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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十三章《祈りの臨界》

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第78話《祈りの崩落》

ラグスが去った直後、六区の旧型監視ユニット、及び国境監視ユニットの通信が、突如として途絶えた。


「――異常検知。第七区南部、及び六区のユニット群の応答途絶……通信不能」


エリカの声が、わずかに揺れる。

静寂に包まれていたはずの空間に、次々と警告が重なり、祈りの塔の底に不穏なざわめきが広がっていく。


「旧型巡回ユニット群、国境警備大型ユニット、制御応答……なし。再接続……失敗。……命令権限、拒否」


胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。


――あり得ない。

 

この都市の旧型ユニットは、すべてエリカの祈念波の網の中にあり、例外など存在しないはずだった。


「どうして……二百機が北上……?」


視界の中で、赤い光点が増え、そのすべてが命令を無視して動き出していた。


進行方向――第七区。

エリカは祈念波を強め、何度も何度も呼びかける。


「止まれ……戻れ……命令を聞いて……!」


だが、応答はない。

まるでそこに意思そのものが存在しないかのように。


「……そんな……」


指先が震える。

その時、別系統の情報が流れ込んだ。

西部国境沿い。

オルガの部隊が、新型ユニット群の接触寸前まで迫っている。


「……オルガ……」


唇がかすかに震える。


争いは避けなければならない。

だが、止められない。祈りが届かない。

その現実だけが、冷たく胸を締めつけていく。



ルミエル中央制御区。


「……アストレアを落とす」


ノエルの声は低く、揺らぎがなかった。


「……よろしいのですか、ノエル様」


ラグスの声が、静かに響く。


巨大な窓の向こう、都市の光が広がっていた。

その中心に立つノエルは、しばらく何も答えなかった。

やがてゆっくりと口を開いた。


「第七区に侵入した祈念種……確認されているな」


「は。獣に乗った、例のミデアの少年です」


ノエルは目を閉じ、わずかな静寂ののちに口を開いた。


「……排除する」


短く、それだけを告げた。

ラグスの口元が、わずかに歪む。


「新型ユニット群の投入、及び新型国境警備ユニットの越境使用を許可する。徹底的に排除しろ」


「承知いたしました。西部国境沿いにもオルガが陣取り、こちらを伺っています。すでに巡回ユニット七百機の配備は済んでいます。そちらは?」


「マリアスはどっちにいる」


「確認は取れていませんが、おそらく七区。……オルガは陽動かと」


「ならば、オルガを落とせ。殺しても構わん。ユニット群をアストレアへ進行させろ。それと……マリアスは生かして捕えろ」


ラグスはわずかに目を伏せる。


「――御意」


その声音には、かすかな愉悦が滲んでいた。


もはや、その命は覆らない。

都市を動かす命令は、静かに、そして不可逆のまま確定した。



西部国境。

張り詰めた空気の中、オルガはじっと前方を見据えていた。


「……妙だな」


対峙する新型ユニット群。

数は増え続けている。


「五百、六百、七百……おいおい、増えすぎだろうが」


ルカが低く唸る。


「オルガ……コレ、作戦通リ?」


「あぁ……陽動じゃ済まねぇな。向こうは本気かもな。だが国境までは――」


その瞬間だった。

ルミエル側のユニットが、一斉に動いた。


――一歩、前へ。


「……は?」


オルガの目が見開かれる。

確かめるようにさらに一歩踏み出したルミエル側のユニットは、そのまま何の躊躇いもなく国境線を越えた。

 

「おい待て……! 冗談だろうが!」


オルガの怒号が響く。


次の瞬間、赤い閃光が走り、遅れて轟音と衝撃が弾けた。張り詰めていた均衡は一気に崩れ、戦闘が始まった。


「チッ……! 全機、迎撃体勢だ! 下がるな!」


オルガは大剣を引き抜き、前へ踏み出す。

陽動のはずだった。

だが、もうそんな段階ではない。


これは――侵攻だ。


 

その頃、カイは森を抜け、マリアスのもとへと辿り着いていた。


「マリアス!」


「カイ……無事だったのね」


マリアスの声には、わずかに安堵が滲んでいた。


だがその背後に、異様な光景が広がっていた。

二百機余りのユニットが静かに整列し、その無機質な視線が一斉にカイへと向けられていた。


「……これは」


「私の祈念波で接続を書き換えたの。旧式ユニットなら、まだ介入できる」


マリアスは淡く光る掌を見つめる。


「完全ではないけれど……今は味方よ」


ナギが駆け寄る。


「カーイ! すごいよ、いっぱい仲間いる!」


無邪気な声。

だが空気は、すでに戦場のそれだった。


「マリアス、七区はすでに新型に監視されていた。ここからの突破は厳しい」


「そうか……侵入経路の再検討が必要ね。イエルからの連絡もまだ……ひとまず待機」


その時だった。

背後に、冷たい気配。


「……来る」


カイが低く呟く。

森の向こう、無数の赤い光が灯る。


「奴ら、国境を越えてきている……それに数が多すぎる」


マリアスの声が沈む。


「戦うしかない……か」


ナギが震え、マリアスにしがみつく。


「ナギ……怖いか?」


「大丈夫。エリカを助けなきゃ。今……エリカも怖がってる」


マリアスはわずかに目を見開いた。

これほど離れていてなお祈念波を感じ取る――ナギの感応は、想像以上に深い。


マリアスはそっと抱きしめた。

カイはその姿を見つめる。


そして――


《ナギを守る。この命にかえてでも――》


祈念核の深層に、再び刻まれる言葉。

その瞬間、カイの両腕に青白い電流が走り、瞳孔が銀に染まる。


「マリアス、僕が突破口を開く。援護を頼む……ナギを守って」


「成長したね、カイ。オルガにも劣らない祈念波だ。ナギは任せて」


カイはヨウルの頭を撫でると、白銀の狼はそれに応えるように低く唸った。

 

旧式ユニット群と、新型ユニット群が対峙する。

静寂は、一瞬だった。

次の瞬間、無数の閃光が交錯した。

轟音と爆炎が重なり、祈念と鋼が激しくぶつかり合う。


「行くぞ、ヨウル!」


白銀の狼が駆け出す。

味方ユニットの隙間を抜け、高く跳躍し、そのまま敵群の中央へと叩き込まれる。

カイの両腕から放たれた祈念の波動が、連鎖するようにユニットを吹き飛ばしていく。


戦場が、燃え上がる。


それはもはや潜入ではない。

祈りと侵略が衝突する、臨界点。

誰にも止められない戦いが今、始まった。


 

祈りの塔、最下層。

エリカは膝をつき、震えていた。


「……止まらない……どうして……私が守ってきたはずなのに」


新型ユニットは止まらない。

国境では戦闘が始まり、アストレアへ侵攻が進んでいる。

そのすべてを、ただ見ていることしかできない。


「……違う……こんなの、違う……」


争いたくない。

ただ守りたいだけなのに、どうして祈りは戦いへと変わってしまうのか――その問いだけが、胸の奥で何度も繰り返されていた。

 

その時、視界に西部の国境警備ユニット群が映る。


「……これは……動かせる……」


わずかな希望。

エリカは祈念波を伸ばす。


応答――あり。


「……お願い……」


震える声で、命じる。


「オルガを……守って」


白い光が走る。

国境警備ユニットが、一斉に進路を変えた。

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