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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十二章《太陽の女王》

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第69話《再会の宮殿》

白亜の宮殿の階段を駆け上がるうちに、カイの胸に込み上げてきたものがあった。

五年――それは遠すぎる再会だった。

けれど、そこにいた彼女は、昔と変わらぬ光で迎えてくれた。

 

「マリアス!」


カイはナギを抱いたままルカから飛び降り、女王のもとへ駆け寄った。


「カイ、随分傷だらけじゃないか。……頑張ったな」


たったその一言。

だがマリアスの放つ慈愛に満ちた言葉と祈念は、カイの胸に溶け込むように癒えていった。


「このくらい大丈夫。太陽に少し当たれば、すぐに治るよ」


マリアスは優しく微笑む。

その瞳には、やわらかな光が宿っていた。


「そっか……逞しくなったな。で――その子が、ナギか」


マリアスはそっと手を差し伸べ、カイの腕からナギを抱き上げた。


「ナギ、こちらがマリアス。この国の女王様だよ」


ナギは、じっとマリアスの瞳を見つめた。

その目は恐れることなく、まるでずっと以前からマリアスを知っていたかのように。


「……マリー……アス……」


ナギの祈念核が、ふるえるように光を放つ。

一度だけでなく、波打つように、強く、そして深く――。

まるで心の奥底に眠る“記憶のような何か”が、今、扉を叩いた。


理由はわからない。

だが、確かなものが胸を突いた。

この人を知っている。

この温もりを、知っている。


ナギの小さな頬に、ぽたり、と涙が落ちた。

それは悲しみではなく、長い渇きが潤されたかのような、魂の喜びだった。


マリアスもまた、その涙に触れた瞬間、何かが崩れた。

使命も立場も忘れ、ただ一人の祈念種として、マリアスはナギを強く抱きしめた。

声も出せぬほどに涙をあふれさせ、膝をつき、マリアスは深く泣き伏した。

その胸に宿る光もまた、確かに応えていた。

 

オルガが静かに呟く。

 

「魂の縁……オレも、こんなマリアスは見たことがない。マリアスは多くの使命を背負っている。これもまた使命……いや、祈りだったのかもしれんな」


カイもそんな二人を静かに眺めていた。


「ところでカイ、このデカいユニット……オレの勘違いでなければ、なんだかあの子とお前の波動を感じるのだが……」


少し考え、オルガが続けた。

 

「……も、もしかして、お前、あの子と子を作ったのか!? あんな年端もいかぬ幼き子と……お前ってやつは……兄としてそんなふうに育てた覚えは……」


「ち、違う! これは……!」


次の瞬間、ルカが大型ユニットから離れ、宮殿の中を嬉しそうに駆け回りナギの元へと走っていった。


「ママー! ママー!」


マリアスがそっとルカの頭に触れる。

 

「そうか……お前はナギの子で、ナギのママなのか」


「ソウ、ルカノママワ、ナギ! デモ、ナギノママワ、ルカ!」


そう言ってルカはオルガの足元に駆け寄り、じっと顔を見上げた。

 

「オルガ……ブサイク」


「ヌッ!……カイ……このユニットも斬っていいか?」


宮殿には、逃げ回るルカの足音と四人の笑い声が柔らかく響き渡った。


マリアスが涙を拭い、ルカとナギをそっと再び抱き寄せたそのときだった。


遠くから足音が響く。

重いのではない。むしろ滑るように静かで、地を払うような柔らかな音。


「……あれは?」


カイが視線を向けると、玉座の奥にある回廊から、白銀の獣が姿を現した。


全身を滑らかな銀毛で覆われたオオカミ。

青白く輝く双眸は、まるで夜の星のように鋭く、静謐な風格を纏っていた。


「ヨウル……」


マリアスがそっと名を呼ぶと、オオカミはしなやかな足取りで駆け寄ってくる。

その仕草には猛獣の威厳ではなく、忠実なる従者のような温もりがあった。


ヨウルは女王の足元に身を寄せ、顔をすりつける。

マリアスは何の恐れもなく、まるで幼いころからの家族のようにその頭を撫でた。


「……オオカミ? 本物か?」


「驚いたか、カイ。ヨウルは私が育てたのだ。祈念波に反応する獣……この地でももう数少ない」


「……知らなかったよ。こんな存在が、マリアスの傍にいたなんて」


「それでいい。ヨウルは私以外に懐かない」


その言葉を裏づけるように、ヨウルはマリアスの横からじっとオルガを睨みつけた。


「うっ……」


グルル……


鋭い視線とともに、低く威嚇音が漏れる。


「こらヨウル、オルガは私の大切な仲間だ。無礼をしてはいけないよ」


グルッ……。


ヨウルは不満げに一度鼻を鳴らしながらも、ゆっくりとその視線を外した。


「……ったく。なんだその目は。オレが何をしたってんだ」


ナギが笑いながらヨウルに手を伸ばす。

 

「オルガ、嫌われてるの? ほら、こうやって」


ヨウルは一瞬戸惑ったが、すぐにその手にそっと鼻を押しつけた。


「わぁ……やさしい……」


「すごいなナギ。ヨウルにここまで懐かれるとは」


マリアスの頬がふっと和らぐ。

その眼差しは女王というよりも、ひとりの母のようだった。


「やっぱり、ナギには不思議な力がある……」


カイが小さく呟き、マリアスに目を向ける。


「マリアス……ごめん、こんな大事にしてしまって。都市の情報知らせるのがオレの役目だったのに……」


マリアスはそっとカイに向き直った。


「カイ、君は十分役割を果たした」


「でも、ユナガーデンには、まだ……エリカが残ってる。救えてない」


オルガがカイの肩に手を置いた。


「カイ、マリアスが、お前をユナガーデンに行かせた理由はな、……運命というのはだな、えっとぉ……自らのな、えーそれで……」


オルガの言葉に、マリアスはくすりと笑った。

 

「オルガ、私が明日話そう」


マリアスはカイに視線を向けた。


「カイ、君もそろそろ医療室へ行け。あまりにも無茶をしすぎた」


「いや、オレは――」


「私が命じる。これは命令だよ、弟君」


マリアスの声音には、どこか安心したようなぬくもりがあった。


「……わかった。でも、ナギとルカは?」


「私が預かるよ。ヨウルもいるし、安心して」


マリアスがふたりを優しく抱き寄せ、ルカは嬉しそうにマリアスの膝に頭を乗せた。

ナギは不思議そうにヨウルの銀毛を撫でながら、時折マリアスの顔を見つめていた。


「ねぇ、マリアス……ルカもナギも、ここで暮らせるの?」


「もちろん。ここは祈りの都市。みんなを守るために創られた場所だから」


太陽の光がステンドグラスを透かし、宮殿の床に七色の模様を描いていた。

ヨウルがその中をくるくると回り、ルカと遊びはじめる。


カイはふっと息をつき、その光景を眺めた。

血の匂いが消え、安らぎが戻ってくる。

そんな実感が、ゆっくりと胸に満ちていく。


だが、だからこそ。

この安寧を守るために、ナギを守る使命があることを忘れてはいけない。

 

白銀のオオカミ、ヨウルはゆっくりと首を上げた。

青い瞳が淡く光り、まるでマリアスの言葉に静かに頷くように瞬いた。

宮殿の空気が、祈りのような静寂に包まれていった。

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