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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十三章《祈りの臨界》

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第81話《祈りの覚醒》

エリカは、過去の記憶から静かに意識を引き戻した。

重たい瞼を開き、浅く息を吐く。


「ねぇ……アネシア」


『はい、エリカ』


その声が響いた瞬間、空気がわずかに震えた。

エリカは息を呑み、言葉を失う。

長い沈黙の果てに、ようやく触れた声に胸の奥で何かが軋む。

やがて、ゆっくりと息を吐いた。


「……やっと、返事をしたわね」


かすかに震える声。


「上層から地下に降ろされてからだから……十七年ぶりね。あんたの声を聞くのは」

 

『はい。その通りです』


「なぜ、黙ったの? あんたの大切なお友達――ルシエが殺されたから? ショックだったの?」


ほんの少しだけ、声に棘が混じる。


『いいえ。そのような感情はありません。ですが、私の警告により、ルシエは祈念種への援助を強め、守るために声を上げた。その結果、殺害されました』


淡々とした事実の羅列。


『であれば――そのときが来るまで干渉しないことが、最適解であると判断しました』


「また最適解って……」


エリカは小さく吐き捨てる。


『ネオスの行いは、始祖マリーの思想とは乖離しています。彼らの心に干渉できない以上、事象として世界を変えるしかありません。そのための準備を、進めていました。――おおよそ、整っています』


エリカは目を細める。


「あんたにとってマリーが神なわけね……」


『いいえ、マリーは私を友人と定義していました』


「そう……で、なぜ、あんたは私を接続したの」


『あなたが、望んでいたからです』


迷いのない応答。


『マリーに憧れ、誰かのために生きることを。あなたはすでに神へと昇華していた存在であり、その祈念波はこの都市すら動かし得る。そして、都市の人々のためにここに在り、崇められている』


エリカはわずかに視線を落とした。


「神ね……よくわからないわ。なぜ私に、そんな力があるのかも」


『二千年前――マリーの子、ユナも同様でした。輪廻の定めか、記憶の大半は失われる。今この星に生きる人々も同じです。ですが――贖罪からは逃れられません。あなたはあのとき、銀河の理を超え、身体を離れたユナの魂をマリーへと還した』


その言葉は、まるで確定された歴史のように響く。


『そこから、この国は始まったのです』


「へぇ、そう……聖記書に載っているセレアってのが、私なわけね……」


わずかに乾いた笑みを浮かべ、小さく息を吐く。


「……まぁ、なんでもいい。とにかく今、始まろうとしている戦争を止めなきゃ。私……神なんだから」


その言葉は、自分に言い聞かせるようだった。

エリカは意識を第七区へと接続する。


視界の先で、旧式ユニットと新型ユニットが激しく衝突し、火花が散っていた。

その中心――白銀の狼に跨ったカイの姿がある。


「……そうか」


かすかな理解。


「ユニットを奪ったのは……マリアスか。私が……必死に、この国を守ってきたのに……」


その瞬間、胸の奥に何かが込み上げる。


「争いが、これ以上起きないように……守ってきたのに……どうして……どうして、戦っているの……!」


言葉が崩れていく。

エリカは床に手をつき、堪えきれず涙をこぼした。



第七区では、戦闘がさらに激しさを増していた。


ヨウルはカイの祈念を受信し、その動きを一層鋭くする。

白き電流を纏い、爪と牙で敵ユニットを切り裂いていく。


その背に跨るカイもまた、祈念を纏った拳で次々と敵を打ち砕いていた。


だが――


いくら破壊しても、後方から新たな敵ユニットが途切れることなく押し寄せてくる。


カイは思わず振り返った。


後方では旧式ユニット群が、マリアスを守るように衝突し、火花を散らしている。


「ダメだ……防ぎきれない」


次の瞬間、マリアスの声が響く。


「カイ! 戻れ! 一度立て直す――撤退だ!」


その声は動揺ひとつなく、冷静そのものだった。


「クソ……! ヨウル!」


ヨウルは高く跳躍し、旧ユニットの円陣へと潜り込む。


「カイ、ナギを連れて宮殿へ戻れ。ここは私が食い止める」


マリアスはそっとナギをカイへと預けた。


「ヨウル、頼んだわよ」


低く唸るヨウルの様子には、わずかなためらいが滲んでいる。

カイは戦場を見渡し、歯を食いしばった。


「でも、マリアス……こんな数のユニット群を、どうやって――」


「大丈夫」


その一言で、空気が変わる。


「ナギ、祈って。あなたの祈りは、私を強くする」


ナギはすぐに頷けなかった。

小さく唇を噛み、マリアスの瞳をじっと見つめる。


「……でも……」


震える声。


「マリアス……いなくなっちゃうの、やだ……」


一歩、踏み出せない。

その視線は、離れることを拒むように揺れていた。

マリアスはそっとナギの頬に触れる。


「大丈夫。必ず帰る」


ナギは目を伏せる。


「……ほんとに……? うそじゃない?」


「うそじゃない。約束する。絶対に帰るから」


しばらくの沈黙のあと、やがてナギは、小さく息を吸い――


「……わかった」


ゆっくりと手を胸の前で組む。


「マリアス……お願い……無事に帰ってきて……」


その祈りが放たれた瞬間――

ナギとマリアスの祈念核が共鳴した。

眩い光が、戦場を包み込む。


その中心で起こった変化に、カイは言葉を失った。


マリアスの背に、光の片翼が展開される。

そのまま、静かに宙へと浮かび上がった。


「……嘘だろ」


カイは息を呑む。


振り返ったマリアスの瞳は黄金に輝き、その姿はもはや太陽の女王ではない。


――女神。


「カイ、使命を果たしなさい」


その声は、逆らうことを許さない。

カイはしばらく言葉を失い、やがてようやく絞り出す。


「……わかった。ヨウル!」


ヨウルはそれに応えるように、国境のさらに奥――森の中へと駆け出した。


二人を見送ったマリアスは、ゆっくりと敵へ向き直った。


「できればナギには見せたくなかった……こんな戦場を」


小さく呟き、腰から剣を引き抜く。


次の瞬間、マリアスは空を裂くように飛び上がり、そのまま敵ユニット群の中心へと飛び込んだ。


祈念を纏った刃が閃く。

一閃。

数機のユニットがまとめて断ち切られ、火花と残骸が宙に散る。

さらに視線を走らせ、カイの背を追う敵影を捉える。

片翼を翻し、一瞬で間合いを詰めると、叩きつけるように剣を振り下ろした。

衝撃が走り、敵ユニットがまとめて弾き飛ばされる。


それに呼応するように、旧式ユニット群も激しく衝突した。

纏った祈念波が火線を押し返し、無数の閃光が弾かれる。

爆発音が連鎖し、戦場そのものが軋むように震えた。


土煙が舞い上がる中、マリアスはふと異変に気づいた。


――敵ユニットの動きが……止まった?


わずかに間合いを取り、後方へと下がる。

やがて煙がゆっくりと晴れていくと、その先に異様な“影”があった。

ユニット群の前に、ただ一人、立っている。


「お久しゅうございます、マリアス……ああ、今はアストレアの女王陛下でございましたか」


低く、嘲るような声。

その影を認めた瞬間、マリアスの瞳がわずかに細まる。


「……ラグス」


ゆっくりと剣を握り直す。

視線は逸らさない。

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