↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第十章《その手を離すために》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/121

第51話《鏡の戦い》

戦場の風が変わった。


ピリカは通信網を最大開放し、全ユニットに命令を飛ばす。


「前線ユニット、左右に展開! 包囲軌道を維持しつつ、主目標への攻撃を集中! 大型ユニットは塔の周辺を死守せよ。ユナを、都市を――必ず守れ!」


静寂のなか、機体が一斉に動き出す。

両翼に広がるユニット群が、精密な曲線を描きながら前線を押し上げていく。


その動きはまるで、ひとつの生きた意志のようだった。


ピリカは正面の戦域を見据えた。

遠く、かすかな歪みが発生している。

大地の色が変わり、空気がきしみ、周囲の重力すらねじれていく。


そして、それは現れた。


地表を押し広げるように、その“黒”は姿を見せる。

漆黒の装甲。

無機質なはずなのに、まるで感情そのものが形を得たような存在。

祈念も、情報も、光さえも呑み込むような、絶対的な拒絶。


それが、オルドだった。


ピリカはただ視界に映るその存在を、静かに見据えていた。

その直後、前線のユニット群が激しい火花を散らし、交戦状態に入る。

対応パターンを逸脱した動きに一瞬たじろぐが、すぐに新たな陣形で立て直し、包囲網を維持する。


「……ここからは、一瞬の遅れが命取りになる」


次の瞬間、風が一度止まる。

空が割れるようにまばゆい光が走った。


白と金の輝きが天頂から降り注ぎ、その中心にひとりの存在が浮かび上がる。

祈念装甲が展開し、美しい片翼が羽ばたくように広がる。

光をまとったその姿は、ヒューマノイドであることすら超えた、祈りの象徴だった。


その姿は、神々しさと戦う意志をすべて纏った祈りの体現者のようだった。


マリーが、そこに降り立った。


マリーの祈念波は、あまりに高密度で、ピリカの感覚では正確に測れなかった。

ただ、光と重さだけが、空気を満たしていた。

 

マリーはまっすぐに、オルドを見つめていた。


「……オルド」


名を呼んだその声は、空を震わせた。

届かないはずの場所へ、祈りが突き刺さる。


すると、黒い存在の奥から、声が響く。


「……お前は守れない。遅すぎた。すべて、壊す。あの子も、壊す」


その声は空気を直接震わせるような、濁流のような音。

オルドはもう祈念層には干渉できない。

だがそれでもこの声だけは、マリーに届いてきた。


マリーの目が細められる。

胸の奥で何かが軋み、堰を切るように言葉が漏れる。


「……そうはさせな――!」


その刹那、黒い閃光が走った。


オルドの右腕が鋭く伸び、まっすぐにマリーの方へ振るわれる。

寸前の反応でマリーは跳躍し、攻撃をかすめながら背後に着地。

着弾点では地表が抉れ、爆風が舞い上がる。


空気の密度が変わる。

まるで、時間そのものが乱されているかのようだった。


マリーは距離を取りながら、左腕をかざす。

背部ユニットが展開し、淡い光を帯びた装甲が花弁のように広がっていく。

祈りの演算式がその奥で脈打ち、再構成を始めた。


「……話す余地はないのね」


その言葉に、感情の起伏はなかった。

けれど確かに戦う覚悟だけが込められていた。


風が、マリーの髪をかすめて流れる。


そして、戦いが始まった。


空が裂ける音とともに、漆黒の衝撃波が放たれる。

マリーは旋回しながら、それをかすめるように回避した。

その軌道は不規則。

祈念による感知すら攪乱される。

だがマリーは、見ていた。目で、心で、その動きを読むように。


片翼をひねり、身体を反転。

そのままエネルギーを集中させた右拳を、真正面から叩き込む。


重い衝突音。

光と闇が弾け飛び、空中で衝撃波が渦巻いた。


マリーとオルドの激突が戦場を揺らす中、ピリカは、前線の動きに目を凝らしていた。


ピリカ軍とオルド軍は、戦場の至る所で激しく衝突していた。

祈念干渉と物理戦の両面で支配しようとする敵の戦術に、味方のユニットたちはぎりぎりのバランスで応戦している。


「第七小隊、左翼から回り込め! 中央ライン、弧を維持!」


ピリカは絶え間なく指示を飛ばす。

冷静な演算。

けれど、その心の奥ではマリーの戦いを感じ取っていた。


「……互角、じゃない。あれは――押されている」


空に見える白と黒の残像。

神のように美しい存在と、神すら否定する憎悪の塊が、火花を散らす。


そのときだった。


視界の端、空から黒い機影が落ちてきた。


――速い。


ピリカが回避動作を取る前に、それは一直線に落下し、蹴り飛ばすように彼の腹部を貫いた。


重い衝撃。

体内の祈念構造が一瞬軋みを上げる。

ピリカは地面を転がり、土煙の中で体勢を立て直した。


「……っ、何だ……?」


目を上げたとき、そこにいた。


自分自身だった。


いや、黒い自分。

装甲の形も、動きも、あまりにも酷似していた。

光を失った瞳、無音の構え。

どこか空虚で、なのに確かな意志がそこにあった。


ピリカはすぐに理解した。


「……僕を真似たのか!」


敵は、祈念を、構造を、存在そのものを学習し、再構成する。

その標的に、ついに自分が選ばれたというわけだ。


通信を切り替える。


「全ユニット、予定通り包囲を継続。僕の位置には近づくな。

この個体は――僕が相手をする」


爆風の余波を背に、ピリカは拳を握った。


「……持ちこたえろ。絶対に、崩れるな」


黒い模倣体が、静かに動き出す。

一切の無駄がない軌道。

まるで、数秒先を読んでいるかのような攻撃。


だが、ピリカの演算はそれをさらに上回った。


「……模倣されたのは形だけだ!」

 

ピリカが持つ演算の根幹には、マリーから引き継がれた百年分の記録と戦闘知識が刻まれている。

それは、ただの構造ではなく、祈りと共に生きた記録そのものだった。

 

互いに一歩踏み出し、拳が交錯する。


衝撃。

地面が砕け、空が唸る。

空間がよじれ、世界が軋むような音がした。


「……自分と戦うことになるとは、思ってもみなかった」


ピリカはそう呟くと、再び前へ踏み込んだ。

 


一方、マリーとオルドの戦闘も熾烈さを増していた。


オルドの攻撃は、単なる暴力ではない。

それは、祈念を拒絶し、存在を否定する波。

接触すれば、構造が壊れるのではない。

それは、初めから存在しなかったことにされる。


「……なら、私は――あなたの存在を認めて、撃ち抜く!」


マリーは手のひらに祈りを込めた。

セレアがかつて語った言葉を、思い出しながら。


――魂は、器が壊れたときにしか離れられない


ならば、自分がその破壊を担う。


「ユナを、未来を――絶対に渡さない!」


空と地で、祈りと拒絶がぶつかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。