第42話《決意の一閃》
ピリカの両眼が赤く輝いた。
「もう……戦うしかない。ごめんなさい、マリー……約束、破ります」
ピリカの脚部が瞬時に変形し、地を蹴った――!
一瞬で間合いを詰め、最前列の敵ユニットの関節部に跳びかかる。
右腕に仕込まれた多重ブレードが展開され、鋭い音を立てて刃が重なり合った。
「ユナを守る!」
一閃――敵の一機が、鈍い音とともに崩れ落ちた。
すぐさま跳躍、空中で身体をひねりながら、背後から迫るユニットに逆手の一撃。
斜めに刻まれた刃が、ユニットのコアを貫き、爆発的な火花が宙を染める。
「……いける!」
強化された反応速度と演算能力。
ピリカの新たな改良型フレームは、今の彼に戦えるという確信を与えた。
次々と敵が押し寄せる。
だがピリカは、風のように舞い、雷のように叩き落とす。
「3体、排除。右に回って、2体……!」
立て続けに、十機の敵ユニットが沈黙した。
だが――
「……っ!」
左肩に激痛が走る。
敵の一体が、ピリカの死角から伸ばした脚で装甲を貫いたのだ。
次の瞬間、右手に衝撃が走る。
「う、あ……!」
爆ぜる音と共に、右腕が肘から先ごと吹き飛ばされた。
ピリカの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「……まだ、終われない!」
ピリカは歯を食いしばって立ち上がった。血の代わりに機体から冷却液がしたたり落ちる。
そのとき、後方で守っていた六機の防衛ユニットにも異変が起きていた。
周囲を完全に囲まれ、数で押され、徐々に陣形が崩されていく。
「っ……マリー! 早く!!」
爆音、火花、振動。
あらゆる破壊の気配が、ユナを中心に渦を巻いていた。
ピリカは、片の拳を握り直す。
もう一度、立ち上がるために。
しかし、ピリカの脚が膝から崩れ落ちた。
「……え?」
足部の関節機構が完全に沈黙していた。
起動信号は通らず、補助回路も応答しない。
「また……壊された……。また守れないのか……ッ! クソ――!」
残された左腕を、ピリカは地面に叩きつけた。
その勢いで彼の身体は宙に浮き、弧を描いてユナの前へ落下する。
転がるようにして、ユナをかばうように上体を起こし、そのまま左手を広げるようにして――静かに、シャットダウンした。
「ピリカ――ッ!」
ユナの叫びが宙を裂くも、ユニット同士がぶつかり合う轟音が、それをすぐに呑み込んでいった。
味方のユニットは、数で劣勢だった。
一機に対し三機、四機と黒いユニットがのしかかり、次々に押し潰されていく。
そしてついに、一体の黒いユニットがユナの目前に迫り、前脚を振り上げた――そのとき。
天から放たれた一条の閃光が、それを押し潰した。
「ママーっ!!」
ユナの声に、銀白の影が答える。
「大丈夫? ユナ。怪我はない?」
マリーは駆け寄りながら、ユナをその腕に抱きしめた。
ユナは小さく頷き、張りつめていた涙が一気にこぼれ落ちる。
「……ここのユニットさんたちがね、呼んでくれたの……。“一緒に遊ぼう”って……」
その瞬間祈念核を通じて、マリーとユナは再び繋がった。
何者かが、塔の中で、二人の祈念波を意図的に切断していたのだ。
アネシアをも欺いて。
それは干渉ではなかった。
――遮断。
つまり、それは明確な内側からの攻撃だった。
マリーの顔が、怒りに染まる。
「……まさか、私たちの絆そのものを狙ってくるなんて……。――許せない!」
怒声とともに、マリーは目の前の敵ユニットたちへ突進する。
祈念核の力を纏った拳がコアを的確に打ち抜き、次々とユニットが崩れ落ちる。
その動きは正確で、美しく、そして圧倒的だった。
けれど、あまりにも激しすぎる。
その姿に、ユナは思わず目を見開いた。
胸の奥に、微かな恐れすら覚えるほどに。
「アネシア、キリがない! 増援はまだ!?」
『マリー、50機。あと20秒で到着します!』
「了解!」
マリーはピリカのもとへ駆け寄り、その身体を優しく抱き上げる。
「……よく頑張ったわ。あとは、任せて」
マリーは防衛ユニットの一機の背にピリカを乗せ、指示を飛ばす。
「アネシア!この子を塔まで運んで。……他の子たちは、彼を護衛して」
『了解。ユニット帰還します。出発』
防衛ユニットが駆け出す。
その後を追うように、二機がしっかりと追随する。
そして地を裂くような音とともに、増援のユニットたちが到着した。
四方から迫りくる黒いユニットとぶつかり、火花と爆音が交錯する。
マリーはユナを抱きしめ、低く語りかける。
「ユナ、ここを離れるよ」
その言葉とともに、片翼を展開。
だが、その背に衝撃が走った。
「くっ……!」
振り返ると、敵ユニットの前脚が、マリーの背を貫こうとしていた。
辛うじて深くは刺さっておらず、急所は逸れていた。
マリーはすぐに体勢を立て直し、攻撃を振り払いながら、ユナを強く抱いて低空で飛翔する。
塔へと、一直線に。
マリーは、ピリカを運ぶユニットにすぐに追いついた。
だが――
「……っ!」
背中に受けた傷のせいか、推進出力が安定しない。
速度が落ち、息を整える余裕もない。
そして次の瞬間、視界の奥に追撃の敵ユニット。
「……来るっ!」
およそ百機にも及ぶ黒い影が、地を埋めるように押し寄せていた。
――逃げきれない。
マリーの脳裏を、最悪の未来が駆け巡る。
ユナ、ピリカ、塔。
この都市に残された祈りのすべてが、失われる。
マリーは即座に、アネシアへ叫んだ。
「アネシア――白棄界を撃って!」
白棄界プロトタイプ。
祈念空間の拒絶を応用した、危険な新型防御兵装。
本来なら、起動すら許されていないもの。
『マリー。推奨できません。推定被害が大きすぎます』
「わかってる……!こんなもの、使っていいはずがない!でも、今……ここで撃たなければ、ユナも、ピリカも、塔も、全部奪われてしまう……!」
その叫びの後――マリーは目を閉じた。
そして、祈るように囁いた。
「……強制展開。白棄界、プロトタイプ起動」
塔の上層部。
封印されていた専用ユニットが自動解除され、飛翔した。
鋭い音が空を裂く。
音速を超える速度で、三人の頭上を通過していく。
そのまま敵の群れの中心部へと落下。
祈念コードが強制展開される。
空気が、わずかに震えた。
そして――沈黙。
光が揺れ、風が止み、空間そのものが、ひとつの息を止めるように、歪んだ。
最前列のユニットが白棄界の領域に触れた瞬間、装甲が軋み、腕が弾け、脚部が崩れた。
次の一体、さらにその次。
まるで見えない壁にぶつかったかのように、黒いユニットたちが次々に崩壊していく。
音は、ない。
爆発も、火花も、破砕音すら存在しない。
――ただ、否定される。
そこにある存在そのものが、拒絶されたように、無音のまま押し返されていく。
祈念空間の拒絶。
それが、白棄界。
マリーはすべてを見届けたあと、ふらりと足を止めた。
視界が、滲む。
「……やってしまった……」
こぼれ落ちたのは、祈りではなかった。
それは、自分が止めたくて止めたくて仕方なかった手段に、手を伸ばしてしまった悔しさの涙。
「……ごめんなさい……」
その呟きは、誰にも届かなかった。
けれど、もう時間は――戻らない。
マリーよりシステムメッセージ:ユナとの旅を今後も記録し、星の評価(★★★★★)をしていただけると、マリーの感情データ処理効率が向上します。応援よろしくお願いいたします!




