに肩をすくめる。


「ふぅ……これは失礼を。私としたことが、一瞬冷静さを欠きました。さすがはイエル様――その通りでございます」


「やはりそうか……。兄は、なぜリゼルを殺した」


「この際なのでお答えします。リゼルが祈念種を地下に入れた際に、エリオ様を殺害したのもリゼルであると、ノエル様にお伝えいたしました」


「ラグス……。なんてことを……。それで次は、僕をも殺す……。そして兄さんも殺す気か」


イエルの瞳が燃える。

ラグスは迷いなく答えた。


「ご察しがよろしい。ノエル様も、不要となれば――」


「貴様ぁぁぁ!」


怒号とともに、イエルが剣を振り払う。

その勢いのまま、立ち上がった。


マリアスは動けなかった。

ラグスの間合いの内側に、すでにイエルはいる。

ここで飛び込んでも、間に合わない。

その一瞬の差でラグスの剣が、イエルを貫く未来がはっきりと見えていた。

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