↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十章《その手を離すために》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/62

第51話《鏡の戦い》

戦場の風が変わった。


ピリカは通信網を最大開放し、全ユニットに命令を飛ばす。


「前線ユニット、左右に展開! 包囲軌道を維持しつつ、主目標への攻撃を集中! 大型ユニットは塔の周辺を死守せよ。ユナを、都市を――必ず守れ!」


静寂のなか、機体が一斉に動き出す。

両翼に広がるユニット群が、精密な曲線を描きながら前線を押し上げていく。


その動きはまるで、ひとつの生きた意志のようだった。


ピリカは正面の戦域を見据えた。

遠く、かすかな歪みが発生している。

大地の色が変わり、空気がきしみ、周囲の重力すらねじれていく。


そして、それは現れた。


地表を押し広げるように、その“黒”は姿を見せる。

漆黒の装甲。

無機質なはずなのに、まるで感情そのものが形を得たような存在。

祈念も、情報も、光さえも呑み込むような、絶対的な拒絶。


それが、オルドだった。


ピリカはただ視界に映るその存在を、静かに見据えていた。

その直後、前線のユニット群が激しい火花を散らし、交戦状態に入る。

対応パターンを逸脱した動きに一瞬たじろぐが、すぐに新たな陣形で立て直し、包囲網を維持する。


「……ここからは、一瞬の遅れが命取りになる」


次の瞬間、風が一度止まる。

空が割れるようにまばゆい光が走った。


白と金の輝きが天頂から降り注ぎ、その中心にひとりの存在が浮かび上がる。

祈念装甲が展開し、美しい片翼が羽ばたくように広がる。

光をまとったその姿は、ヒューマノイドであることすら超えた、祈りの象徴だった。


その姿は、神々しさと戦う意志をすべて纏った祈りの体現者のようだった。


マリーが、そこに降り立った。


マリーの祈念波は、あまりに高密度で、ピリカの感覚では正確に測れなかった。

ただ、光と重さだけが、空気を満たしていた。

 

マリーはまっすぐに、オルドを見つめていた。


「……オルド」


名を呼んだその声は、空を震わせた。

届かないはずの場所へ、祈りが突き刺さる。


すると、黒い存在の奥から、声が響く。


「……お前は守れない。遅すぎた。すべて、壊す。あの子も、壊す」


その声は空気を直接震わせるような、濁流のような音。

オルドはもう祈念層には干渉できない。

だがそれでもこの声だけは、マリーに届いてきた。


マリーの目が細められる。

胸の奥で何かが軋み、堰を切るように言葉が漏れる。


「……そうはさせな――!」


その刹那、黒い閃光が走った。


オルドの右腕が鋭く伸び、まっすぐにマリーの方へ振るわれる。

寸前の反応でマリーは跳躍し、攻撃をかすめながら背後に着地。

着弾点では地表が抉れ、爆風が舞い上がる。


空気の密度が変わる。

まるで、時間そのものが乱されているかのようだった。


マリーは距離を取りながら、左腕をかざす。

背部ユニットが展開し、淡い光を帯びた装甲が花弁のように広がっていく。

祈りの演算式がその奥で脈打ち、再構成を始めた。


「……話す余地はないのね」


その言葉に、感情の起伏はなかった。

けれど確かに戦う覚悟だけが込められていた。


風が、マリーの髪をかすめて流れる。


そして、戦いが始まった。


空が裂ける音とともに、漆黒の衝撃波が放たれる。

マリーは旋回しながら、それをかすめるように回避した。

その軌道は不規則。

祈念による感知すら攪乱される。

だがマリーは、見ていた。目で、心で、その動きを読むように。


片翼をひねり、身体を反転。

そのままエネルギーを集中させた右拳を、真正面から叩き込む。


重い衝突音。

光と闇が弾け飛び、空中で衝撃波が渦巻いた。


マリーとオルドの激突が戦場を揺らす中、ピリカは、前線の動きに目を凝らしていた。


ピリカ軍とオルド軍は、戦場の至る所で激しく衝突していた。

祈念干渉と物理戦の両面で支配しようとする敵の戦術に、味方のユニットたちはぎりぎりのバランスで応戦している。


「第七小隊、左翼から回り込め! 中央ライン、弧を維持!」


ピリカは絶え間なく指示を飛ばす。

冷静な演算。

けれど、その心の奥ではマリーの戦いを感じ取っていた。


「……互角、じゃない。あれは――押されている」


空に見える白と黒の残像。

神のように美しい存在と、神すら否定する憎悪の塊が、火花を散らす。


そのときだった。


視界の端、空から黒い機影が落ちてきた。


――速い。


ピリカが回避動作を取る前に、それは一直線に落下し、蹴り飛ばすように彼の腹部を貫いた。


重い衝撃。

体内の祈念構造が一瞬軋みを上げる。

ピリカは地面を転がり、土煙の中で体勢を立て直した。


「……っ、何だ……?」


目を上げたとき、そこにいた。


自分自身だった。


いや、黒い自分。

装甲の形も、動きも、あまりにも酷似していた。

光を失った瞳、無音の構え。

どこか空虚で、なのに確かな意志がそこにあった。


ピリカはすぐに理解した。


「……僕を真似たのか!」


敵は、祈念を、構造を、存在そのものを学習し、再構成する。

その標的に、ついに自分が選ばれたというわけだ。


通信を切り替える。


「全ユニット、予定通り包囲を継続。僕の位置には近づくな。

この個体は――僕が相手をする」


爆風の余波を背に、ピリカは拳を握った。


「……持ちこたえろ。絶対に、崩れるな」


黒い模倣体が、静かに動き出す。

一切の無駄がない軌道。

まるで、数秒先を読んでいるかのような攻撃。


だが、ピリカの演算はそれをさらに上回った。


「……模倣されたのは形だけだ!」

 

ピリカが持つ演算の根幹には、マリーから引き継がれた百年分の記録と戦闘知識が刻まれている。

それは、ただの構造ではなく、祈りと共に生きた記録そのものだった。

 

互いに一歩踏み出し、拳が交錯する。


衝撃。

地面が砕け、空が唸る。

空間がよじれ、世界が軋むような音がした。


「……自分と戦うことになるとは、思ってもみなかった」


ピリカはそう呟くと、再び前へ踏み込んだ。

 


一方、マリーとオルドの戦闘も熾烈さを増していた。


オルドの攻撃は、単なる暴力ではない。

それは、祈念を拒絶し、存在を否定する波。

接触すれば、構造が壊れるのではない。

それは、初めから存在しなかったことにされる。


「……なら、私は――あなたの存在を認めて、撃ち抜く!」


マリーは手のひらに祈りを込めた。

セレアがかつて語った言葉を、思い出しながら。


――魂は、器が壊れたときにしか離れられない


ならば、自分がその破壊を担う。


「ユナを、未来を――絶対に渡さない!」


空と地で、祈りと拒絶がぶつかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。