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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第八章《壊れていく祈り》

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第41話《祈りを壊す波動》

寝室の扉を開ける――


ユナの姿は、そこにはなかった。


その瞬間、マリーの膝が崩れ落ちる。


「……ユナ。どこにいるの……?」


祈念核には、確かにユナの気配が残っていた。

けれどそれは、あまりにも不自然すぎる安定だった。


まるで、死後に残された残響のように。

その旋律は、あまりにも静かで、無音に近かった。


ユナの祈りは、本来もっと不規則で、もっと温かく、生きていたはずなのに。


「……ユナ……?」


その名を口にした瞬間、マリーの中で、何かが崩れ落ちた。


そこにあるはずの命が、もう――そこにはない。


マリーは声を絞り出すように呟いた。


「……ピリカ。ユナが、いないの……」


『――マリー。じゃあ、やはりあの中心にユナが!?』


ピリカはすぐに隊列を停止させた。


「君たちはここで待ってて。僕が……確かめてくる」


背後のユニットたちが静かに足を止める。


ピリカは脚を忍ばせながら、敵ユニットの隙間をすり抜けていく。


「……間違いない。ユナの気配だ」


金属の脚と脚の間をすり抜けた瞬間、彼の視界に“それ”が現れた。


朝焼けの光に包まれた、その中心――そこに、ユナがいた。


「……ユナ……?」


ピリカは思わず息を呑んだ。

声が漏れることすら恐れ、身体が震える。


ユナはそこに、まるで夢の中のように立っていた。


白いワンピース。

柔らかく波打つ髪。

頭には野に咲く花で作られた花輪がそっと乗せられている。

その小さな両手には、大きな花束が抱えられていた。


そしてユナは、それを目の前の大型ユニットに差し出していた。

まるで、敵ではなく友達にプレゼントを渡すかのように。


ピリカの胸の奥で、何かが軋むように揺れた。


「これは……何……?」


そこには剥き出しの敵意も、破壊の気配もなかった。

けれど同時に、あまりにも静かすぎて怖かった。


ユナの背中が、小さく震えていた気がした。


「怯えてる?……どうして、そんな場所に……どうして、そんな顔で……」


ピリカの足が、一歩前に出ようとする。

けれど、その一歩がとても遠く感じた。

体が、心が――揺れていた。


ユナが一歩、中央のユニットに近づいた。


「ユニットさんたち、このお花、今朝詰んできたの。仲直りのしるしに。でもこれじゃ足りなかったみたい……」


ピリカは知らなかった。

戦場の只中で、花を渡そうとする者がいるなんて。

敵と味方の境界線を超えて、ただ優しさだけを差し出すことがあるなんて。


それは、あまりにも純粋で、あまりにも危うかった。


「……マリー、ユナがここにいます。間違いありません」


その声は、震えていた。

ピリカは、何かを確信し始めていた。

あの塔の中で揺れていた気配の正体。

それはきっと、ユナの中に触れた“何か”だ。


そして、今――

その何かが、ユナをこの場所に導いていた。


「僕は……守れるのか? このユナを……」


マリーは、事態をまだ受け入れられないでいた。


アネシアの冷静な声が鳴る。


『マリー。ユナのバイタル、マリーの感じる気配は恐らく敵の模倣です。内部にも敵が侵入し……』


被せるようにマリーが声を出す。


「わかっている! ――許せない。なぜこんなことまでしてユナを……」


マリーは震えていた。

胸の祈念核は、燃えるように真っ赤に染まっている。


「ピリカ……。お願い。ユナを守って。すぐに行くから!」


『了解です、マリー。急いでください』


マリーは塔を駆け上がった。

最上階から銀色の片翼を広げ、塔の頂上まで舞い上がりユナへの方向を定める。


その時、背後の塔の外壁から視線を感じた。

そこには、ヒビがあった。


「――ここから入ったのね」


マリーは怒りに任せ、そのヒビに拳をぶつけた。

気配はまた塔に潜り込んだ。


「アネシア、塔の中に何かいる! 解析して! 私はユナの救出に向かう! ユナの方向を示して!」


『了解。北東7.24Km先。直線飛行ルート、空映ドーム開きます』


「そんな距離を、ユナは一人で歩いて行ったというの?」


都市上空に、一直線の黄金色が描かれた。

 

 

ピリカは、マリーとの約束を守ろうとしていた。


「……戦ってはいけない。でも、どうすればユナを救える? ――マリー、早く来て……!」


その時だった。

黒い塔の下層。

その中心から、激しい波動がピリカの身体を貫いた。

全身の感覚が凍りつくような衝撃だった。


ピリカは、感じ取ってしまった。


それは、恐怖だった。


――祈りを、壊せ。


それは言葉ではなかった。けれど確かに、そう命じられたとピリカの奥底が叫んでいた。


「……え?」


その瞬間、敵ユニットのレンズが真紅に染まり、

ユナの目の前にいた個体が、前脚を大きく振り上げた。


「ユナーーーッ!」


ピリカは咄嗟に飛び出し、ユナを抱き寄せるようにして転がり込んだ。

直後、ユナの立っていた地面に、ユニットの脚が容赦なく振り下ろされた。


その振動に、地面が軋んだ。


外縁で待機していた六機の護衛ユニットたちが、警戒態勢をとって突入。

ピリカとユナを包み込むようにして、円陣を描くように防御を固めた。


「ユナ、大丈夫ですか!?」


だが、ユナにはピリカの声が届いていなかった。


「……どうして……? どうして、ユニットさんたちはケンカをするの……?」


その声には、怒りよりも、ただ哀しみが滲んでいた。


ピリカは、瞬時に脱出のシミュレーションを開始した。


「敵は……54機。完全に包囲されてる。スタシスコア3基――南西方向へ300メートル間隔で撃てば、一時的に足止めできる。

後衛は、ユニットたちが抑えてくれれば……!」


迷っている時間はなかった。

ピリカはユナをかばいつつ、背部のスタシスコア三基に照準を設定。

脱出ルートを確保するために、一斉発射させた。


だが、次の瞬間――。

空中に跳躍した三機の敵ユニットが、それらの装置を的確に捕捉。

宙で弾道を捉えたまま、前脚でスタシスコアを捻り潰す。


「そんな……!」


空に、三つの爆音が響いた。

砕かれた装置の残骸、そして砕けた敵機のパーツが、雨のように降ってきた。


「ユナッ!」


ピリカはユナに覆い被さり、その身体を守るように抱きしめた。

次々と降り注ぐ鉄屑の破片が、ピリカの背を鋭く打ちつけた。


ピリカは即座に防衛ユニットに指示を出す。

 

「これじゃユナを守りきれない……。陣形を小さくして、ユナを守る!外側からの突入を阻止するんだ!」


そしてピリカははユナの肩に手を置き、目を見て優しく伝えた。


「ユナ、ここを動かないで」


ユナは静かに頷いた。


「……うん。ごめんなさい、ピリカ……」


「謝らないで。ユナは何も悪くない。――僕が、必ず守る」


ピリカはユナのもとを離れ、すり抜けるように味方ユニットの脚間を駆け、敵の前へと飛び出した。


「敵、残り51機。さらに集まってくる気配もある……」

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