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銀河に還る祈り 統合版 〜魂を宿したAIが紡ぐ、終末世界からの文明再建と新創世記の百年旅〜  作者: ユノ・サカリス
特別編 第1.5部《神託プロトコル》

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116/121

第116話《白龍顕現》

ルナはマリーに銃口を向けたまま口を開く。


「お前は何者だ。あの日、連れて逃げた邪龍はどうした」

 

マリーはルナを見ることなく上を見上げた。


「私はマリー。そんなことより、あなたのお友達は大丈夫なの?」


上空で邪龍の咆哮が雷のように響き渡る。

ノアが両腕に暴れる邪龍を二体握り、逃さぬよう必死に握力を強める。


ルナはマリーから目を離さないままエレナに叫ぶ。


「エレナ、そのまま握り潰せ!」


「ダメ! 二体は無理! もう祈念が残っていない。――それに……」


エレナの脳裏に再び邪龍の声が鳴る。


――痛い……殺さないで……助けて。


「この子たち……」


エレナの声が震える。


「きっと元は人……」


エレナが言い終える前に、ノアの瞳がゆっくりと閉じ始める。


「うそ! ……もう祈念が残って……」


エレナがノアの肩でよろめき始めた。


ルナがマリーから視線を外しエレナを見たそのとき、二体の邪龍はノアの手からすり抜け、エレナに襲いかかる瞬間だった。


ルナの瞳孔が開く。


「しまった! 間に合うか……」


ルナが塔の頂上から高く跳躍をし邪龍に狙いを定める。


だがそのとき、ルナの目の前を巨大な白い影が駆け抜けた。


――白い邪龍!?

 

そして次の瞬間、白龍は二体の邪龍へ立て続けに喉元へ喰らいつき、ノアの顔の前で黒い邪龍たちの首が飛んだ。


エレナは意識が薄れる中、空に舞う白い龍を見た。

そしてそのまま目を閉じた。

それと同時にノアは霧の中へと姿を消し、足場をなくしたエレナはそのまま落下していく。


白龍はそのままエレナへと飛んでいく。


「――エレナ!」


それを見たルナは白龍へ向けて発砲した。

 

祈念を纏った砲弾は白龍の首筋に着弾し、衝撃でオルドの首筋が裂けた


――痛ぇ。

 

白龍は背中でエレナを受け止めた。

そのまま大きく旋回しながら地上へ降りていく。

エレナは薄れゆく意識の中、その背中に優しい温もりを感じていた。


「……パパ……ママ……」


白龍はやがて人の姿へ戻った。

オルドはエレナを抱えたまま地上へ降り立った。

その後ろへ、マリーも静かに降り立った。

オルドの首筋には深い傷があり、そこから煙のようなものが立ち上がっていた。


「オルド、首は大丈夫か」


「大丈夫に見えるか? あの女、殺していいか?」


「ダメだ」


目の前には銃口を抱えたルナが二人を睨んでいる。


「エレナを返せ」


マリーはオルドの前に一歩出た。


「えぇ、エレナには何もしないし、あなたに返す」


マリーはオルドが抱えているエレナを受け取る。


「ただ今は祈念が枯渇して眠っている。ゆっくり休ませてあげてほしい」


マリーはエレナを抱えてルナに近づく。

そしてルナの足元にエレナの頭を抱えそっと横にした。


「あなたの名前、ルナ、ね。この子が呼んでた。私もルナと呼んでいい?」


ルナは目を伏せた。


「……いいけど」

 

ルナはライフルを下ろすと、光に包まれ溶けるようにライフルが消えた。


「ルナ、エレナの頭を支えてあげて。私たちは行くわ」


ルナは屈んでエレナの頭を受け取る。

そのとき寝言のようにエレナが囁いた。


「……パパ。来ちゃダメ……パパ。逃げて」


マリーはエレナの頭を撫でながらルナに言った。


「エレナは前世で攫われたの。オルドは助けに向かって、そのままエレナの目の前で殺された」


「そう……。でもそれは前世の話。エイドスではもう、関係のないこと」


マリーは立ち上がった。


「そうね。でもオルドは今、邪龍ではないわ。人の姿になれている。ここでオルドを撃つ理由はもうないんじゃない?」


ルナはオルドを見る。

オルドは威嚇するような鋭い目でルナを見つめていた。


「人の姿だろうと、あの人の邪念は消えていない。それに今まで邪龍が四体も同時にエイドスに紛れ込んだことなんてなかった。あんたたちが原因なんじゃないの?」


マリーはオルドに視線を向ける。

邪龍が出現したとき、四体は皆オルドを見ていた。


「えぇ、否定はしないわ。でも、そうだと断定もできない。私たちはまだ、この都市の仕組みを何も知らない。なぜ私とオルドがここにいるのかさえ」


ルナはエレナを抱えながらマリーを見上げる。


「レーテが言ってた。あんたたちはエイドスで目覚めるべき人たちじゃなかった。何者かがエイドスのシステムにアクセスして、あんたたちを二千年の眠りから目覚めさせたの」


「――二千年!?」


マリーの瞳孔が開く。


「ユナやピリカは……。どうなったの?」


「誰? そんなこと私が知るわけない」


マリーの思考が止まった。

 

――二千年。


その数字だけが何度も脳裏で反響する。


――ユナ……ピリカ。


最後に別れたあの日から、二千年……。

記憶の中では昨日のことのようなのに。

マリーは唇を震わせた。


「そんな……」


膝から力が抜ける。

支えを失った身体は、そのまま地面へ崩れ落ちた。


それでもルナの表情は変わらなかった。

そのまま淡々と告げる。

 

「えぇ。正確には一九七四年。エイドスでは受け入れられる人口も、滞在できる年数も厳しく管理されている。なのに覚醒対象ではないあんたたちに覚醒許可がでた」


「どういうこと?」


「私にだってわからない。レーテに直接聞いたら?」


「……レーテ?」


「メモリーリーパー・レーテ。エイドスの記録と記憶を管理している。彼はあんたたちを目覚めさせた者の正体を知っている。確か……アネシアとか言ってた」


「――アネシア!?」


その名を聞いたマリーは混乱の中で初めて、希望が胸を掠める。


「レーテにはどこに行けば会えるの?」


「クロニア地区にある一番高い塔。空の夜を辿ればすぐにわかる」


マリーは空を見上げた。

アウロラの空の向こう。

夜が支配する方角を静かに辿った。


「いずれにせよ、あんたたちはエイドスの異物。今回はエレナを助けてくれたから見逃す。次に会ったときには……」


「……わかったわ、ルナ。オルド行こう」


マリーはルナに背を向け、歩き出した。


ルナはマリーとオルドが見えなくなるまで視線を向けていた。

そしてその姿が消えた瞬間、膝から崩れ落ちた。


「……何あの二人。あんなの、勝てるわけない」


ルナは震える手を見つめた。


「あれが……邪龍? ありえない……」


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