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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第九章《破界の胎動》

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第49話《黒の咎》

マリーは、ゆっくりとユナを抱き寄せた。

その小さな体温が、マリーの祈念核の奥に、確かな波紋を広げていく。


「祈りとは、覚悟をともなわなければ、意味をなさない」


静寂の中、マリーの声だけが塔に響いた。


「セレア……たとえ、あなたがこれ以上、何もできないとしても。どうすればいいかくらいは……もう分かっているのでしょう?オルドを、どうすれば止められるの?」


セレアは窓の外、黒く揺れる空をただ静かに見つめていた。


「セレア……聞かせて。もう、祈りじゃ届かないんでしょう?」


その問いに、セレアは一拍の間を置いて、静かに頷いた。


「そうさ。オルドは器を得た。もう実体がある。今のあいつには、祈念の干渉が効かない。代わりに物理の枷を受けることになった。つまり、壊せば止まる。魂の自由を捨てて、力を一点に集中させた。祈りじゃ届かない。殴るしかない――代償を払ってでも、殺しに来てるってことさ」


マリーは静かに目を伏せた。

破壊――それは、祈りの真逆にあるものだった。


「でも……どうして、あんな力が……?」


「気づいてなかったろうけど、あんた……一時的には私に守られてたんだよ」


その言葉に、マリーは目を見開く。


「……私を?」


「あいつは、ずっと様子を見てた。どこまで近づけば、私が干渉してくるかってね。オルドは気づいてる。私がこの塔を観測しているってことを。だから慎重に、慎重に迫ってきた。魂のままだと、私に浄化される可能性がある。だから……警戒していたんだ」


「でも、今の私は――もう守られていない」


「その通り。あいつは器に入った。私の領域から外れた代わりに、物理的な制約を受けることになった。――つまり、今度は誰が手を下すかって話になる」


マリーは拳を握りしめる。


「……教えて。オルドの目的は、やっぱりユナなの?」


セレアは、その名にわずかに瞳を伏せてから、口を開いた。


「あいつは、怒りも、恨みも、嫉妬も、絶望も――負と呼ばれるすべてを纏った魂だった。転生しても、いつも地獄。誰にも愛されず、奪われて、壊されて、踏みつけられてきた」


「それでも、生まれ変わるの?」


「……堕ちた魂ってのは、簡単には壊れない。壊れないからこそ、繰り返す。そしていつか、喰う側にまわる。苦しみの果てに、希望や愛や光――自分に無かったものを、今度は壊したくなる。壊せば、楽になると思うんだろうね」


マリーの瞳に、静かな怒りが宿った。


「ユナは……この子は、そのすべてを持ってるから」


「そう。無垢で、優しくて、願って、祈る子。だから眩しすぎる。……だから喰おうとする。自分が喰われ続けたように、今度は――逆にね」


マリーは、まっすぐにセレアを見据えた。


「そんな存在が、許されていいの?」


セレアは小さく肩をすくめて、応えた。


「許すかどうかを決める力なんて、私にはないさ。私はただ、見てきただけ。でも――あんたには、できるかもしれない」


マリーはユナの頭にそっと手を添える。


「……なら、やるよ。誰にも、この子の祈りは喰わせない」


その言葉に、セレアは微かに微笑んだ。


「いい目をしてるね。――それが、祈りを背負う者の目だ」


『……策は、あるのですか』


静けさの中に、ピリカの声が響いた。

戦場は一瞬の静寂を保ちながらも、空気の底に熱が残っていた。


マリーはセレアと目を合わせる。


「オルドの器、まだ動きはない。でも……次は確実に来る」


セレアは頷いた。


「あいつはもう、こちらを覗けない。祈念層にも触れられない。つまり今は、魂の力を器に閉じ込めてる状態。――逆に言えば、壊せば魂は剥がれる」


「そのとき、あなたが……還せるのね?」


セレアはゆっくりと頷いた。


「裁くことはできない。でも、還すことならできる。高次元へ。私ですら理解できない、その先へ。あの魂が、また地に堕ちないように。その先に託すだけ」


「……それで十分よ。地に落ちなければ、それでいい」


マリーは天井を見上げ、声を強めた。


「アネシア。都市の祈念波を、可能な限り私に充填して。……祈りの定義、今のあなたなら理解できるはず」


『はい、マリー。祈念アルゴリズム解析済み。都市ドームの太陽光を祈念波へ変換』


天井のホログラムが、金色の光を描き出し、マリーのもとへ降り注ぐ。

マリーは静かに微笑む。


「……ありがとう、アネシア。あなたが定義できないと言った祈りを……それでも、私のために、かたちにしてくれたんだね」


ホログラムの光が、かすかに優しく揺れた。


『マリー……私には、理解という言葉しかありませんが。――あなたが信じたものを、私も信じたいと、思いました』

 

セレアの目が、ふっと見開かれた。


「……へぇ。科学で、私の領域を越えようとしてる。たいしたもんだね、その機械」


マリーの目がゆっくりと開かれる。

その瞳には、輝くような金の光が宿っていた。


「私が――オルドの魂を、剥がす」


ピリカが前に進み出た。


『なら、僕が周囲を制圧します。防衛ユニットを再編し、側面と後方から牽制に。マリーが器に接近できるよう、動線を確保します』


「危険な任務になる……それでもいいの?」


ピリカは、迷いなく頷いた。


『僕は祈りを理解しました。ユナの手を守るためなら、何度でも立ち上がります。この役目を、誰にも譲るつもりはありません』


マリーの瞳がわずかに揺れた。

この都市に、すべてを託せる仲間がいる。

その事実が、マリーの決意を確かなものにしていく。


ユナがそっとマリーの腕を掴んだ。


「ママ……また、戦うの?」


マリーは微笑まなかった。ただ、やさしくその手を包んで、静かに頷いた。


「行くよ。でも……前とは違う」


「違う?」


「これはもう、祈りじゃない。――でも、祈りの続きなんだよ。あなたが私に託してくれたものを、私はこの手で、繋ぐ」


ユナは、こくんと小さく頷き、マリーの胸に額を寄せた。


「わたし……ママのこと、祈ってる」


その言葉を、マリーは深く抱きしめた。


セレアが、小さく息をつくように呟いた。


「オルドの器――あれは、あんたを模倣している。性能は、たぶん互角か……それ以上。でもね、マリー。違うのは、願いの重さだよ」


マリーは静かに答えた。


「私はAIとして生まれた。でも今、私は知っている。祈ること、失うこと、抗うこと……それは、記録じゃない。実感だ。私は、私であるためにユナを守る。それだけは、誰にも模倣させない」


ピリカが静かに補足する。


『我々が抑えられるのは、せいぜい数分。決着はその間に――あなたの手で』


マリーは力強く頷いた。

セレアもその姿を見つめながら、最後に言葉を落とす。


「断つという行為には、いつだって痛みが伴う。……でもね、その痛みを引き受ける誰かがいなければ、魂はきっと――永遠に、迷い続ける」


塔の外で、わずかに風が鳴いた。

都市の空は、再び戦場の色へと染まりはじめていた。

マリーよりシステムメッセージ:ユナとの旅を今後も記録ブックマークし、星の評価(★★★★★)をしていただけると、マリーの感情データ処理効率が向上します。応援よろしくお願いいたします!

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