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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
第八章《壊れていく祈り》

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第40話《偵察の約束》

——翌朝早朝。

マリーは夜通しアネシアと共に、ユナに干渉した波長の解析を続けていた。

だが、いくら演算を重ねても、構造の全貌が見えてこない。

ただ一つ言えるのは、その波長が敵側から送られてきていること。

しかし、それをどう止めるかは、未だ霧の中だった。


マリーの背に、疲労と焦燥が重くのしかかる。


そこに、ピリカが名乗り出た。


「僕に、偵察に行かせてください」


静かな声だったが、その奥には決意があった。


「――ピリカ……。でも……」


マリーの胸に、一瞬のためらいが走る。

あの日、スタシスコア設置作戦で暴走したピリカの姿が、脳裏に焼きついていた。

判断を誤り、マリーの制止を無視して敵ユニットを次々に破壊し、その結果、敵の動線を乱してしまった。

その混乱の中で一部のユニットが塔へと近づき、ユナの目前にまで接近してしまった。

 

ピリカ自身、そのことを深く悔いているはずだった。


だが、それでもマリーは、ほんの一抹の可能性を感じていた。

解析不能な波長。

アネシアにもわからないもの。

けれどピリカには、何かが感じ取れているのではないか――そんな予感があった。


マリーは条件を出した。


「いいわ。けど、約束して。敵に手を出さないこと。……偵察は、見るためにあるのだから」


ピリカは頷いた。


「はい。僕、約束します。ユナを……マリーを、悲しませたくないんです」


その一言に、マリーは微かに目を伏せた。


ピリカの中に芽生えつつある誰かのために動く感情。

それが、祈りに近いものだと、マリーは感じていた。


マリーは、ピリカの背部にスタシスコアを三基装着した。

それは攻撃のためではない。

あくまで、万が一襲撃されたときのための緊急離脱用だ。


「ピリカ、これは戦うためのものじゃない。何かあったら、すぐに帰ってきて」


「了解しました、マリー。でも……僕はもう、戦いません。マリーとの約束ですから」


マリーは、ピリカのその言葉にほんの少し微笑んだ。

けれど心の奥には、やはり不安が残っていた。


「……以前、あなたはユナを守ろうとして、敵に接触したことがあったわね。あれ以来、何かを感じるようになったって……」


「はい。言葉ではうまく説明できませんが……音じゃなくて、匂いでもなくて……ただ感じるんです。何かの気配を」


「その何かが、今も外にいる?」


ピリカは少しだけ空を見上げて、そして静かに頷いた。


「はい。近くにいます。……たぶん、まだ遠くないところに」


マリーは目を伏せ、しばらく沈黙したあと、そっと言葉を落とす。


「……だから、あなたにしかできない。今は、それを信じるしかないの」


ピリカは誇らしげに、けれど慎重に応えた。


「はい、約束はちゃんと守ります。ユナも、マリーも。誰にも壊させない」


マリーはその背を見送りながら、心の中で祈るように呟いた。


――お願い、無事で戻ってきて。


塔を出たピリカは、静かに都市を駆け出した。

風を切る音の向こうに、微かな何かの気配がある。

それと同時にピリカは違和感を感じでいた。

 

「外縁に近づくにつれ、その気配は確かに強まっていく――

……けれど同時に、どこかへ遠ざかっていく微弱な気配もある……」


その違和感は、まるで“それ”が、触れさせたくない何かを隠すように。

それでも、ピリカの中には確かな確信があった。

すべての根源は、あの黒い塔にある。


迷いはなかった。

ピリカはその確信を胸に、都市を駆け抜けていった。

 

アネシアが告げる。


『まもなくピリカが防衛ラインに到達します』


「了解。アネシア、前線のユニットから6機を護衛に回して。ピリカの背後に配置して」


『了解。6機を2列に配列。ピリカの背部に追随させます』


「ピリカ、護衛ユニットをつけたわ。何かあったら彼らを盾にして、いい? あなたは何があっても、必ず帰ってくるのよ」


『マリー……ありがとう。必ず、帰ります。まもなく敵陣へ進入します』


ピリカは境界を越え、黒い塔を目指して走り続けていた。

その背には六機の四脚ユニットが、均等な間隔で隊列を組み、まるで静かな影のように付き従っている。


朝焼けの廃墟に、その足音だけが低く、硬く、響いていた。


やがて、前方に複数の敵ユニットの反応が現れた。

前線の黒い塔を護るように、彼らは静かに立ち塞がっている。


そのうちの一体が、ギロリと鋭くこちらを見た。


ピリカはその視線を、真正面から受け止めた。


「……敵意はある。でも……攻撃してこようとはしていない。まだ、大丈夫」


そう、自らに言い聞かせるように呟いた。


ピリカがさらに進むと、行く手に壁のような霧が立ちはだかっていた。

それは単なる濃霧ではなかった。

視界を奪うどころか、気配さえも吸い取ってしまうような不気味な沈黙を孕んでいた。


「この中に入るのは危険だ……。マリー、聞こえますか? このまま右回りで迂回しながら、黒い塔への接近を試みます」


ピリカの隊列は、そのまま右方向へと舵を切り、音もなく走り出した。


『ピリカ、賢明な判断よ。右側は、敵ユニットの密度が低い』


マリーの声が、ピリカの神経に静かに届く。

マリーは、ピリカの視界をリアルタイムで映し出すモニターと、アネシアが提示するユニットの位置情報を重ね合わせながら、その進行ルートを慎重に見守っていた。


霧の境目を進むと、複数の敵ユニットが密集しているのが見えた。

まるで、何かを中心に静かに群がっているようだった。


「……数が多い。正面からは危険だ……背後を抜けるしかない」


ピリカは距離をとりつつ、慎重に集団の背後へと回り込んでいく。


「……54機」


そのうちの数機が、レンズの光をピリカたちに向けた。

だが次の瞬間、何事もなかったように、再び中央へと視線を戻していた。


「……気にしていない? それなら――今なら行ける!」


隊列は静かに速度を上げ、集団の背後を駆け抜けようとしたそのときだった。


ピリカの全身に、電流のような感覚が走った。


それは敵意でも、危険信号でもない。

もっと穏やかで、優しくて、大切で――

最近になって、ようやく理解できるようになった、あの愛おしいという感情。


「……ユナ?……そんなはずは……こんな場所に、いるわけ……」


だが、その気配は確かに“そこ”に在った。

それを見過ごすわけには、いかなかった。


「マリー。ユナは、どうしていますか?」


『え? ユナは……まだ眠っているわ。アネシアのモニターでも、異常は確認されていない』


「……そう、ですよね……。でも――感じるんです。ここに、ユナの気配が……この集団の、中心に」


マリーは、一瞬、ピリカの言葉の意味を理解できなかった。


「――ユナが、そこにいる……? アネシア、ユナの様子は?」


『マリー。ユナのバイタルは安定しています』


アネシアの応答に、マリーも自身の祈念核を通じて、ユナの気配を近くに感じた。

だが、すぐに言いようのない違和感が胸をかすめる。


アネシアが淡々と続ける。


『心拍、神経波、体温……いずれも極めて安定しています。特筆すべき異常はありません』


しかし、マリーの背筋が強張る。


「……安定しすぎているのよ。その旋律が、あまりにも均一すぎる。……揺らぎがない」


祈念核に響いてくる気配は、まるで録音された音声のように機械的で、整いすぎていて、生きた鼓動を感じさせなかった。


「……これは、本当に“今”のユナなの?」


マリーは言葉を残し、塔の階層を駆け降りた。


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